第23話 カンナのインターハイ
わたしの出場する最初で最後の全国高校総体──通称インターハイ──その舞台は岩手だった。近い。がっかり。前年は京都で開催されていたと聞いて、あと一年遅く産まれていれば! 岩手なんて青森のすぐ下じゃん! とキレ散らかしたのを覚えている。怒ってもどうしようもないことなのは分かっていたけれど、何か気が収まらなかったのだと思う。
浅井監督から「試合終わったらわんこそば食わせてやるから……」と諌められて、わんこそば? そば⁉︎……いいよ♡とハートマークを作って可愛く回答したら頭を叩かれた。あれ、すっげえ痛かったなー。
初日は開会式があって、カンナが東北チャンピオンとして出場する女子千五百メートルはいきなり本番だ。予選は四組あって、三着までに入れば翌日の決勝に進める。一応四着以下でも何人かはタイムの順に拾われるけれど、カンナならそんな心配はいらないだろうと椅子にどっかと腰掛け、腕組みしてレースのスタートを待っていた。
ところが、である。やはり全国の選りすぐられた選手たちのスピードは違った。カンナは懸命に粘って走っていたが、それでもジリジリと上位勢に差をつけられてしまう。最終周で各自スパートに入ると、差はさらに広がって勝負は決した。カンナは最終的に一組の五着でゴールした。その後の組のタイム次第でまだ決勝進出の可能性は残していたが、それがかなり厳しいことは明らかだった。
レースを終えたカンナは、わたしたちの応援席の前まで来て、手を合わせてお詫びしていた。よかったよ! 攻めてたよ! そうわたしは声をかけた。詫びる必要なんて何もないと思ったのだった。そう、練習の成果は出ていた。一年生の頃はレースで攻め切れないこともあったカンナだが、この日は果敢なレースぶりだった。このハイレベルのレースで勇気を持って戦うのは言うほど簡単なことじゃない。ましてや、着で拾われるレースだ。人間の心理として、控えて漁夫の利狙いをしてしまっても何らおかしくない。それでも攻められた。カンナは、練習で身体だけでなく心も強くなっていた。
もちろん、素直な気持ちでは聞けなかったかもしれない。東北大会を制したからこそ、目に見える結果を求めて頑張ってきたのだから。それでも、わたしはカンナには自分を肯定してほしいと願っていた。
「格上相手によく走れたわ」
ぽつりと、浅井監督はそう言った。
「蕪木にはまだ先があるからな。あのレースができるなら、この先も大丈夫だ」
先とは、大学のことだ。カンナは福島の大学に進むことが内々で決まっていた。そして、そこでも陸上を続けることが決まっていた。
まだ走り続けるんだよな、カンナは。卒業したら実家の定食屋を継ぐことが決まっているわたしには、そんなこととても想像できなかった。
「私のインハイ、あっさり終わっちゃったわ」
三日目の夜、宿舎で同室だったわたしとカンナは窓際でオレンジジュースの瓶を開けて一杯やりながら向かい合っていた。
結局千五百で決勝に進めなかったカンナは、この日の女子八百メートル予選で奮戦した。三位になり、タイムで準決勝に拾われたのだ。専門外の八百の方が良い結果になるなんてね、とわたしは笑いながら言った。
「ホントだよ。まあ、あっさりってほどではないか。一応準決走れたもんね。完敗だったけど」
八百は一日で二本走る。準決勝はさすがに相手が強かったが、それでも力を出し切る走りは出来ていた。初日より三日目のこの日がさらに良いパフォーマンスになっていたし、わたしはカンナのインターハイは立派なものだったと思っている。
「東北大会で優勝してからずっと、プレッシャーだった。何としても結果出さなきゃ、って……今思えば気負いすぎだったかもしんない。初日も今日みたいに肩の力抜いて走れたらあと一人くらいは抜けて、ギリギリ決勝に乗れてたかもしれないなぁと思うと……悔しいわ」
そう言って、カンナは気持ちを紛らわすようにニカッと笑顔を作っていた。その顔を見ていると涙がこぼれそうだった。無理をしているのが分かったからだ。
カンナはそれを察してか、わたしの頭にぽんと手を置いて、くしゃくしゃにした。そして顔を近づけてこう言った。
「よっちゃんが泣くのはまだ許さないよ。泣き顔は最終日に見せて」
翌日の四日目は女子三千メートルの予選があった。それを突破すれば、最終日となる五日目は、大会を締め括るメインイベントの一つとして決勝が行われる。
とりあえず、予選は軽く突破しとくわ。本当言うと自信はなかったが、カンナの全力を見せつけられたあとにそんなことを口にできるはずもなかった。
とりあえず、力を出し切ろう──そう決意したわたしの思いとは関係なく、時とともに三日目の夜の
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