第15話 来年で終わりだよ

 東北大会は楽しかった。いっぱい遊んで、いっぱい食べて、いっぱい喋って。だけど、心のどこかにモヤモヤしたものが残っていたことも、また事実だった。

 青森は狭かった。自分なんて全然弱い。内心、ちょっとは強くなっているのでは? と自信を持っていたが、それがまだ過信だったということを突きつけられた高校二年の仙台旅行だった。

『心底楽しみ切るためには、レースで結果出した方がいいんだ』

 わたしは、浅井監督の言葉を思い出していた。そのとおりだった。レースで結果を出さないと。それはつまり、自分で自分に納得できないと……心底から楽しみ切れないということだった。


 そう分かっていながらも、わたしは相変わらず手を抜いた練習をしていた。タラタラと学校のグラウンドを流していると、隣から鋭い風が吹き抜けていった。

 カンナだ。いつもならわたしとお喋りしながら並走していたカンナが、目の色を変えて本気で練習に打ち込んでいた。

「アイツは、東北のレベルを知って刺激を受けたんだべ」

 練習の合間にそうわたしに話しかけてきたのは浅井監督だった。それっきり何も話さなかったが、目線だけは私の方に向かっていた。

 お前はどうすんだ?

 そんなふうに思っていたのかもしれない。真相は不明だけど。生きてるうちに聞かねーとな……。


「インターハイに行きたい」

 そう、カンナがはっきり口に出して言ったのもこの時期だった。季節は秋の入り口だった。

「県大会レベルなら十分に通用する。だけど、東北ではそれじゃ勝てない。県大会みたいな走りを東北で再現できなきゃ、全国なんて行かれないべさ」

 なるほど、とわたしは納得していた。ここのところのカンナのキャラ変は、目標が一段高くなったゆえだったのかと。

「……そのチャンスは来年だけだよ。来年でウチらの陸上生活は終わりなんだよ。よっちゃんはどう思う?」

 話を振られてわたしは内心焦った。なんとなく、いつもの調子でネタにしてヘラヘラ返したらいけない気がしたのだった。わたしは、どうしたい?

 やっぱ、ちょっと頑張りたい。だって、来年で終わりだよ? 来年の夏で部活が終わって、それからは調理師免許を取るための勉強とかもしないといけなくなる。言うなら、青春の終わりみたいなものだと思っていた。

 なら、その最後は、なるべく自分で自分を認められるようなものにしたい。どうやら、それがこの時のわたしの本音であるらしかった。

 ……マジでやる? 熱いテンションが苦手なわたしは、上目遣いで問いかけるようにそう返答した。

「マジでやろ! 目標はインターハイ出場! 私は千五百、よっちゃんは三千! そこに絞って練習しよう」

 複雑な気持ちだった。だって、マジでやるのは大変だから。しんどいから。楽しくなくなるかもしれないから。でも、どっちにせよ、良い結果出せないと楽しくないからなぁ……。

 だから、わたしは決めた。今までとなるべくテンションを変えずに、でも、今まで以上にやる。それはどこかに無理が出そうな気もしていたが、でもあと一年だからね〜、なんとかなるよね〜、って思うことにした。

 今にして思えば、この二年生の秋から冬にかけてのあたりに、明確に今へと繋がるポイントが一つあったのだけれど、その答えがわかるのはまだ先の話だ。とりあえず、わたしとカンナはインターハイへ行こうと決めた。この県立の、ごくごく普通の陸上部から。

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