第8話 ゲーム配信2
「やるぅ~! でもあたし、いいとこなし~……」
回復を終えたゆっこんが万全の状態になるが、戦いはすでに終了していた。
『ゆっこん大丈夫』
『気にしないで~』
『次だよ、次』
『KANATAとYちゃんって、知り合いですか?』
しょげるゆっこんのフォローに、たくさんのコメントが寄せられる。
「みんなありがとう! よーし、もう装備は完璧。4-8倍スコープのチャージャーガンにエナジーボルト! どう?」
次は活躍するよー、とゆっこんが意気込む。
物資は配置されていたもの以外に、倒した敵からも奪うことができるため、多くの戦闘を乗り越えた者がより良い装備を手にするのは道理である。
「KANATAくん、装備はどう? まだ漁る?」
「いえ、だいたい大丈夫です」
KANATAはさきほどのトリプルトリックともうひとつ、R91という、超近距離に強いサブマシンガンを持っている。
スコープやマガジンなどのアタッチメント類はゆっこんほど完璧ではなかったが、十分戦えるものが手に入っていた。
「じゃあこのまま南下してあそこの高所をとっておこう。さ、いいとこ見せちゃうよ~!」
操作キャラ二人が『OK』、『わかった』などと発言して同意し、駆けていく。
だがゆっこんのやる気虚しく、弱りきったパーティがひとつ、眼下を通り過ぎたのみで、しばらく大きな戦いはなかった。
同じ場所で待ち受けたまま、残り3パーティとなる。
なお、マップ内行動可能範囲は時間と共に狭められているため、よほど運が良くない限りは、同じ場所に隠れ続けることはできない。
『優勝しか勝たん』
『こっちまで緊張してきた』
『神様、優勝できますように』
「――あ、来た! あそこっ」
5分ほどただコメント欄だけが流れていたが、ふいにゆっこんがスコープで覗いたまま、相手の位置をピコン、とマークする。
距離180メートルほど。
マークされた先では、谷を潜むようにして、敵が動いていた。
まだこちらに気づいた様子はなく、先制、しかも上から狙える絶好のチャンスである。
しかしゆっこんたちは動かない。
三部隊残っている時の戦い方は慎重にしなければならないからである。
目先のひとつの部隊とぶつかっていると、自然ともうひとつの部隊がフリーになる。
彼らは二部隊の戦いを静観し、ニ部隊が傷つきあった頃合いを見計らって漁夫の利を得に来るのである。
襲われる側は当然、傷を癒す暇などもらえるはずがなく、圧倒的に不利な戦いを強いられる。
「どこだろ、もう一部隊……」
ゆっこんがあたりを見回す。
すでに行動可能エリアは狭まっており、隠れられる場所は多くない。
「絶対近くにいる……」
ゆっこんが丁寧に探っていると、KANATAが別の場所をマーキングした。
小高い丘の上。
そこにもう一部隊がいた。
悪いことに、彼らはゆっこんたちを挟むようにやってきていた。
「あちゃ~……位置がまずいね」
ゆっこんたちは有利ポジションの高所をとっているが、挾撃されれば到底勝ち目はない。
「丘上の奴には気づかれてるぽ」
ゆっこんは相手を変え、丘上の部隊に照準を合わせる。
こちらの相手は、ゆっこんたちの射線を警戒するような動きを見せていたからである。
『んだね』
『あれは気づいてる』
『気をつけて~』
――バァン!
その直後、マークスマンライフルによる射撃がYちゃんの頭をかすめた。
Yちゃんがそばの遮蔽物に隠れる。
――バン、バババババン!
丘上の部隊から、次々と弾が放たれ、飛んでくる。
そう、この弾丸の嵐はつまり、もう一部隊にゆっこんたちの位置を教えるようなものでもあった。
「やるしかない」
ゆっこんがチャージャーガンという遠距離武器で応戦し、戦闘が始まる。
Yちゃんも角度を変えた射線から攻撃を通そうとしている。
――ドォン! バババババン! ドォン!
終盤で行動可能エリアがゆっくりと狭められているために、戦いは遠距離から中距離になりつつある。
こうなると、うまく遮蔽を使って隠れていてもグレネードなどの爆発物であぶり出され、全ての射線を切ることは容易ではなくなる。
――バン、バン、バン!
音を聞きつけた谷底にいた部隊も、最悪の角度からゆっこんたちに攻撃を仕掛けてくる。
『わわ、両側から』
『負けパターンに入った』
『逃げて~』
――バァァン!
「ちょっ、これは……きゃっ!?」
とりわけ大きな銃声とともに発せられたのは、ゆっこんの悲鳴。
ゆっこんのキャラがダウンさせられていた。
ゆっこんが最初に見つけた谷底の部隊の1人が、希少武器グレーシーで射抜いてきたのである。
――ククク。
「ごめ~ん……」
ゆっこんが声を落とす。
これほどの終盤戦になると、もはや蘇生を通す余裕は与えられない。
事実上のメンバー脱落を意味していた。
――簡単だなぁ、このゲーム。
「Yちゃんさん、この場を捨てて、谷側のグレーシーの部隊を攻めてみませんか」
そこで初めて、KANATAがチャットをする。
Yちゃんはキャラを通して了解の意思を伝え、アビリティの電気フェンスで丘上の部隊を足止めすると、一気に谷側へ飛び降り、遮蔽からグレネードを投げて相手を撹乱する。
KANATAは、Yちゃんと相手を挟み込むように走りながら、射撃を始める。
今日初めてパーティを組んだはずの二人だが、たったこれだけの会話で、完璧な連携が始まっていた。
襲われた谷底の部隊は、こちらに降りてくるとは思わず、完全に虚をつかれていた。
ドォン、と、KANATAのトリプルトリックが唸り始める。
先ほど、ゆっこんがやられた一撃で、KANATAはグレーシーの持ち主を同定していた。
現状、そいつが一番の危険人物。
だが、当然相手も黙ってはいない。
――俺に勝てると思ってんのか、こいつはよぉ。
相手はKANATAに振り向き、グレーシーで狙いを定め始める。
KANATAは構わず、トリプルトリックで勝負を挑む。
トリプルトリックの通常胴体ダメージは63、ヘッドショットは108。
対する希少武器グレーシーは、胴体ダメージ140,ヘッドショットは280。
ライフとシールドも合わせて、KANATAの体力は250しかない。
つまり頭にもらえば、強化ヘルメットで防護していない限り、一発で即死である。
――バァァン、ドォォン!
始まる撃ち合い。
――俺を倒せるやつなんざ、居ねえんだよぉぉ!
希少武器グレーシーが、轟音を立てて火を吹く。
Yちゃんは遮蔽物から射撃、相手が固まればグレネードを投げ、KANATAに攻撃を集中させない。
苛立った敵の1人がYちゃんに近寄ってこようとするが、張られた電気フェンスに阻まれ、ダメージだけを負う。
KANATAの戦いを支援する、的確な援護と言えた。
『いけぇぇぇ』
『Yちゃんナイスフォロー!』
『こっちまで力入る』
『KANATA勝ってくれぇぇ!』
――バァァン!
――ドォォン!
手に汗を握る緊迫した戦いの末、1人が倒れる。
『おおおお』
『マジかよ』
『やりやがった』
『すげぇぇぇ』
コメント欄が歓喜する。
一対一を制したのは、KANATAだった。
結局トリプルトリックの銃弾は頭に1発、胴体に二発。
対するグレーシーは、一発も当てられずじまいであった。
「グレーシーは確かに威力はある」
KANATAが呟く。
だが弾速が遅い、構えブレが大きい、極めつけは一発打つごとにスコープから目を離し、3秒近くかかるコッキング動作がある。
威力以外の性能が劣悪な、使い手を選ぶ武器。
今回の戦いでは、この取り回しの難しさが仇となっていた。
――やられた!
――まずい、まずいぞ!
ダメージディーラーだったグレーシー持ちを倒されて浮足立った二人を、KANATAとYちゃんが挟み込んで倒す。
「すごい! KANATAマジでかっこいいぃぃ!!」
脱落し、観戦していたゆっこんが目をハートにする。
「このまま電気フェンスのそばで戦いましょう」
二人は回復行動もできぬうちに、残る一部隊に接近されて仕掛けられるが、KANATAは動じた様子もなく、ただ淡々と敵に向き合う。
『漁夫きた』
『タイミング最悪』
『いや、ゆっこんなしでここまでよくやったよ』
3対2の人数差。
しかも、YちゃんとKANATAのライフはすでに削られ、半分程度。
さらに左右から挟まれ、狙われている不利。
誰もが負けを確信する場面。
この劣勢を跳ね返したのは、やはりKANATAだった。
――バァァン!
一瞬スコープを覗き、近距離であっさりとヘッドショットを決め、ひとりを倒す。
『おおおおお』
『倒したぁ』
3秒のリコイルの後、再びバァァン、という爆発音。
横移動をしながら射撃していたもうひとりが、その頭を射抜かれ、崩れ落ちる。
二人ダウン。
あっさりと形勢が逆転する。
『グレーシー拾ってやがる!』
『すげぇ』
『これが凸砂スタイルか』
「きゃああぁぁ! KANATAぁぁぁぁ!」
ゆっこんが顔を映し出されていることも忘れてか、画面を前に絶叫している。
その後は落ち着いて二人で残る一人を挟み込む。
最後はYちゃんが投擲したグレネードが決まり、彼らがチャンピオンに輝いた。
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