第2話 〜バカとスキルは使いよう〜

 俺たち四人には、それぞれ固有のスキルが発現している。


 ボルケーノ・サマーンには炎を操るスキル

 キャニオス・クレイには土を操るスキル

 モンスーン・バーガーには風を操るスキル


 三人にはそれぞれ、戦闘に特化したスキルが発現した。

しかしながら、戦闘に特化したスキルというのは、実を言うと俺たち若者としてはあまり発現してほしくないスキルなのだ。


 というのも、戦闘に特化したスキルを発現した四人が魔王討伐に行かなければならないという決まりだからだ。


 とは言え、スキルそのものは欲しい。

就職が有利になったり、体得するだけで一生金に困らなくなるスキルだってあるらしい。


 だから俺たち若者としては、"国のために魔王討伐に行きたい"というテイで魔王討伐に駆り出されない事を祈りながら"聖杯からスキルを授かる儀式"を受け、それを今後の人生の糧とする。

これが俺たちの共通の常識だ。


 で、俺なのだが、俺に発現したスキルは"雷属性カウンター"だった。


 このスキルは大人達の間で、物議を醸した。

なんせ雷属性のスキル自体が希少中の希少スキルで、なんとそれを発現させたのは世界でもただ一人、勇者ロック・ルミナスのみ。


 レア度だけならSSSのスキルなのだが、使い道はというと、勇者ロック・ルミナスにしか対抗できない間抜けなスキルなのである。

勇者だって、雷の技しか使わないわけではないのだから、剣で斬り伏せられたらそもそもそれで終わりである。


 しかし、そんな彼ももうこの世にはいないだろう。

つまり、俺が発現したスキルはなんの使い道もないヘボスキルなのだ。


 俺はそれを強く訴えた。

ただでさえ、今後の人生でなんの役にも立たないスキルが発現してしまったのに、その上、魔王討伐なんぞに行かされてはたまったものではない。


「俺のスキルは使い物になりません!魔王討伐には私がいては足手纏いです!」


 俺は必死に訴えた。

この時、俺の訴えを聞いていたボルケーノ達は、全力で魔王討伐に行くのを嫌がっていた事を見透かしていたのだろう。

他の三人も、魔王討伐を命じられて、まるでこれから刑務所にでも入るかの様な顔をしていた。

必死にそれを回避しようとする俺を見て、さぞ軽蔑しただろう。


 しかし、逃げきればこっちのものよ!


 俺は必死に大人達に訴えた。

魔王討伐の重要性を!勇者ロック・ルミナスがもし生きていたら、それは力のある者が救い出してやらねばならない想いを!


 俺が必死に語った後で、大人達の顔色をチラリと確認したら、やつらは泣いていた。


「こんなにも真剣に魔王討伐の事を考えていた若者がいたなんて…」


 大人達は俺に拍手で称賛した。

俺は結局、その熱意を買われてこの魔王討伐に参加させられてしまったのだ。

その時のボルケーノ達の、ゴミを見る様な目は今でも忘れない。



 そんなわけで、ナナ・ルミナスの一番使えないやつに対する答えは、既に俺が散々訴えてきた事なので議論するまでもない事だったのだ。



 四人は、俺を教会に残して去っていった。



 俺は教会の扉を開けて、四人を見た。


「あ、本当に行っちゃうんだ…」


(誰か一人くらいこっちを振り返ってくれてもいいのではないだろうか?

あいつら、今まで見た事ないくらい盛り上がってるだけど…。

けっこう遠くまで行ってしまったから何を喋っているかまでは分からないが、楽しそうな笑い声が俺の頭をグサグサと貫いてきた)


「よりによってこんな、ラストダンジョン一歩手前の街でパーティーを追放されてしまうとは…」


 街を出れば強力な魔物達が待ち構えているに違いない。

なんたって俺はこのヘボスキルしか持ち合わせていなかったので、戦闘というものには参加したことがない。

いつもあの三人に頼ってきた。


 しかし!


 俺もこの半年、怠けてばかりいたわけではない。


 "雷属性カウンター"


 この雷というものの現象について、旅の途中のある街で、書物を買って勉強した。

なんせこの冒険が終われば、俺はこのスキルで生計を立てていかなければならない。俺も必死だ。


 …よく考えると、もう冒険はさっき追放されて終わったのだった。


 気を取り直して説明に戻る。

つまりこの雷という現象は"電気"と呼ばれるものなのだ。


 電気の発生に対してのカウンター。つまりは前もって登録しておいた肉体の動作を、電気の発生に合わせて発現させる事のできるスキルと解釈することが出来る。


 まぁ、小難しいことは後でいいだろう。

まずはこの街にある、"お目当ての施設"を探してからそこで実践するとしよう。

ちょうど、そのお目当ての施設に魅了されたような、何やら怪しい動きをしている女の子の二人組を発見した。

俺はただの通行人のふりをして、その二人に近づいた。


「いくらになった!? イサコ」


 イサコと呼ばれた女の子は、札束を数えながら答えた。


「ちゅうちゅうたこかいな!ちゅうちゅうたこかいな!ちゅうちゅうたこかいな!ちゅうちゅうたこかい…三十八万ゴールドよ!!これだけあればいけるわ!ヌマコ!」


 ヌマコと呼ばれた女の子はそわそわしながら言った。


「でも大丈夫かな? 私たち盗賊なのに自分のダガーを質屋にいれちゃうなんて…」


 イサコは安心させるようにヌマコの肩をたたいた。


「ヌマコ、冷静になりなさい。勝てばいいのよ」


 ヌマコは、凛々しいイサコを見て感極まっていた。


「ヌマコ、行くわよ!!」


 イサコは大通りを指差すと、二人は小走りで去っていった。

俺はその方向に向かって歩き出した。


 女の子達の会話を聞いた限りでは、おそらく俺が想定しているお目当ての施設だろう。


 今日の俺の戦場はそこになる。


 なにも外に出て魔物と戦う事だけが戦闘というわけではない。

魔王を倒した後の世界で、いかに働かずに暮らすかということが、俺の真の戦いなのだ。

その為に、今日、俺は己のスキルを駆使するために、戦場に馳せ参じる。

チャンスというものは、一瞬のうちに過ぎ去ってしまうものなのだ。


 そうこうしているうちに、お目当ての建物が見えてきた。

まるで城のような煌びやかな建物の中に、先ほどの女の子達のイサコとヌマコが入っていくのが見えた。


 俺も建物に入ると、派手な服装の従業員から歓迎の挨拶を受けた。


「フォートカジノへようこそ!」


 俺は期待を込めて中に入った。

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