最強の俺と盗賊娘たちの墓荒らし生活〜魔王討伐に駆り出されたくない一心で無能アピールをしていたら本当に追放されました〜

すけあり

第1話 〜オープニング〜

「つまりアンタはもうお払い箱ってわけよ!!」


 俺の前で腕を組んで立ちはだかるこの女、勇者の娘ナナ・ルミナスが放った一言で、俺のパーティー追放が確定した。



━━時をさかのぼる事、三十分。



 この年齢まで地元、遠く極東の地で暮らしてきた俺たち四人は、遠路はるばる、このフォートタウンに辿り着いた。


 俺、ナルカミ

 文武両道で顔もイケメン。完璧な男、ボルケーノ・サマーン

 優しき熱血漢、キャニオス・クレイ

 パーティーのリーダー、モンスーン・バーガー


 全員同い年の十六歳。男四人のむさ苦しい旅ではあったのだけれど、それはそれで楽しい冒険でもあり、俺たちは半年の旅で固い絆で結ばれた。うむ、結ばれた。


 俺たちが魔王要塞にまで旅をしてきたのは、正義感だとか、世界平和だとか、そういうものではなく、そこそこ大きい国は毎年、冒険者を一定の人数、魔王要塞に送らなければならないという決まり事があるので、仕方なく参加したというか、させられただけなのだ。


 国のお偉いさん方も、別に魔王を倒してこいとかいう風でもなく、都会で遊んでこいよ的な感じだったので、緊張感も何もあったものではない。


 なぜなら、魔王は十年も前に勇者ロック・ルミナスによって倒されているからだ。


 じゃあなんでまだ冒険者達を送り続けるのか? という話なのだが、誰も魔王の死を確認していないからだ。

勇者はまだ戻ってきていない。

しかし世界を覆っていた暗雲は晴れた。それ以降、要塞から魔物が一切出てこなくなったのだ。


 つまりは、多分勇者は魔王を倒したのだろうけど、他の人間は魔王要塞の奥には辿り着けないし、別に世の中が平和なら辿り着く必要もないのだが、大国の体裁であったり、万が一を心配する声であったりを考慮して、……とはいえ大した予算も割けないので、俺たちのような哀れな若者がこうやって修学旅行にも似たような行事を兼ねて、このような役目を担っているのである。



 そんなしょーもない旅行の最後に、完璧な男ボルケーノ・サマーンは清々しい笑顔である素敵な提案をしてきた。


「はい、みなさんご注目!この街で、今日から女子が俺たちのパーティに加わります」


 まず最初にリーダーのモンスーン・バーガーが食いついた。


「え!? 本当に? なになに、ボルケーノ、こんな都会に女の子の知り合いとかいたの?」


 完璧な男ボルケーノ・サマーンは優雅な口ぶりで言った。


「知り合いというか、幼なじみだね!十年前に会ったことがある。父さんに連れられて、勇者ロック・ルミナスの握手会に参加した時にね!」


 熱血漢のキャニオス・クレイがつっこんだ。


「さすが金持ちのボンボン!でも、それって幼なじみって言うのか? 向こうはボルケーノのこと、覚えてないんじゃないか?」


 完璧な男、ボルケーノ・サマーンは自信たっぷりの美声で語った。


「そんな事はないさ!向こうも俺のことを名前で呼んでくれたよ? 握手会の時に。それにほら、十年経った今、手紙だって送ってきたんだ」


 リーダーのモンスーン・バーガーは、ボルケーノ・サマーンがヒラヒラさせている手紙を受け取った。


「どれどれ…」




 親愛なるボルケーノ・サマーン様


 お世話になっております。

 勇者の娘 ロック・ルミナスです。

 ○月○日のパーティ合流場所についてご連絡致します


 場所 : フォートタウン教会1F

 住所 : 街の入り口のマップを参照ください

 交通アクセス : 馬車か徒歩

 近隣で迷う方が多いため、何かございましたらお帰りください


 それでは当日、ボルケーノ・サマーン様のお越しをお待ちしております

 よろしくお願いいたします




 リーダーのモンスーン・バーガーと、熱血漢のキャニオス・クレイは口を揃えた。


「おお〜」


 俺は二人の顔を見た。


(いや、おお〜じゃないだろ。何この文章、絶対これ色んな人に送ってる定型文だろ!よく見ろ!名前と文章の書体が違うだろ!後から名前だけ書き込んでるやつだぞこれ!)


 ボルケーノは自慢げに言った。


「な?」


 俺はボルケーノの方を見た。


(な? じゃねーよ。お前こんな手紙、半年も大事に持ってたのか。向こう覚えてるのか? 手紙を出したこと自体を!てかこれ、道に迷ったらお帰りくださいっておかしくない!? 会う気ないだろこれ!?)


 モンスーンは感心しながら言った。


「手紙に親愛なるボルケーノ・サマーン様って書いてあるな、さすが村一番のデキる男だな!」


(そこ!? ただの社交辞令だろうが!)


 ボルケーノはまんざらでもない顔で、しみじみと語っていた。


「まぁね、彼女も十年前の事を覚えていて、それで名前の前に、親愛なると付けたのだろう。どういう想いでこの文章を書いたのかと思うと、ふふっ、全く、俺も罪な男だよ」


(いや、十年前の事、一切手紙でふれてないから!絶対これ何かやりながら書いてるだろ!名前の部分だけ字が歪んでるぞ!)


 ボルケーノは俺の方を見た。


「ところでナルカミ。さっきから黙り込んでいるが、一体どうした? 女子がくるからといって緊張してるのか?」


 俺もボルケーノの方を向いた。


「お、おう。そんなところだ…」


 真面目に答えるのが面倒くさかった。

ボルケーノは爽やかな笑顔で言った。


「しょうがないやつだな。まぁ、後のことは俺に任せておけ。じゃあ入るぞ!教会の中へ!」


 それでさっきから教会の前でたむろしていたのか。

教会に入ると、中には鎧を纏った美少女が腕を組んで待っていた。


 そして彼女が放った最初の一言が、俺たち四人の友情を木っ端微塵に砕くことになる。


「この中で一番使えないやつは誰!?」


 なにやら不穏な空気を察したボルケーノが、落ち着いた声で話しかけた。


「まぁまぁ、ナナ・ルミナス様。まずは十年ぶりに世間話でもしませんか?」


 ナナ・ルミナスはゴミでもみるかのような目でボルケーノを見て言った。


「アンタ誰よ?」


 ボルケーノは四つん這いになって泣いていた。

ナナ・ルミナスは声を荒げて言った。


「もう一度聞くわ!この中で一番使えないやつは誰!?お父様のパーティーは四人だったわ!一人は邪魔よ!!」


(形から入るタイプか。これは面倒だ)


 そう思っていた矢先、男三人は口を揃えて言った。


「こいつです」


 三人の指は俺の方をさしている。


━━なぜ、三人が俺の方を指さしたのか。それはまた次のお話。

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