第81話 評価する人々
「きゃー、ジルさまー! 今日もカッコいいよぉぉぉぉぉ!」
「きゃー、ミカエルさまー! 今日もお美しいですぅぅぅぅぅ!」
「うおー、ロイスきゅーん! 今日もきゃわいいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
アカデミーに復帰した白髪青年にとってそれは見慣れた光景だった。
ただダンジョン攻略配信の前と明らかに違うのは、普段はイケメンどもを忌々しげに眺めている男子学生たちの見る目がガラリと変わったことだろう。
「強いとは聞いていたが、ジェイルハートの実力は本物だね」
「俺にはアカデミー最強アタッカーのダンテと遜色ないように見えたぜ?」
「確かに瞬間火力はジェイルハートだが、ダンテの恐ろしさは予測不能な攻撃と無尽蔵のスタミナだ。アイツのバネとタフさは異常だよ」
「こりゃアカデミー最強決定戦が今から楽しみだな!」
「両手剣持ちの
「考えもしなかった。うちの
「攻撃的な
「それを言うなら
「あれはロリンズが身体能力のバカ高い
「それと自己回復持ちの
「正直、見た目だけの連中だと思っていたが、イケメンパーティーの実力は想像以上だった……」
百聞は一見に如かずである。ダンジョン攻略の映像はイケメンたちの評価を一気に高めることとなった。
「ところでレヴィアントはなにをしてたんだ? ひたすら走り回っていたが、なにか意味があるのか?」
「さあ? 戦場を走り回りながらずっとなにか叫んでいたけど、映像に音声がないからよく分からないわ」
「傲岸不遜な彼のことだ。仲間たちに
「でも、魔導士のくせにやたらと身体能力が高いのには驚いたな」
「いや、あの男は元々、格闘の模擬戦の成績はかなり良かったぜ?」
「そう言えば打撃をネームドに入れていたな。大したダメージは与えていないが」
一方で白髪青年の評価は男女共に据え置きと言ったところ。
直接的なダメージソースではない
あと、レヴィン自身の日頃の言動が評価を下げているようだ。
ところが、そんな中、レヴィンのことを高く評価する者が現れる。
「ようレヴィアント! ダンジョン攻略配信動画を見たぜ! お前やるじゃねーか! 見直したぜ!」
いかにもガラの悪そうな取り巻きを引き連れた
なにごとかと食堂が騒然としたのは言うまでもない。
彼女はドリエル・ドラゴニール。ジョブは
王都の裏社会で幅を利かせている
単純な腕っぷしで彼女に勝てる人間はアカデミーにはない。入学早々、格闘の模擬戦で現役冒険者である教官をフルボッコにしたのは有名な話だ。
「……そりゃどうも」
白髪青年は怪しい宗教の勧誘を受けたかのような怪訝な表情である。すると、額から角を生やした巨女が逞しい腕を白髪青年の肩に回してくる。
「つれねえじゃねえかレヴィアント! アタイとお前の仲だろ?」
「顔を見れば嬉々として殴りかかってくる仲がなんだって?」
喧嘩最強の彼女と素手で渡り合える学生は数えるほどしかいない。中でも唯一、彼女をノックアウトしたことがあるのは白髪青年だけだ。
もちろん、裏社会で幅を利かせている
だが、不運なことに反射的に手を出したら彼女のアゴに絶妙な角度でレヴィンの拳が入ってしまったのだ。
あくまで模擬戦での出会いがしらの事故のようなものだった。
しかし、皆の前で『白目を剥いて気を失い排尿してしまった』ことが彼女のプライドをひどく傷つけてしまったらしい。以来、レヴィンにたびたび喧嘩を挑んでくる。実に迷惑だ。
要するに彼女とはそうした因縁の仲なのだ。
「言っとくが、今日は手合わせはなしだ。俺様は治癒院から退院したばかりの病み上がりだからな」
「そうじゃねーよ。今日は別の用件だ」
どうせロクな用件ではないと白髪青年は眉をひそめる。
「なあ。レヴィアント。お前、アタイのパーティーに入らねーか?」
まさかの勧誘だった。
「断る!」
即答すると、ガラの悪い取り巻きが色めき立つ。しかし、すぐさま「お前ら下がってろ!」と
「お前ならそう言うと思ったぜ! レヴィアント!」
「分かってるなら諦めろ」
「だが、話を聞くくらい罰は当たらんだろ?」
「罰は当たらんがメリットもない。俺様は今のパーティーで上手くやってる。ダンジョン攻略配信を観たなら分かるだろ?」
「今はな! アタイは将来の話をしてんだよ!」
「将来の話?」
「
「だからどうした?」
「つまり、火力のあるジョブと組む必要があるってこった! だったら、より高い火力を出せる、まあ、早い話が最強のアタッカーと組むのがベストだろ? 違うか?」
「ドリエル。なにが言いたい?」
「決まってんだろ! アタイが最強のアタッカーだってことだ!」
「ほう……うちのジルより貴様のほうが上だと?」
「当然だ! ジェイルハートよりもダンテリオンよりもアタイのほうが強い! 今は確かに奴らの評価の方がちーとばかし高いが、最終的に最強になるのはこのドリエル・ドラグニール様さ!」
白髪青年は「ふむ」と頷く。
だが、代償を払うことで得られる爆発的な火力は破格だ。その魅力は他に代えがたいのも事実。
白髪青年は持ち前の好奇心から『俺なら
「お前はアタイにビビることなく真っ向意見できる数少ない人間だ! そしてアタイは自分より弱い人間の意見になんて従う気はねえ! その点でもアタイらは噛み合ってる! アタイは対等な仲間が欲しいんだよ」
「なるほど」
「そこでひとつ賭けをしねーか?」
「どんな賭けだ?」
「アタイがアカデミー最強決定戦で優勝したら――『アタイとパーティーを組む』という賭けだ」
白髪青年はまたもや即答する。
「いいだろう」と。
「ははははは! その言葉! 忘れるなよ!」
目的を果たして気を良くした
これでようやく食事を再開できると白髪青年は食べかけのパンにかぶりつく。ところが、そうは問屋が卸さなかった。
気づくと隣に泣きぼくろが特徴的な黒髪の美少女が座っていたのだ。
「ねえ、レヴィン……どういうつもり? 本気なの?」
彼女がジト目で見つめてくる。
「なんだ? 自信がないのか?」
だから白髪青年は鼻で笑う。
「貴様が優勝すればいいだけの話だろうが?」
事もなげに言って白髪青年は平然と食事を続ける。彼女はそれを見ながら「もう!」と頬を膨らませる。
「はいはい! 分かりました! 勝てばいいんでしょ! ドリエルにも! ダンテにも勝って! わたしが優勝して! 最強だって証明すればいいんでしょ!」
「だからそう言ってるだろ?」
白髪青年はそう素っ気なく応えながらも、スープで口元を隠しながら密にほくそ笑む。面白くなってきたと。
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