第74話 初めての攻略配信①
ストラーヴァ城。冒険者ギルド。無限迷宮入り口。
「ジルさん! ありがとうございます! ウチのダンジョン攻略配信のオファーを受けてくださって!」
朝も早いというのに鼠耳族の少女が溌溂と声を弾ませる。
「しかも! アカデミー最強と名高いダンテさんたちのパーティーもご一緒してくださるなんて……
今日は初めての合同ダンジョン攻略であり初めてのダンジョン攻略配信だ。
アカデミー最強とアカデミー最強に迫る2パーティーの共演に周囲の冒険者たちも浮足立っている。
「ダンテたちとジルたちが合同でダンジョン攻略するってよ!」
「ダンテとジルのイケメン最強アタッカーが一緒に戦うとこ見たーい!」
「私も見たいみたーい! こっそり後を付けたら不味いかな?」
「無理っしょ。ダンテたちが攻略するのって30階層以降だろ?」
「もう……ファストダイブの時点で付いてけないじゃん」
そうファストダイブは利用者が攻略した階層までしか飛べない。
そこで当然のように生まれるのが『
「ご存じかもしれませんがウチら
ジルが代表して応える。
「ユンフォア。君に事前に伝えておいたように今日は『湿地エリア』での金策を考えている」
「了解です! 湿地エリアでの金策ということは魔物は【アナコンダ】あたりでしょうか?」
湿地エリアの金策と言えば『蛇狩り』がメジャーである。蛇皮も肉も高値で取り引きされるからだ。
「いや、今日の相手は【ポイズンフロッグ】だ」
「……え? 【ポイズンフロッグ】ですか? ジルさんやダンテさんたちにパーティーの実力からすると、少し物足りない相手なのでは?」
栗毛の幼馴染がひょいっと横槍を入れる。
「ユンユンが心配している理由を当ててあげよう! 僕たちが格下を乱獲する絵を撮っても美味しくないからだろ?」
鼠耳の少女が「はい……仰る通りです」とバツが悪そうに肩をすくめる。
「確かに【アナコンダ】相手のほうがパーティープレイは存分に見せられるだろうね。でも、使えないっしょ? せっかく帯同したのに僕たちが魔物の湧き待ちしてる様子ばかりを撮影しても」
「ああ! お二方のパーティーの殲滅力だと【アナコンダ】だと個体数が少なすぎますね!」
「でしょ? その点『フロッグ系』は毒に鎧に太っちょにと個体数が多い。湧き待ちの心配はない。群生地の情報も手に入れたしね」
「ありがとうございます! お気遣い感謝します! やはり世間の人たちが観たいのはお二方のバトルシーンなので助かります!」
リーダーたちとのやり取りを眺めながら白髪青年は改めて思う。
ストラーヴァ城の地下に果てしなく広がる【
生き物のように定期的に内部構造を変える底の知れない未曾有のダンジョン。そこから排出される資源や食材は世界中で珍重され高値で取引される。
宝箱や魔物からドロップする貴重なアイテムなどに至っては家が一軒建つほどの貨幣が動くことも珍しくない。
特筆すべきは無限迷宮では女神ルナロッサの加護によりダメージの概念が信じられないほど緩いことだ。仮に腕が折れたとしても、戦えないこともないのだ。
(もっとも、魔物も痛みに鈍感だから死ぬまで怯むことなく襲い掛かってくるんだけどな……)
なぜ無限迷宮の内部だけがそのような特別仕様なのか――――?
所説あるが最も有力なのは冒険者によるダンジョン攻略が『運命の女神ルナロッサ様の娯楽である』という説だ。
「では皆さん! さっそく『記録撮影』を始めさせて頂きます! あくまでいつの通りで結構です! 今回は『ライブ配信』ではなく『オンデマンド配信』ですので、なにか問題があったとしても編集しますのでご心配なく! あとウチのことはダンテさんのように気軽に『ユンユン』とお呼びください!」」
ユン・ユンフォアは流暢に説明して流れるようにアビリティを発動させる。
「
途端、三匹の小型のコウモリが
この記録用の使い魔を召喚する能力は
(【
ちなみに
「ジル! 今日はよろしく! ジルたち実力派パーティーと合同でダンジョン攻略ができるなんてとても楽しみだよ!」
「ああ、ダンテ、オレもだ! 君たちアカデミー最強パーティーとの共闘を心待ちにしていた! お互い切磋琢磨しようじゃないか!」
開幕は絵になるイケメンリーダー同士による握手だ。
続いてメンバー同士が「今日はよろしく」とリーダーに倣って握手を交わす。
ダンジョン攻略配信の経験があるハオやメルやアイーシャは実に堂々としている。もっとも、普段よりも女子たちの髪型やメイクに気合いっがこもっているのは気のせいではないだろう。
モデル経験のあるロイスやミカエルの振る舞いも自然だ。イケメンどもは憎たらしいことにどこを切り取ってもイケメンなのである。
唯一、白髪青年だけが眉間に深い
「あのー、レヴィアントさん? ちょっと顔が怖いかもです。もっと自然に、できれば笑顔を頂けると嬉しいんですが……」
さっそく
「黙れ。俺様に指図するな。殺〈ピ――——〉ぞ」
「はーい、カットしまーす」
憮然とする白髪青年の隣にすぐさま泣きぼくろが特徴的な黒髪のイケメンがやって来て耳打ちする。
「レヴィン。我慢しよ? 今日だけだから、ね?」
そう彼女がたしなめてくる。
「ジュリアンの顔で言うな。脳が混乱するだろうが」
「しょうがないじゃん。なんだか学芸会に出る我が子の心配をする母親の気分なんだもの」
「誰が我が子だ。俺様を子供扱いするな」
「子供じゃないならちゃんとできるよね? 故郷のためだよ? 頑張ろう」
故郷のためと言われては白髪青年に返す言葉はない。「……くそったれ」と従うほかない。
白髪青年は重い足取りで女神像に触れてファストダイブする。
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