第71話 故郷のピンチ
「貴様! まさかこの俺様を懐柔しようと言うのか? そんな見え透いたお世辞に踊らされるほどレヴィン・レヴィアントは浅はかではない!」
一瞬、踊らされそうになっていたことを勢いで誤魔化す白髪青年である。
「い、いいえ、ウチは事実を述べているだけです……」
「なにが事実だ? 適当なことを言うな。根拠があるなら言ってみろ?」
ここが正念場だと感じたのだろう。
ユン・ユンフォアが真剣な眼差しを浮かべる。
「ジルさん、ロイスさん、ミカエルさんの三人には
「ふん。分かり切ったことを」
「ですが、成功が約束されたとしか思えない三人が15階層あたりで足踏みしていたのはあなたもご存じでしょう?」
「まあな」
「ところが! レヴィアントさんが加わった途端、どうでしょうか! 荒野エリアを瞬く間に突破し! さらに今日ついに森林エリアも突破してしまった!」
鼠耳族の少女が興奮に頬を紅潮させている。
「そこから導き出される答えは、レヴィン・レヴィアントの存在がこのパーティーにとって途轍もなく大きいと言うことです!」
少女が熱っぽく続ける。
「ウチはその事実をこの目で確かめたいんです! 一体、
瞼を閉じて黙って聞いていた白髪青年がおもむろに目を開く。
「貴様! なかなか見どころがあるな! この俺様の偉大さに気づくとは!」
白髪青年は喜びを隠しきれなかった。
「レヴィン! 踊らされないで!」
すぐさま黒髪イケメンの彼女がぐいっと腕を引っ張ってくる。
「いや、だが」
「だが、じゃないよ。レヴィンくん」
「でも、言ってることは正しいだろ?」
「でも、じゃないです。レヴィンさんはもう黙っててください」
イケメンたちから一斉に責められる。終いにはジルがレヴィンを背中で隠すように前に出てくる。
「ユンさん。オレたちはキングトレント戦を終えたばかりでとても疲れているんだ。今日はもうこれで終わりにしてくれないか?」
「はい……そうですね。今日は引き下がります」
「いや、もう結構。さっきレヴィンが言ったように今のオレたちはダンジョン攻略配信を必要としていない」
「そう、ですか……」
「だが、もしもオレたちの考えが変わるようなことがあれば……最初に君に連絡する! 約束しよう!」
「ほ、本当ですか……?」
爽やか黒髪イケメンが『イエス』の代わりにウィンクする。
「ありがとうございます!」
少女は全力で頭を下げてから嬉しそうに去ってゆく。
翌日、レヴィンが変態
「リンダ! なんとかしろ!」
甘いお菓子を目当てに研究室を訪れたついでに相談を持ち掛ける。
「よかろう。我が愛しき親友の息子の頼みだ。手を回しておこう」
すると、その日から嘘のようにピタと勧誘はなくなる。やはりリンダ・リンドバーグは敵に回したくない人物である。
ところが、数日後――——、
白髪青年を取り巻く状況が急変する。
夜更けに幼馴染の栗毛が血相を変えて寮の部屋に駆け込んでくる。
「レヴィン! 大変だ! 僕たちの故郷の村で大規模火災が起きた!」
どうやら乾燥による山火事が原因らしい。
奇跡的に死傷者は少人数で済んだらしいが、復興するための資金や資材が早急に、しかも大量に必要な状況だった。
二人は深夜の白熊亭でどうしたものかと知恵を出し合う。
深いため息を吐き出してから白髪青年が口を開く。
「ダンテ? 貴様はどれくらい出せる?」
「いらないアイテムとか売りさばいてどうにかかき集めれば……それなりには。そういうレヴィンは?」
「あいにく今は手持ちが少ない。どこかのバカの借金を肩代わりしたせいでな」
「…………」
「…………」
栗毛の幼馴染がひとつ咳払いして続ける。
「借金返済中の僕が言うのもなんだけど、誰かから金を借りるしかないと思う」
「ふざけるなダンテ、本気で言ってるのか?」
「本気も本気さ。別に怪しい連中から借りようなんて言ってるわけじゃない。パーティーの仲間たちから一時的に借りたらどうかって話さ」
故郷の危機だからだろう。村長の息子である栗毛の幼馴染は普段からは考えられないほど真剣な表情だ。
「ハオにメルにアイーシャ。事情をちゃんと説明すれば彼女たちは快く貸してくれるはずさ。ジルたちだってそうだろ?」
「確かに……ジルもロイスもミカエルも喜んで金を出してくれるだろうな。イケメンどもは全員、俺様に大きな借りがあるからな」
「だろ? だったら――」
「ダメだ! これは『俺』たちの村の問題だ! 俺たちで解決すべきだ!」
「ごもっとも。いつもなら全面的に同意だね。だが、緊急事態なんだ! レヴィン! くだらないプライドは捨てろよ!」
「くだらないプライドだと! 焦ってまともな思考もできなくなったのか!」
白髪青年が熱くなってテーブルを両手で叩く。
「ダンテ! 王都に出て来た理由を忘れたのか? 俺たちの力で村を復興させるためだろうが! これは俺たちの信念と言ってもいい! くだらないプライドとか二度と言うな!」
「そうさ! レヴィンの言う通りさ! 僕にとっても紛れもない信念だよ! だけど! それは平時の話だろ? 今は状況が違うじゃん?」
「信念はそんなに安っぽいもんじゃないだろ? そうやって簡単に曲げてしまえる程度のモノならば、それは信念でもなんでもない!」
今度はダンテがテーブルをしたたかに叩く。
「じゃあ、どうするのさ! ない袖は振れないぞ?」
「それを今、考えてるんだろうが!」
「なら今から二人で無限迷宮に金策でも行くか? 夜のダンジョンは昼間より遥かに危険だけど、その分、実入りも良いはずさ」
「ダンテと二人なら十分やれるだろうな……だとしてもそんなにすぐ大金が稼げる手段があるのか?」
「大金とまではいかないだろうね。だってそんな手があったら僕がすでにやっているからね」
「だろうな。どうしたものか……」
幼馴染の二人が同時に大きなため息を漏らす。すっかり煮詰まっている。
「――――お二人さん。店長からです」
褐色のメイドことキャロル・キャンベルが二人分のホットチョコレートをテーブルにそっと置いてゆく。
厨房を見ると、白熊族の店長が『落ち着きなさい』と優しい目で諭してくる。
甘くて温かな液体を身体に流し込み二人は落ち着きを取り戻す。
「ごめんレヴィン。故郷の危機に熱くなってしまった」
「俺様も悪かったと言っておこう。短絡的な貴様にいつも通りムカついていただけだがな」
「…………」
「…………」
「よーし、表に出ろレヴィン! 久しぶりにやり合おうじゃないか!」
「いいだろう! アカデミー最強とおだてられ図に乗ってる貴様の高い鼻を俺様がへし折ってやる!」
睨み合いながら店を出ようとする二人の前に、
「待て待て! 二人ともそこまでだ!」
なぜか泣きぼくろが特徴的な黒髪のイケメンが立ちはだかってくる。
「ジル!? なぜ貴様がここに……?」
就寝中だったのだろう。パジャマのようなラフな格好をしたジル・ジェイルハートが目の前に立っていた。
「君たちの故郷が大変な状況だと聞いたから飛んできたんだよ」
白髪青年がじろりと褐色メイドを見やると、バツが悪そうに視線を逸らす。
「キャロのやつめ余計なことを……」
「彼女を責めないであげてくれ。彼女は君たちのことを心から心配していたんだよ。もちろん、それはオレもさ」
ジルは椅子に腰かけ白髪青年たちの顔を交互に見やる。
「どうか君たちの力にならせて欲しい。オレに考えがあるんだ」
「帰れ! 貴様の施しは受けん!」
「まあまあレヴィン、ジルがわざわざ僕らのために来てくれたんだ話くらい聞こうよ?」
「……なら言ってみろジル? 聞くだけは聞いてやる」
泣きぼくろのイケメンはにっこりと微笑みさらりと告げる。
「ダンジョン攻略配信のオファーを受けようと思うんだ」と。
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