第70話 VS迷宮調査員
無限迷宮から帰還するのと同時だ。
大きな鼠耳が特徴的な少女がジルに駆け寄って来る。
「ジルさん! 何度も何度もしつこくしてすみません!」
イケメンたちの熱狂的なファンかと思ったが、
「でも! もう一度だけ、ジルさんたちのダンジョン攻略にウチが『同行する件』考えてもらえませんか?」
その制服と帽子から分かるように少女は『
「以前、お話していた報酬の倍額! 倍額を出しますので! どうかウチと専属契約して頂けないでしょうか?」
熱狂的なファンならぬ熱狂的な調査員だった。
「君には悪いんだけど、何度、お願いされてもオレの答えは変わらない」
「待ってください! これはジルさんたちの将来にとって重要な提案なんです!」
「オレたちの将来? 君の将来の間違いじゃなくて?」
「確かに……ジルさんたちのような実力、見た目、将来性を兼ね備えた冒険者と専属契約を交わせればウチの将来はバラ色です。人気冒険者の配信を担当するのがすべての
「やっぱり君のためじゃないか」
「ですが、ジルさんたちにとっても大きなメリットがあるのです。ジルさんたちは現在! ウチだけでなく多くの
「ああ。毎日毎日、ひっきりなしで……正直、迷惑してる。オレを含めてうちのメンバーは全員、ダンジョン攻略配信には乗り気じゃないんでね」
「それは申し訳ありません……ですが、現在の世界的な配信人気を考えると、ジルさんが何度断ってもオファーがなくなること決してないでしょう」
「だろうな。現に君は何度断ってもオレの前に現れる」
誰にでも優しいジルにしては珍しくきっぱりとした口調だ。『実は女の子』という特大の爆弾を抱えているのだから当然と言えば当然だが。
「だからこそです! ぜひウチを利用してください!」
「利用……?」
「はい! このユン・ユンフォアと専属契約したと公言すれば他の
「なるほど、そういうメリットがあるか……」
急にジルの声がトーンダウンする。
「もちろん、最低限の攻略配信は必須ですが……」
「結局、配信は避けられないわけだ」
「そこは! しっかりとご相談して、ジルさんたちにとって無理のない範囲でやらせて頂ければと!」
黒髪イケメンがお手上げだとばかりに肩をすくめている。鼠耳族の熱意もさることながら、内容的にも必ずしも悪い話ではなさそうだからだ。
(このユン・ユンフォアとかいう
ぶっちゃけ白髪青年も感心している。
すると、ついにジルが流し目でこちらを見てくる。
(ハイハイ……俺にどうにかしろと……)
白髪青年は流し目で『貸しだぞ』と黒髪イケメンに返して前に出る。
「おい! 貴様! さっきから調子のいいことばかり言いやがって! しょせんはイケメンどもを利用して儲けたいだけだろうが?」
アカデミー最強の傲岸不遜が立ちはだかる。
「ご、誤解です! レヴィアントさん! 今、お話させて頂いたように互いにメリットはあります!」
「いや、ないね」
白髪青年が素っ気なく言い放つ。
「俺様たちはダンジョン攻略配信などしたくないんだ! 他の
「で、ですが……それではずっとオファーを断り続けなければなりませんが?」
「いや、そうはならん。貴様が専属契約の公言をすると言ったように、俺様たちが『攻略配信のオファーは一切受けん』と公言すればいいだけだろ?」
途端、ユン・ユンフォアが言いよどむ。
痛いところを突かれたと言う顔だ。
「今や俺様たちはアカデミーでも一、二を争う優秀なパーティーだ」
したたかな白髪青年はここぞとばかりに畳みかける。
「『
白髪青年から早口で捲し立てられユン・ユンフォアが後ずさる。
だが、このままおめおめとは引き下がるわけにはいかないと、鼠耳族の少女が覚悟のこもった表情で尋ねてくる。
「な、なぜですか! どうしてそこまでダンジョン攻略配信を毛嫌いされるのですか! もし理由があるならお聞かせ願えませんか!」
『そりゃ実は俺以外全員女の子だからだ。ダンジョン攻略配信なんてされてうっかり女の子だってバレたらどーする?』
これが紛れもない本音なのだが、言えるはずもなく。
「そもそも、そこまで金に困っちゃいない」
主に金髪眼帯エルフだが。
「なにより『手の内』をまだ明かしたくはない。俺様たちのパーティー戦術はダンジョンの最先端だと自負しているからな」
「だったらなおさら! 攻略配信をすべきです! 皆さんのすごさを世間に伝えるべきです!」
「必要ない!」
白髪青年が断言する。
「他人に評価されなければ己に価値を見出せん器の小さい連中と一緒にするな! 俺様たちは自分たちのやってることに自信がある! 手応えも感じている!」
これは割と本音だ。現に背後のイケメンたちも力強く頷いている。
「将来はどうなるか知らんが、少なくとも、現在の俺様たちにダンジョン攻略配信は必要ないってことだ」
あえて『将来は』と含みを持たせたのは『落としどころ』を用意してやることで鼠耳族の少女に引き下がる切っ掛けを与えてやったのだ。
「そういうわけだ。イケメンどものことは諦めろ」
さらに背中を押す。さっさと去れとばかりに。
誰が見ても白髪青年の完全勝利であった。
ところが、鼠耳族の少女は最後にいかにも名残惜しそうに呟く。
「いいえ、違うんです……レヴィン・レヴィアントさん。ウチが本当に残念だと感じているのはあなたのことなんです」
「……は? なにが言いたい?」
「ウチはレヴィアントさんが!
即座、白髪青年が満更でもない表情を浮かべたのは言うまでもなかった。
同時、背後でイケメンたちが片手で顔を覆ったのは言うまでもなかった。
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