第69話 どちらが最強?

 ダークエルフの女魔導士がローブをはためかせ眼前に着地する。


「わたくし! 参上ですわ!」


 そうドヤ顔で銀色の髪を派手にかき上げる。

 白髪青年が忌々しげに吐き捨てる。


「貴様は普通に登場できんのか? 相変わらず鼻持ちならない女だ」 


「おやおや、どこの誰が言ってますのー? アカデミーで最も鼻持ちならない男にだけは言われたくはありませんわ」



「紹介しよう! エキゾチック美人の彼女はアイーシャ・アイマール! 【黒魔導士ブラックメイジ】だ! 僕たちの頼れる高火力魔法攻撃役アタッカーさ!」



 一触即発の白髪青年たちを前にしてもダンテのマイペースは揺らがない。


「オーホッホッホー! レヴィアント! ようやく30階層を突破したようですわね! おめでとうと言って差し上げますわ!」


「ふん! 別に祝われるようなことではない! 俺様たちにとって30階層なぞただの通過点に過ぎんからな!」


「誰に偉そうな口を利いてますの? アカデミー最強パーティーを前に粋がらないでもらえます? 聞いてて恥ずかしいですわ!」


 ダークエルフの女魔導士が得意げに続ける。


「わたくしたちは40階層を突破目前ですの! プロの冒険者でも40階層を突破している者は多くありませんわ。この意味がお分かり?」


 対抗するように白髪青年が喉を鳴らす。


「とんだ肩透かしだな! まだ40階層を突破してなかったのか? アカデミー最強パーティー様とやらも大したことないな!」


「い……言っておきますが! わたくしたちの実力なら今すぐにでも突破できますのよ! ダンテの金策のために足踏みしているだけですわ!」


「うむ。まあ、それは100%ダンテが悪いな」

「ダンテが女性にだらしないせいで……愚かな友人をいさめるのが親友であるアナタの務めでなくって?」

「あの馬鹿が俺様の言うことを素直に聞くとでも?」

「わたくしが間違っていましたわ」 

「アイーシャこそ元カノだろうが? 元彼にビシッと言ってやれ」

「言って治る男ならわたくしは別れていませんわ」

「確かに」


 この時ばかりは意気投合する。


「あはははは! 相変わらず二人のやり取りは面白いなぁ!」


 件の栗毛の青年は他人事のように笑っているが。


「アイーシャ! 貴様らがノロノロしてるのなら! 俺様たちのパーティーが先に行かせてもらう! その時は二度とアカデミー最強パーティーを名乗るなよ?」


 白髪青年が不敵に笑う。


「その称号は俺様たちのものになるんだからなぁ!」


「相変わらず身の程知らずの男ですわ! アナタたちが最強ですって? オーホッホッホー! 笑いが止まりませんわ!」


 だが、不遜な態度は女魔導士も負けてはいない。


「そもそも! 灰色魔導士グレーメイジのアナタと黒魔導士ブラックメイジのわたくしとでは火力が段違いですわ! アカデミー最強の魔導士であるわたしくが所属しているパーティーが最強に決まってますわ!」


「おこがましいぞ脳筋魔導士! 炎魔法をぶっ放すだけの脳みそ空っぽの貴様と、脳みそをフル回転させ戦場全体をコントロールしている俺様を同列に語るな」


「偉そうに! 小賢しいだけしょうが! 言っておきますが、盾役タンクにしてもハオほど火力の出せる者は他にいませんわ。彼女こそがアカデミー最強の盾役タンクですわ」


「貴様の目は節穴か? うちのミカエルの装備を見ろ?」

「盾を持っていない? 両手剣装備ですって!?」


「両手剣装備のミカエルは火力も堅さも兼備してる! そこらの重装備系の盾役タンクとはわけが違う! しかもミカエルのジョブは聖騎士パラディンだ! 敵視ヘイト管理もバッチリだ! アカデミー最強の盾役タンクの座をミカエルが奪う日は近いかもしれんぞ?」


「ならば回復役ヒーラーですわ! 回復役ヒーラーはメルの圧勝ですわ! メルの圧倒的なパワーは下手な前衛職にも劣らない! 回復と攻撃を彼女は完璧に両立してますの! アカデミー最強の回復役ヒーラーは彼女ですわ!」


「確かにメルは最強の殴り回復役ヒーラーだろうな」

「ようやく認めましたわね!」


「だが、うちのロイスも負けちゃいない! 犬耳族の身体能力の高さは並じゃない。回復に魔法攻撃! さらに状態異常系ロッドでの打撃と戦場を縦横無尽に駆け回る! その場でじっと回復しているだけのお上品な回復役ヒーラーとはわけが違うんだよ!」


「【槍術士ランサー】のダンテが最強! これだけは異論を認めませんわ!」


 アイーシャが鼻息荒く続ける。


「プロの冒険者にも彼に勝てる者はそうそういませんわ!」

「確かにダンテは強い。タイマンで勝てる冒険者はまずいないだろう」

「当然ですわ」

「まあ、人間性にはかなり問題はあるが」

「ぐうの音も出ませんわ」


「だがしかし! うちのジルこそが最強の物理攻撃役アタッカーだと言おう!」


「異論は認めないと言いましたわ?」

「異論じゃない。事実を言っている」

「事実ですって?」


「火力! 手数! 攻撃のバリエーション! どれをとっても一級品だ! うちのジルは攻撃役アタッカーになる可能性を秘めてる」


 互いに一歩も譲らない。

 ただ傍から見ていると『我が子の自慢をする親たち』でしかなかった。


「ちょっと! アナタたちからもこの分からず屋になにか言ってくださいまし!」

「おい! 貴様ら! この脳肉魔導士に誰が最強なのか教えてやれ!」


 そう二人が同時に振り返る。


「アイーシャはレヴィンと入れ替わりで僕らのパーティーに加入したのさ」

「魔導士以外の選択肢はなかったのかい?」

「なかったね。僕たち初期から割と最強だったからさ。パーティー構成を大きく弄りたくなかったんだよね」

「それは分かる。オレたちも初期メンバーのバランスが良かったからそれを崩したくなかった。個々の力を伸ばしてくれるレヴィンが最適だったんだ」


 互いにリーダーでありパーティーの物理攻撃役アタッカーでもあるイケメン二人が親しげに話し込んでいる。

 

「レヴィくんの後任ってこともあってアイちゃんは最初からレヴィくんのことすんごーく意識しちゃってるんだよぉ」

「ぼく、その気持ち少し分かるかも。だって自分が加入してパーティーの戦力が落ちたらレヴィンさんになに言われるか分かったもんじゃないですし」

「分かるぅー、『やっぱり俺様がいないダメだな!』とか言ってレヴィくんすんごく喜びそう」


 大人と子供ほど背丈は違うが、犬耳と兎耳の回復役ヒーラー二人もすっかり打ち解けている。

 

「同じ魔導士ダカラカナー? 二人は顔を合わせればこんな調子アルヨ」

「それ、魔導士あるあるらしいよ? 統計によると、同じパーティーに魔導士を二人以上入れると、上手くいかないことが多いんだってさ」

「確かニナー、魔導士は自己主張の強い人間が多いネ」

「それが面白いと言えば面白いけどね。遠くから見ている分にはだけどさ」

「ソダヨ! 結局、最後に割を食うのはワタシら盾役タンクネ!」 


 盾役タンク同士も頷き合っている。

 仲間たちの様子に白髪青年たちはすっかり毒気を抜かれてしまう。


「皆さん! なにをモタモタしてますの! さっさと金策をすませて! 40階層を突破しますわよ!」


「貴様らさっさと帰るぞ! 明日からバリバリこの沼地エリアを攻略するからな! 覚悟しておけよ!」


 二人の魔導士はそれぞれ反対方向に歩いてゆく

 そんなの二人を目にして仲間たちは顔を見合わせ苦笑するのだった。

 



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