第68話 アカデミー最強パーティー

 レヴィンはイケメンたちの説教から逃げるように31階層のセーフティエリアの外に踏み出す。


「貴様ら! 明日からさっそく『湿地エリア』の攻略を開始するぞ」


 ここから40階層までは『湿地エリア』が続く。


 ダンジョン全体が沼地に覆われとにかく足元が悪い。双剣士ブレイバーなどの素早さ自慢のジョブはその機動力が奪われてしまう厄介な環境だ。

 魔物も沼地らしい両生類系が主体。

 毒系や痺れ系などの状態異常持ちの魔物が多いのも厄介である。

 ただしイケメンどもの心配は別のところにあった。


「ハァー、ついに来てしまったんだね。湿地エリア」

「ぼく、このエリアにはあまり長居したくないです」

「ああ。このエリアはできるだけ早く突破しよう!」


 イケメンたちがぬかるんだ足元を見ながら深いため息を零す。

 泥で足元や身体が汚れるのをはひどく心配していた。


「貴様ら先に言っておくが、ちょっと汚れたくらいでシャワーを浴びたいとか言い出すなよ?」

 

 白髪青年がじろりと睨みつけると、三人が揃ってあらぬ方向に視線を飛ばす。


「なぜ目を逸らす! 俺様の目を見ろ!」


 その時だった。


「やあ、今日もレヴィンは絶好調だね」


 背後からお馴染みの軽薄な声する。

 だから白髪青年は振り返ることなく「早く金を返せ!」と叫ぶ。


「まあまあ、僕とレヴィンの仲じゃないか」


 そう栗毛の幼馴染が背後から絡みつくように抱きついてくる。


「お金なんて気にしない気にしない」

「するわ! ってかダンテ! くっつくな! 暑苦しい!」

「やあ! ジルたちも久しぶり! 元気かーい?」 

「やあ、ダンテ。君はいつも通り元気そうだ。これからダンジョン攻略か?」

「ああ。がいてさ。金策がてらね」

「おい! 俺様に抱きついたままジルと普通に会話をするな!」


「そう言えば、ジルたちは僕のパーティーメンバーとは初対面だっけ?」


「ああ。そうだ。良かったら紹介してくれ」

「おっけー、丁度いい機会だ」

「だーかーら! 離れろッ!」

 

 白髪青年は力任せに背中のダンテをぶん投げる。腹立たしいことに栗毛の幼馴染は猫のようにしクルンと回転して「よっと!」軽やかに着地する。


「許してやれ白頭パイホー。ダンテはオマエにダンジョンで出会えて嬉しいアル」


 拳法着の小柄な猫耳娘が白髪青年の肩をポンポンと叩く。


「まだ辞めてなかったのか猫耳娘」

「辞めるかヨ! ワタシら学園最強ダヨー? 辞める理由がないアル」


 猫耳族の彼女の言葉は少しカタコトである。



「紹介しよう! 小柄でキュートな彼女はマーハオ・ママオハ! 【拳闘士グラップラー】だ! 僕たちの頼れる盾役タンクさ!」



「『ハオ』ダヨ。ヨロシクネ」


 ハオは胸の前で拳を掌に当てる。


「おー! 【拳闘士グラップラー】の盾役タンクとは珍しいね!」


 金髪眼帯エルフは盾役タンク仲間に出会えて嬉しそうだ。


「ハオはいわゆる回避系なのかい?」


「うむ。そうだ。この猫耳娘は防御は『紙っぺら』だが、高い俊敏性を活かして敵の攻撃をちょこまかと躱しまくる」


「いや、なんで白頭パイホーがワタシを差し置いて答えるネ」


「さらにハオは【チャクラ】と呼ばれる自己回復持ちだ。【拳闘士グラップラー】の高い生命力と相まって耐久性も低くはないな」


「相変わらず白頭パイホーは人の話を聞かないアルネ!」


「唯一の欠点は敵視ヘイト管理のアビリティを有していないことだが、圧倒的な火力でそれを補うことができる。火力型回避系盾役タンクとでも命名するか」


「命名するか、じゃないヨ! なに勝手に喋ってるネー!」

「当然だろ? 貴様は説明が下手だからな。代わりに分かりやすく説明してやったんだ。俺様に感謝しろ」

「ナニヨー! ワタシに喧嘩売ってるカー!」


 激しく睨み合う白髪青年と猫耳娘の間に、


「ちょっとぉー! 二人ともぉー、喧嘩しないのぉー!」


 ピンと伸びた兎耳が特徴的な大柄でふくよかな女性が慌てて割って入る。

 兎耳の大娘は白髪青年よりも余裕で背が高い。



「紹介しよう! このばいんばいんのダイナマイトボディの彼女はメルル・メルセデス! 【聖職者クレリック】だ! 僕たちの頼れる回復役ヒーラーさ!」



「もう! レヴィくんもマオちゃんも仲良くだよぉー!」


 兎耳大娘は白髪青年と猫耳娘をそれぞれを片手でひょっと持ち上げて引き離す。


「相変わらずの馬鹿力だなメル。貴様のジョブが回復役ヒーラーってのが俺様は未だに納得できん」


「レヴィくん! ひどいよー! 女の子に馬鹿力なんて言わないでー!」

  

 兎耳大娘がぷくと頬を膨らませて掌で突き飛ばしてくる。

 瞬間、白髪青年はごろごろと大地を激しく転がる。


「「「ええええええええええええ!」」」


 イケメン三人は驚きに目を丸くする。

 しかし、白髪青年は何事もなかったかのようにすくと立ち上がる。

 泣きぼくろが特徴的な黒髪のイケメンがその様子を目にして「ああ、そうか」と納得している。


「レヴィンは元々、このパーティーの初期メンバーだったんだよね?」


「まあな。アカデミーに入学したばかりの頃はダンテと俺様とハオとメルの4人で組んでたな」

「すごくいいパーティーじゃないですか? なんで辞めちゃったんですか?」


 赤髪犬耳少年が不思議そうに尋ねてくる。



「そりゃダンテがハオとメルにせいで、俺様の居心地が超絶悪くなったからだ」



 白髪青年がジト目を向ける。

 猫耳娘と兎耳大娘がバツが悪そうに肩をすくめる。


「ごめんよぉ、レヴィくーん! 私、押しに弱くってさー、ついつい、あの時はダンくんの強引さに負けちゃったんだよぉー!」

「怒るなヨー! 『勝負に負けたら付き合ってくれ』って言われて負けちゃったケドー、ワタシもあの時はダンテがこんなに強いってシラナカッタヨー!」


 ところが、諸悪の根源はまったく悪びれていない。


「二人とも謝る必要なんてないよ。すべてはいい思い出さ!」

「黙れ! 貴様が原因だろうが! まず最初にダンテが謝れ!」


 白髪青年が鋭く睨みつけるが、栗毛の幼馴染は涼しい顔である


「いやいや、レヴィンこそ僕に感謝しなよ。僕たちのパーティーを脱退したからこそレヴィンはジルたちと出会えたんだからさ」


 栗毛の幼馴染がしたり顔で笑う。


「ジルたちは知ってるかな? レヴィンがこれまで組んだパーティーの中でジルたちのパーティーが『一番居心地がいい』って言ってること?」


 途端、イケメンたちが白髪青年に視線を注ぐ。


「……え? レヴィン?」

「レヴィンさん……?」

「レヴィンくん? 本当かい?」


「ふ、ふざけんな! そんなこと言った覚えはない!」


 それに近いことは言ったが。


「照れない照れない! ジルたちも分かるだろ? レヴィンは素直じゃないのさ」

「うるさい! 今すぐそのおしゃべりな口を閉じろ!」


 見ると、イケメンたちが頬をだらしなく緩ませている。


「貴様らァ! なにニヤニヤしてんだ!」

 

 その時だった――、


「オーホッホッホー! このわたくしを忘れてもらっては困りますわー!」


 何者かの高笑いが空から振ってくる。

 見上げると、なぜか女神像のてっぺんにダークエルフの魔導士が直立していた。 


 



 




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