第67話 迷宮調査員
森林エリアのエリアボス【キングトレント】を討伐したレヴィンたちは意気揚々と31階層のセーフティエリアに降り立つ。
「貴様ら喜べ。褒めてやる。今回のエリアボス戦は完璧だった」
「おお! 珍しい! レヴィンがオレたちのことを褒めるなんて!」
「明日は王都に雪が降りますね」
「うん、違いない」
ジルたちが顔を見合わせ笑う。
「俺様をなんだと思ってるんだ? 良いものは良い。悪いものは悪い。常にをそれを公正にジャッジしてるにすぎん」
「つまり、レヴィンに褒められたいなら褒められるようにもっと頑張れってこと?」
「そういうことだジル! 褒められることが珍しいと感じるのは単純に貴様らの努力が足らんだけの話だ!」
白髪青年は悪びれることなく言い放つ。ジルたちは顔を見合わせ苦笑する。すっかり白髪青年の傍若無人にも慣れたものだ。
「それにしても今回のバトル映像が残っていないのが悔やまれる」
「バトル映像?」
「まさしく今回のボスバトルはこのパーティーの集大成と言える内容だった。今一度、全員でバトル映像を見返してこれからの戦いに活かしたかったと思ってな」
「でも、バトルの映像を残すには【
小首を傾げるロイスにレヴィンが「もちろんだ」と答える。
「ダンジョン配信やその映像を記録して残せるのは【
「え? もしかしてレヴィン? 【
「意外だね。レヴィンくんはそういう不確定な要素を嫌いそうなのに」
ジルとミカエルが意外だとばかりに目を丸くする。
「ふざけるな。反対に決まってるだろうが。【
ミカエルが「だと思ったよ」と苦笑する。
同時にジルは「それなら良かった」と胸をなでおろしている。
「実は結構前から【
おそらく『実は女の子』という問題が影響しているのだろう。
下手に映像になんて残され多くの人々の目に触れればリスクが高まるだけだ。
「貴様らがいるこのパーティーにオファーあるのは当然だろうな。ダンテ曰く今は『ダンジョン攻略配信が大衆の
「らしいね。だから毎日のようにダンジョン攻略配信の交渉を持ちかけられてる。皮肉なことに毎回断るものだからギャラがかなり跳ね上がっているよ」
「ああ。ダンテがダンジョン攻略配信は金になるとも言ってたな」
「どうしてもお金が必要だと言うなら検討するけど……オレは乗り気じゃない。配信されてると思うと緊張して、いつものパフォーマンスが発揮できなくなりそうだ。みんなはどうだい?」
「ぼくも反対です。モデルの件で
「ボクも乗り気じゃないよ。ライフワークのスイーツの食べ歩きに影響が出ては困る。それにお金には特に困っていないからさ」
ロイスとミカエルも賛同する。二人の真意もジルと同じだろう。
イケメンたちが白髪青年に視線を寄せる。
「俺様が賛成するとでも?」
レヴィンは憮然と言い放つ。
「まあ、ただ【
「へー、意外ですね」
「配信が攻略速度を速め、冒険者全体のレベルアップに寄与してるのは事実だからな。俺様も【冒険者ライブラリー】で毎日のように連中の残した映像には世話になってる」
「ボクもダンジョン攻略配信が活発になってから冒険者人口がずいぶんと増えたと聞いたことがあるよ」
「だが、人には向き不向きがある! 配信は得意な人間に任せておけばいい。想像してみろ? この俺様が愛想を振りまけるとでも?」
「レヴィンは無理だな」
「はい。無理ですね」
「むしろ威嚇するまであるね」
イケメンたちが即答する。
「実際、【
「その様子が全国に配信されると思うと恐怖しかありませんね。アカデミーの嫌われ者どころじゃすみませんよ」
「レヴィンくんの良さは初見の人にはきっと理解してもらえない。ただでさえ
ジルたちは世界の終わりについて話し合っているかのような深刻な表情だ。さすがにそこまで腫物のように扱われると面白くない白髪青年である。
「くそったれ、人のことを荒くれ者扱いしやがって……俺様にだって常識はある! 場面によっては嫌なことだって我慢するさ」
とは言え、イケメンどもの心配が必ずしも的外れではないので強い反論はできない白髪青年である。
「無理だよ。レヴィン。君は頭では分かっていても、己の道理や信条を簡単に曲げられない性格なんだ」
イケメンたちは即座に首を横に振る。
「そもそも、現在構築中のパーティー戦術が配信を通して世間に知れ渡ることを許せるの? 完璧主義の君が『不完全な戦術』を世にさらすのを良しとするとはオレには思えないんだけど?」
「いや、まあ、それは……」
「自覚ありますかレヴィンさん? レヴィンさんが現在のパーティーをこれまでのように脱退することなく続けていられるのは『ぼくたちが!』貴方という傍若無人な人間に対してとても理解があるからですよ?」
「いや、まあ、それは……」
「そうだよレヴィンくん! レヴィンくんが心置きなく力を発揮できるのは、理解あるボクたちと一緒にいるからなのさ。つまりレヴィンくんはボクたちをもっと大事にすべきだってこと!」
「いや、ミカエルそれは言い過ぎだろ」
「そう? 事実、ボクたちよりも相性のいい冒険者が他にいるかい? もしいるなら教えて欲しいんだけど?」
「いや、まあ、それは……」
イケメンたちから責め立てられ白髪青年は言いよどむことしかできない。
『ふざけるな! 俺様が実は女の子という貴様らの秘密に対してどれほど大きなストレスを抱えてると思ってるんだ! 貴様らこそ俺様がパーティーメンバーでいてくれることにもっと感謝しろ!』
そう内心で吠えるのが精々である。
実際、正しいのだろう。ジルたちでなければとっくにパーティーを脱退している。
白髪青年は幼馴染のいつかの言葉を噛みしめる。
『僕の悪いところも全部知った上で、それでも関わってくれるんだよ? 最高の相手じゃん』
『互いに遠慮しなくていいし。変に期待もされてないから、相手の期待を裏切ることもない。それでいて互いのことがよく分かってるから信頼が置ける』
(ダンテを賞賛するのは癪だが、まったくヤツの言う通りだな……)
ウザいことこの上ないのだが、イケメンどもの態度は日に日にでかくなってゆくし、最近ではご覧の通り苦言も遠慮なく言ってくる。
しかし、なぜだろう。その距離感がなんとも心地よかった。
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