第56話 ポンコツ白髪魔導士
森林エリアに黒髪イケメン青年の叫び声がにこだまする。
「ロイス! 【フォレストベア】が向かったぞ!」
「大丈夫ですジルさん! 回避します!」
がっしりとした四つ足で
瞬間、ロイスは鼻先を踏み台にして魔導士とは思えない跳躍力で巨大な熊の突進を飛び越える。
「ナイスだ! ロイス!」
「君の相手はボクだろ! 〈タウント〉!」
すかさず金髪眼帯エルフの
「〈ヘビィスタンプ〉!」
身の丈ほどの両手剣を大きく振りかぶって熊の脳天に重い塊を叩き込む。
対象を鈍化させる〈ヘビィスタンプ〉の効果も
アイアンクラッドシリーズの両手剣の大きさや重さに使い始めた当初こそ戸惑っていたが、金髪眼帯エルフは三日目して早くも違和感なく使いこなしている。
ジョブ適正もさることながら、本人のセンスと努力の
「ジルくん! トドメはよろしく!」
「任せろ! オレが皆の未来を切り開く!!」
空を舞う鷹が地上の獲物を狙うがごとく。
高速移動の〈
フォレストベアは一瞬にして【生命力】を削り取られ絶命。
巨木が切り倒されるがごとく顔面から大地にドスンと崩れ落ちる。
その様子を確認してイケメン三人が短く息を吐く。今のが十連戦の締めだったのだが、初日とは比較にならないほど余裕の表情である。
一方でイケメンたちとは対照的に白髪青年は曇った表情で
常に抜かりない彼らしくないことに数日前からバトルでのミスが非常に多いのだ。
アビリティの【
仲間の【
魔物からマナを奪取するための〈スナッチブロウ〉の際に余計な被弾をするなど、普段の彼からすると考えられない失敗ばかりなのだ。
もっともイケメンたちが彼のミスを責めることはない。
「レヴィン! ドンマイ! 気にすんな!」
「レヴィンくん! ミスは誰にでもあるよ!」
「レヴィンさんも人間だったんですね。安心しました」
三者三様に慰めてくれる。
だからこそ白髪青年は拳で自らの頬を殴る。
(くそったれ……俺が一番のポンコツじゃないか……)
不甲斐ない自分に苛立っているのは誰よりも自分自身だった。
「みんな! 予定よりも早いけど一旦、休憩にしよう!」
リーダーの黒髪イケメン青年がすかさず提案する。本調子ではない白髪青年を見かねての判断だろう。
レヴィンなら『話にならん。今日はもう地上に戻るぞ』とでも言い放っただろうが、それを言わないのがジルの器の大きさだ。
(いや、俺に気を遣ってるだけか……)
まるで腫れ物に触るような感覚だろう。
「魔物除けの
「ボクが持参したスイーツを食べて英気を養おう!」
イケメンたちはそれぞれ自分の役目をテキパキとこなしてゆく。
「……悪い。ちょっと用を足してくる」
気まずさに負けて白髪青年は一人パーティーの輪を離れる。
レヴィンは茂みをかき分けて高台の崖際まで進む。
吹き上げる風がが白い髪をマントを大きくはためかせる。
レヴィンは眼下に広がる針葉樹林を眺めながら盛大にため息を漏らす。
「しっかりしろレヴィン・レヴィアント! なにが『いつも通りだ』……ちっともいつも通りじゃないじゃないか馬鹿野郎!」
自分で自分が嫌になる。もっと自分は強い人間だと思っていた。
それなのにこれほどまでに動揺してしまうとは本当に情けない。
不調の原因ははっきりしている。
「レヴィン? 大丈夫?」
しばらくしてジル・ジェイルハートが心配そうな顔でやって来る。
「レヴィンが弱音を吐いたりしない性格なのはよく分かってる」
ジルがはさりげなくレヴィンの隣に並ぶ。
「でも、わたしにだけは甘えていいんだよ? わたしも『性別の件』でレヴィンに甘えてるところあるし……だから! 調子が悪いなら無理せずにちゃんと言ってね? わたしにできることならなんだってしてあげるから? ね?」
「いや、大丈夫だ……」
ジルの熱っぽい眼差しからレヴィンは視線を逸らしてしまう。
白髪青年の素っ気ない態度を『今は一人になりたい』のだと受け取ったらしい。
「……じゃあ、行くね」
後ろ髪を引かれるようにジルは「本当に無理しないでね?」とメンバーたちの下に戻ってゆく。
「レヴィンさん。蜂蜜とレモンの飲み物です。気持ちが落ち着きますよ」
入れ替わるように今度はロイス・ロリンズが心配そうな顔でやって来る。
「レヴィンさん? なにか悩んでることがあるならぼくに相談してください。ぼくの特殊な体質について相談に乗ってもらったお返しがしたいんです!」
「まあ、考えておく……」
歯切れの悪い返答を『今は一人になりたい』のだと受け取ったらしい。
「誰かに胸の内を明かすだけでも気持ちが楽になることはありますよ? 実際にぼくがレヴィンさんに秘密を打ち明けたことで気持ちが楽になりましたから……」
後ろ髪を引かれるようにロイスは「飲み物ここに置いておきますね?」とメンバーたちの下に戻ってゆく。
「レヴィンくん! ほら見て! 君が大好きなアップルパイだよ! 疲れた時は甘いものが一番さ!」
最後にミカエル・ミンストレルが明るい声とは裏腹に心配そうな顔でやって来る。
「ごめんよレヴィンくん……ボクがいつも通りなんて言ったせいだよね?」
申し訳なさそうにミカエルが肩をすくめる。
「レヴィンくん! ボクのことを遠慮なく頼ってくれ。ボクが君の分まで頑張るから! ボクが君を支えてみせるから! ボクたちは運命共同体だろ?」
「ああ、そうだな……」
気のない返事を『今は一人になりたい』のだと受け取ったらしい。
「今やレヴィンくんの目的はボクの目的でもある。一緒に100階層を目指したいと本気で思ってる。君は一人じゃない。君にはボクという味方がいるってこと忘れないでくれよ?」
後ろ髪を引かれるようにミカエルは「アップルパイ置いておくから食べなよ?」とメンバーたちの下に戻ってゆく。
一人残された白髪青年は頭を抱えてしゃがみ込む。
「ダメだァ! どう頑張ってもイケメンどもが『女の子』に見えちまう!」
それは血を吐くような叫びである。
白髪青年のここ数日の不調の原因はまさにこれだった。
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