第32話 ギルドオークション

「まさか貴様ら? ギルドオークションを知らんのか?」


 大げさに呆れる白髪青年にイケメンたちがすぐさま首を振る。

「もちろん知ってるさ。冒険者ギルドの二階にあるのも分かってる」

「入学してすぐのアカデミーの講義で習いましたしね。利用の仕方も一応は」

「ただ実はボクたちこれまでまともに利用したことがないんだよ」

 

「オレたち三人はパーティーを組み始めてからずっと大手ファッションブランドの『グラングラン』に装備品のサポートをしてもらてるからな! ギルドオークションを利用する必要がなかったというのが正しい」


「ったくこれだからイケメンどもは!」

「だから、見た目は関係ないでしょ?」


「関係あるッ! イケメンではない俺様の全身はオークション産だからな! 逆説的にそういうことだろうがッ!」


「逆説的って……そんなドヤ顔で言われても反応に困るよレヴィンくん」

 目くじらを立てる白髪青年にイケメンたちが顔を見合わせが苦笑している。


「ギルドオークションはダンジョン冒険者にとっての醍醐味のひとつだろうが! それを活用せずしてこれまで冒険者をやっていたとか信じられん!」


 戸惑うイケメンたちを後目に白髪青年はますますヒートアップする。



「どのような装備品を手に入れれば今より強くなれるのか! それに日々、頭を悩ませ! これだと思った装備品をオークションに足繫あししげく通って探し! これだと目を付けた装備品を落札するためにダンジョンに通い貨幣ルナを必死にかき集め! 他の冒険者と競り合い目当ての装備品を落札できた時の喜びたるや! そして、落札した装備品が思っていたより微妙だった時の悲しみたるや! そうした機微きびを知らんとは冒険者人生の大いなる損失だぞ!」



「良い装備品を落札して無事に強くなれたって話じゃないんだね……」

「嘘偽りない俺様の実体験だからな! 言っておくが、競合相手に競り負けることだって普通にあるからな?」

「そういう失敗もオークションの醍醐味だって言いたいわけですか?」

「言いたいわけだ!」

 白髪青年が魔導士のマントを派手にはためかせ立ち上がる。


「口で説明しててもらちが明かん! 貴様ら今からオークションに行くぞ! 俺様について来い!」


「え? 今から? オークションに?」

「こんな夜更けでもオークションは開催されてるんですか?」


 白熊亭はますます賑わいを見せているが、すっかり王都のは落ち街の人々はそろそろベッドに潜り込む時間である。


「当たり前だろうが! ダンジョンは眠らない! オークションだって同様だ!」


 白髪青年が空になったグラスをテーブルに叩きつける。即座に「はーい、これも没収でーす」と褐色メイドにグラスを奪われる。


「ちなみに! 草原エリアや荒野エリアなどの低階層のダンジョンは夜に潜っても真昼間だ! 【無限迷宮】は外部の時間や季節や気候の影響を受けない! これは学期末の試験にも出るから覚えておけ!」


 熱血講師のごとく熱弁をふるう白髪青年の横顔を、泣きぼくろが特徴的な黒髪イケメン青年がまじまじと見つめている。


「――レヴィン。君、かなり酔ってるだろ?」


「は? この俺様が酔ってるだと!? ジル! 寝言は寝て言え! 俺様はこれまでの人生で一度も酔ったことはない!」


 嘘である。そんなわけはない。


「あ、ダメだ。完璧に酔っぱらってる」


 すぐさまジルが聞き分けのない息子を諭す母親みたいにレヴィンをいさめる。


「レヴィン? 今夜はもう寮に帰って寝よう? オークションはまた日を改めて一緒に行けばいいじゃないか! ね?」


 しかし、アルコールによる弱体化デバフによって精神年齢がいちじるしく低下している白髪青年が素直に言うことを聞くはずもなかった。

「嫌だ! 今から行く!」

「明日にしよ? 酔っ払いのレヴィンじゃなくて素面しらふのレヴィンからちゃんとした説明を受けたいよ」

「鉄は熱いうちに打てと言うだろうが! 今の俺様の熱い気持ちを貴様らに伝えるために今この瞬間を逃してはダメなのだ!」

「わがまま言わないでくれ。レヴィンがオレたちのために真剣なのはわかっ――」

「うるさい! 黙れジル!」

 レヴィンは口うるさいジルをぐいっと力任せに抱え上げてそのまま歩き始める。


「ちょ、ちょっと! レヴィン!」


 それは俗に言う『お姫様だっこ』というやつだった。

 なぜか遠目で「あら~!」と褐色メイドが瞳を輝かせている。

「ロイス! ミカエル! 行くぞ! ついて来い!」

 本人は否定したが、白髪青年は間違いなく酔っていた。


 なぜなら、この瞬間のレヴィン・レヴィアントはジル・ジェイルハートが『実は女の子』だということをすっかり失念していたのだから――。


 白髪青年の腕の中で借りてきた猫のように大人しくなっているパーティーリーダーにロイスとミカエルが『どうします?』と視線で合図を送る。


「ごめん二人とも……少しだけレヴィンに付き合ってあげて」


 ジルはひどく申し訳なさそうに答える。しかし、言葉とは裏腹にその顔はひどく嬉しそうである。


「もう、ジルさんは……なんだかんだレヴィンさんに甘いんだから」

「まったくレヴィンくんの強引さには負けるよ」


 もっとも、口では文句を言いながらもロイスとミカエルも笑顔で白髪青年に従う。なんだかんだ皆、今夜は気分が良いのだ。

 無事に20階層を突破したこともそうだし、アルコールも要因のひとつだろう。

 しかし、なによりも自分たちのパーティーが『今よりももっと強くなれる』という確かな手応えに高揚こうようしているのだった。

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