第25話 アーマースコーピオン戦

 ボスエリアに突入するとリーダーのジルが「レヴィンよろしく!」と促してくる。

 今やレヴィンはこのパーティーにおける作戦参謀のような立場である。


「最終確認だ。20階層のエリアボスは【アーマースコーピオン】。物理防御が恐ろしく高いサソリ型の魔物だ。これまでのようにジルに依存した戦い方ではジリ貧になるのは間違いない」


 白髪青年の言葉にミカエルとロイスがいつにも増して真剣な表情で頷いている。

 

「そこで攻撃のかなめになってくるのはミカエルの属性攻撃とロイスの攻撃魔法アビだ。敵視ヘイトもマナの残量も気にするな。リキャストが終わるのと同時にアビぶち込め。いいな?」


「本当に大丈夫かな? 聖騎士パラディンの攻撃がどこまで通用するかボクは不安だよ」

「アタッカーじゃないぼくたちでは結局、ジリ貧ってオチになりそうですけど?」

 不安げなイケメン二人の背中をレヴィンがバシッと叩く。


「忘れたのか? このパーティーには強化のスペシャリストがいるんだぞ? 俺様が貴様らにアタッカーの世界を体験させてやる!」


「分かったよ! ここまで来たんだ! やるしかないよね! 頼りにしてるよレヴィンくん!」

「言い出しっぺは貴方ですからね。頼みますよ。レヴィンさん」


「レヴィン! オレも雷属性の遠距離アビ〈雷轟電撃らんごうでんげき〉が使えるぞ!」


 暴れたくてうずうずしている黒髪イケメン双剣士ブレイバーが会話に割って入って来るが白髪青年は「黙ってろジル」と一蹴する。


「今後のダンジョン攻略を見据えて、ジルに依存した戦い方から脱却だっきゃくするのが今回のテーマだ。貴様は大人しくちまちまと通常攻撃でもしてろ」


「ま、待ってくれ! せめてアビ妨害の〈寸鉄殺人すんてつさつじん〉は打たせてくれ! アーマースコーピオンの尻尾から放たれる『猛毒噴射攻撃』を必ず止めてみせる!」


「いらん! アビの妨害ならミカエルの〈シールドバッシュ〉で間に合ってる。万が一猛毒に侵されてもロイスの状態異常回復アビ〈リミッション〉で対応できる」

 レヴィンにじろりと睨みつけれらてジルがしゅんと肩を落とす。

「まあまあジルくん。今日くらいボクたちに任せておくれよ」

「ですね。いつもぼくたちはジルさんのお世話になってますから」

 イケメン二人が黒髪イケメン双剣士ブレイバーを慰めている。


「よし。ロイス戦闘準備をするぞ」

「了解です。レヴィンさん」


 レヴィンとロイスがパーティーメンバーに強化魔法アビを付与してゆく。

 ロイスは防御UPの〈プロテクション〉を。

 レヴィンは攻撃UPの〈インテンシティー〉、速度UPの〈アクセラレーション〉、クリティカル率アップの〈アジテート〉にクリティカルダメージUPの〈デストロイヤー〉をミカエルとロイスの付与する。


「え? レヴィン? オレに強化アビはないのか?」

「脇役の貴様に割くマナはない」

「ひどい!」


 ジルがくちびるを尖らせる。面倒なことに仲間外れにされたことで『黒髪の彼女』が顔を覗かせている。


「あー、わかったわかった! 貴様にも〈アクセラレーション〉をくれてやる! その代わり一回でもダメージを受けることは許さん!」


「一回も? レヴィンそれはちょっと厳しくないか?」

「厳しくない! 今回のジルのテーマは『回避』だと前もって伝えただろうが!」

「それは覚えてるが……」

「超攻撃特化の貴様が敵視ヘイトを買ってしまうのは仕方がない。ならば少しでも魔物の攻撃を回避するしかないだろ? 双剣士ブレイバーの紙防御はどうしようもないんだからな」

「くっ……防御力のことを言われると返す言葉がない」

 ジルはそう白旗を上げるように首を小さくすくめる。

 勇猛果敢なジルにとって逃げ回るのは不本意だろうが、今後のためにも戦闘スタイルに幅を持たせることは重要なのだ。


          ◆◇◆◇◆ 


 鋼の甲冑を思わせる黒光りのボディを持つ巨大なサソリ型の魔物——アーマースコーピオンが荒野エリアのボスである。


 特筆すべきは圧倒的な物理防御力の高さと、尻尾による猛毒噴射攻撃だ。

 敗北するパーティーの多くが、まともにダメージを与えることができずに長期戦となり、猛毒によるスリップダメージによってジリ貧になるパターンだ。

 

 対処方法としては、攻撃魔法アビや属性攻撃アビを主体に戦うこと。

 攻撃魔法アビや属性攻撃アビを使えるパーティーメンバーがいない場合は、少々お値段は張るが属性武器を揃えるという手もある。

 あとは冒険者アカデミーでは推奨されていないが、アーマースコーピオン戦だけ魔導士系の学生を雇うという奥の手もある。


(ま、実際にアカデミーの魔導士の中にはこれで小遣い稼ぎをしている連中がいるからな)


 かく言うレヴィンも過去に幼馴染のダンテに誘われて助っ人としてアーマースコーピオン戦に参加したことがある。

 言うまでもなくアビや薬品などによる毒対策は必須だ。


 聖騎士パラディンのミカエルがアーマースコーピオンに挑発アビ〈タウント〉を発動させて戦闘開始だ。

 相手の動きをにぶらせる〈ヘビィスタンプ〉を叩き込むのもいつもの流れ。しかし、ここからが今日は違う。


「〈ホーリーストライク〉!」


 金髪眼帯エルフが青光りする片手剣を黒光りする鋼鉄のボディに振り下ろす。さらにいつもなら序盤は様子見の赤髪犬耳少年も攻撃魔法アビでアグレッシブに続く。


「〈フラッシュターミネイト〉!」


 白魔導士ホワイトメイジの握るロッドの先から一直線に放たれた眩い光線が黒光りのボディを貫く。

 レヴィンの『攻撃強化アビ』の乗った連続攻撃にアーマースコーピオンの生命力が目に見えて減ってゆく。通常よりもダメージ量が多いのは一目瞭然である。


「レヴィンくんッ!」

「レヴィンさんッ!」


 ミカエルとロイスが興奮した様子で振り返る。おまけ程度でしかなかった自分たちの攻撃がここまで大きな効果を発揮するのは初めての体験だろう。

 だからレヴィンは自信たっぷりの態度で返してやる。


「よそ見をするな! 当然の結果だ! その調子でガンガン攻めろ!」


 イケメン二人は表情を引き締めるとすぐさまバトルに集中する。普段とは違う立ち回りに戸惑いながらも、二人は果敢に攻めてゆく。

 そんな二人にレヴィンは思わず笑みを零す。


「……まあ、あいつらの気持ちはわからないでもないがな」


 盾役タンクには盾役タンク回復役ヒーラーには回復役ヒーラーの面白味がある。しかし、敵の生命力をゴリゴリ削るアタッカーの立ち回りには格別の楽しさがあるのは間違いない。


 白髪青年は強化のスペシャリストとして攻撃魔法アビを安易に行使することを良しとしていないが、魔物の大群をぶっ飛ばす爽快感を知らないわけではないのだ。

 

(とにかくミカエルとロイスに今回のバトルで、やり方次第で自分たちも戦えるという自信をつけてもらわないとな)

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