あと半歩の勇気(中)
僕は製品が好評だったことで満足感に浸っていた。それは詠子も同じようだった。
それに開放感もあった。休日を返上して打ち込んだ。来週からはその分の振替もあって、遅い夏休みがやってくるのであった。
休みなく働く。そのことは、これまでの僕にとって何よりも苦しいことであった。
しかし、今度のプロジェクトは違った。
詠子とは入社以来、オフィスで顔をあわせることはあっても、かかわりがなかった。
しかし、キャンプブームに便乗したアウトドアグッズの開拓、その会社のもくろみのために二人は同じチームとなったのだ。
期日が近づくにつれ、仕事量は増えていった。しかし、僕はそれを苦痛として受け取らなくなっていった。言うなれば、文化祭のために、放課後の教室で、ハリボテのお化け屋敷を組み立てているような、そんな高揚感がどこかにあったのだ。それは詠子がいるためであることを僕はいつ知れずに自覚していた。休日出勤は詠子と二人きりで語り合える時間だったのだ。
試作品が工場から送られてきたとき、僕はそれがイメージ通りのものであることを喜んだ。だが、詠子はいささか不満のある顔つきをしている。彼女が気にしたのはその重量である。なるほど、昔から過酷な沢に登り慣れた僕とは違って、ライトなユーザーには負担が大きいものであるようだ。
その問題は幸いにも、デザイン上の無駄を省くことによって達成されそうなことであった。パソコンで設計図を書き換え、すぐに工場へと送信した。
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