情緒不安定な俺が奴隷を買った結果
シャルねる
情緒不安定な男は奴隷を買う
「ママー? あの人なんで泣いてるのー?」
「見ちゃいけません!」
なんで俺は泣いてるんだろうな。てか、なんで外に出てきてるんだよ俺。あぁ……他の奴らも俺のことをいきなり泣き出して、気持ち悪いやつだと考えてるんだろうな……。
なんで買い物なんかに来たんだ俺は……別に餓死してもいいじゃないか。なんで……なんで! あぁ、クソ!
「さぁさぁ! 今日は最後に特別商品が売られる予定です! よろしければ皆様どうぞお立ち会いください!」
特別商品? あぁ、奴隷か……買ってみるか。金は有り余ってるんだし。人肌に触れたい。俺のこの症状? がすこしでも緩和されるかもしれないしな。そいつのせいで悪化するぐらいなら金を渡して、奴隷から解放すればいい。俺なんかの奴隷から一秒でも早く解放された方がそいつも幸せだろうしな。あぁ、買うの辞めようかな……でも……相手は奴隷で人じゃないんだ。そいつにどう思われようがいいだろ!
「あぁぁァ」
「ちょっと、あの人また急に泣き出したわよ」
「気持ち悪いわね。早くどっか行ってくれないかしら」
分かってる。気持ち悪いことぐらい俺が一番分かってるんだよ!
あそこだよな……オークション式なのか。
俺が入口に近づくと、黒いスーツを来た男に目元を隠す仮面を渡された。さっきまで泣いてたわけだし、ちょうどいい。
そしてしばらく経つとさっきの人寄せをしていた男が司会を務め始める。
そして始まったオークション。
「まずは一人目! 人族の女です!」
「金貨10枚!」
「15枚!」
「20枚!」
もう、こいつでいいか。
そう思い金貨100枚ぐらい一気にいこうと手を上げ、声を出そうとした瞬間、その女と目が合った……気がした。
俺が買うのは嫌がってるような気がしてきた。だったらなんだよ! 相手は奴隷だろ!
「――ではそこのあなたが金貨70枚で落札です!」
そんなことを考えているうちに落札されてしまった。まぁいい。別にあんなやつじゃなくてもいいんだ。
「では二人目! 今度は獣人族の女です!」
「金貨30枚!」
「40枚だ!」
「45枚!」
今度こそ、買うんだ。
「ぁ」
また、目が合った気がした。いや、俺は仮面をしてるんだ。違う。違う。なんで、なんで俺は奴隷一人落札することも出来ないんだ……もう、俺はダメなんじゃないか。
「――今度は金貨100枚で落札です!」
くそっ! また買えなかった。あんな女のどこがいいんだ! あぁ、なんで俺は……
「では最後の目玉商品です! 皆様の中には、もう? と思う方もいるでしょうが、最後の商品はエルフです!」
司会がそう言うと会場が沸きあがる。
「金貨500枚だ!」
「510枚!」
最後……なんだから俺も。よし、目を瞑ろう。これなら……大丈夫だ。
「1000枚だ!」
そう俺が口にする。視線が集まってる気がする。目を閉じているから分からないが、なんだアイツは? といった視線を感じる。
「1100枚!」
「2000枚!」
「2000枚! 2000枚以上の方はいませんか!? では、2000枚の方が落札です!」
よし。やっと落札できた。
俺は奴隷のエルフと奴隷契約をするために会場の裏へと呼ばれた。その時始めて見た目を確認したが、長い白い髪に赤っぽい瞳の身長150cmぐらいのエルフだ。
「お客様!? どうかされましたか?!」
「なんでもねぇ!」
別に悲しい訳じゃない。なのに涙が出てくる。いつもの事だ。そして些細なことでイライラしたかと思えば、気持ちが落ち込む。
「そ、それでは、奴隷契約に入らせて頂きます」
「……ああ」
そして順調に進み、エルフ……(名前は一応リーシャと言うらしい)の中指に指輪が嵌められ、俺の中指にも指輪が嵌められる。これによって命令に逆らえないらしい。
「ご、ご主人様……よ、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるエルフ。
「家に向かう、ついてこい」
「は、はい」
俺は自分の家……無駄にデカい、一人で住んでる屋敷へ向かう。
「お、大きいですね……」
想像していたより大きかったのか、エルフは驚き、足を止める。俺はそれに無性にイライラし、怒鳴るように言う。
「さっさとこい!」
「ご、ごめんなさい……」
「……悪い」
「……い、いえ」
くそっ、怖がらせてどうするんだ。
「あ、あの……私は何をすれば……」
「食料は買ってきたから、適当に食って、適当に過ごしてろ。俺が寝る時は俺の部屋にこい」
「――ッ、分かりました」
俺は部屋に戻り、眠くなるまで、ボーっとして過ごした。食欲も湧かないので、本当に何もせず、何をするやる気もおきず、ただ、ボーっとして過ごした。
しばらくな時間がたったと思う。眠たくなった訳じゃないが、エルフを呼びに行く。
部屋を出て、リビングに行くと、ソファに縮まって座っていた。
「寝るから、こい」
「は、はい……」
部屋に入り、扉を閉める。
「ベッドに入ってくれ」
「分かりました……」
エルフがベッドに入ったのを確認し、俺もベッドに入り、エルフを抱きしめながら目を閉じる。
「あ、あの?」
「あ?」
「そ、その……エッチなことをするのでは……?」
「……そんなわけねぇだろ! ……俺はただ、人肌が欲しかっただけだ。だからお前を買った。もう喋らずに寝ろ!」
俺なんかにこんなことされて嫌だろうな……いや、奴隷なんだから余計なことを考えなくていいんだ。余計なこと……
「ご主人様様……大丈夫ですか?」
「喋るなって言っただろ!」
「で、ですが涙が……」
「うるさい! お前は黙ってそうされてればいい」
何も喋って来なくなったので、俺はイライラしながらも眠りについた。
「あ、おはようございます」
「チッ」
目が覚めると、エルフの顔が目に入り、無性に腹が立ってきた。
「もういい」
俺はそう呟き、ベッドから降りると、金の入った袋と一緒に奴隷の指輪をエルフに向かって投げつける。
「それ持ってさっさと出ていけ! 自由に生きていいから」
「な、なんで……」
「あぁ? 別にお前が居なくなったって――」
「そう、ではなく……なんで、泣いているんですか?」
「――ッ、知るかよ!」
別に悲しい訳じゃない、はずだ。昨日買っただけの奴隷を手放して悲しいなんてありえない。いつもみたいに意味もなく流れる涙だ。
「さっさと出ていけよ!」
こいつも早く出ていきたいはずだ。俺なんかの奴隷でいるのが辛くないわけがない。
「……大丈夫ですか?」
一瞬の事で反応出来ず、エルフが俺のことを優しく抱きしめて、頭を撫でてくる。
「な、にを……?」
「大丈夫ですよ」
「……はぁ? なんだ? 金が足りなかったか? だったら正直にそう言えよ!」
俺は涙を流しながら、こいつを突き放そうとする。
「そう言う訳じゃないですよ。自由にしていいって言ったじゃないですか。だから、こうしているんですよ」
「意味が、分からない」
「正直に言うと、私も分からないですよ。でも、ほっとけなかったんです。ご主人様の辛そうな顔を見るのは」
何、言ってんだ、こいつ。
「だから、私はご主人様のそばに居させて貰いますね」
「そ、そんなの俺が許可する訳が――」
「さっきも言いましたが、自由にしていいとご主人様が言ったじゃないですか」
「そもそも俺は、いきなり泣き出したりするし、無性にイライラしてお前に当たることもあるだろうし、かと思えばネガティブな思考になったりして……」
「大丈夫ですよ。一日過ごしただけですけど、ご主人様の根が優しいのは何となく分かるので」
意味が分からない……俺の根が優しい? そんなわけないだろ。
どうせ、直ぐに嫌になるに決まってる。分かりきったことだ。自分が一番自分のことを分かってるんだよ。俺だったら、俺みたいなやつと一緒になんていたくない。
「よしよし、大丈夫ですから、私はずっとご主人様の傍にいるので、どこにも行きませんから、だから泣き止んでください」
なんで、こんな奴に頭を撫でられて……心地いい気分になるんだ……。
「……ほんとにいいのか? もう、俺から離れさせないぞ」
「大丈夫です!」
「……依存するぞ」
こんな情緒不安定な俺だからこそ分かる。そうなる事が。
「望むところですよ!」
「意味、分からねぇ」
そう言うと俺の腹の音が鳴った。
昨日は食欲がなかったのに、不思議と今は腹が減っている。
「……昨日何も食べてない。なんか作ってくれ」
「分かりました! 任せてください!」
情緒不安定な俺が奴隷を買った結果 シャルねる @neru3656
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