第51話

「あのネクタイどこのだよ」


「え?知らない」


「いつもしてた犬の足跡の、ブランド物なんですけど?」


「え!あんなのが?」


「あんなのがだよ!生地が全然違うから。だから、俺がやるよ。社長って、以原じゃないとだめなわけ?」


「…は?」


「は?じゃねーし!社長してやるから、みどりはまた研究室に戻れたらいいなって思ってる」


「え?研究…?」


「俺らは共同研究なわけ。個人のじゃねーし!別に俺じゃなくてもいい。でもみどりの論文は、個人のもあるでしょ?」


「え、なんで知ってるの?読んだこと…」


「俺はね、一通り論文全部読みます。誰のでも発表されたのは読みます。だから、みどりの論文は全部読んでるよ」


「そうなの…。守、すごい…そんな時間…」


「俺はね、天才なんだよ。入院しすぎて文章読みすぎて、いくらでも読めるから!だからまた読ませてよ」


「そ、それは無理。社長…私が任されたわけだし?」


「うるせぇ!早く母親と会わせろ。なんならメールしてやるよ!」


「守…でも、しご…」


みどりの手を握る。


「俺のこと好きなら、俺に仕事譲れよ。社長とかやってやるし!」


「俺様の守、かっこいい」


「うるせぇよ。変態」


「ありがとう」


みどりに抱きつかれる。素直に言えない俺を、なんで理解してくれるんだよ。

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