致し方なく追放されたメンツで、やむなくパーティを組もうと思います
@yoshidaraiden
第1話 本当に申し訳ない
「ノクタス。お前は今日でクビだ」
クエストの後、喧騒に沸き立つ酒場に呼び出された俺を待っていたのは、そんなシンプルな言葉だった。俺が無言でパーティの主、青銅印のルドルを見返すと、彼は椅子の上で足を組み、顔を反らせて俺を見下ろした。
「追放される理由…分かってるよな」
「……」
俺はただ押し黙る。ルドルはこちらの反応を無視してぶっきらぼうに言った。
「じゃあ、荷物を纏めて出てってくれ。明日には宿屋のお前の部屋を引き払う。もう話は通してあるから、とっと行け」
ルドルは俺と目も合わせずに顎でしゃくった。周囲のメンバー、
俺は溜息を吐き、椅子から立ち上がった。
無言の彼らに背を向け、酒場の扉へと向かう。だが、扉に手を掛けたところで振り返った。
「…そういえば、最後に言っとくことがある」
パーティの皆に目を戻して口を開く。全員上を向いたままだ。俺が席を立ったにも関わず、不自然な姿勢を保ち続ける彼らに俺は深々と頭を下げた。
「みんな、今までありがとう」
その一言で、上を向いて固まるルドルの顔から一筋の涙が溢れたかと思うと、突然全員が輪になっておんおんと泣き出した。苦笑してそれを眺める中、彼らは泣きながら俺に飛びついてくると、すまん、ごめんと口々に謝った。
「ごめんなぁ、ノクタス!!でも、これしかねぇんだ…!」
「ずっと一緒にやって来たのに、ほんとにすまん!申し訳ねぇ…!!」
「ノクタス、ごめんね!あなたは何にも悪くないのに、ごめん…」
声を震わせる彼らに、俺も思わず涙腺が緩みかけたが、それがバレる心配はない。
何故なら、俺は酒場という誰もが服装を緩める憩いの場で『全身鎧』の姿のまま突っ立っているからだ。顔も当然フルフェイスの兜に包まれているため、涙が濁流となってスリットや首元から溢れ出ない限りは安心というわけだ。
ちなみに全身鎧の理由は別に、俺が酒場で鎧を脱ぎもしない非常識で空気が読めない男だから、というわけでは決してない。
これはとある『呪い』のせいだ。
話は一月前に遡る。とあるダンジョンを踏破し、皆で喜びあっている最中のこと。踏破することで生成される宝箱を開けた時の事だ。俺たちは実力以上のダンジョンをクリアしたことで、大分興奮していた。そのために宝箱を『
だが、罠から飛び出したのは攻撃力の無い白い煙。
そして罠が齎した呪いは『
装備が変更できなくなるというシンプルかつ嫌がらせのような効果を発揮するその呪いは、効果のしょうもなさに反し、解呪難度ランク10のうち二番目に高い9に属する。そのランクの呪いを解呪出来るのは王都にいる宮廷魔術師や国の精鋭、降魔騎士団ぐらいのものだろう。
俺たちは慌ててダンジョンから駆け戻り全員で解呪してくれる魔術師を探したが、そんな実力のある者は、この辺境の街、リトル・ドラードのどこにもいなかった。
一応、国が運営している解呪教会のパンフレットを見ると、解呪費用は3億5000万
この時点で、少なくとも短期間で解呪する手段は潰えた。
そうして俺は一月の間、装備を変更することもできず、すなわち防具を脱ぐことも出来ずに生活してきたというわけだ。不便極まりない上に誠不衛生だが、俺は一人暮らしのころに少しでも楽をするために身に着けた無駄に高性能な『
そんな個人的事情などよりももっと重大な問題があった。それは、パーティのギルド資格の更新時期が目前に迫っているということだった。
ギルドではランクが分けられ、等級順に、
争点となったのは、資格更新の際に『素顔を晒して面談を行う』必要があるということだ。
面談内容は大体通り一遍な世間話に近いものなためどうでもいいが、素顔を確認できない場合、更新が通る可能性は皆無らしい。
俺たちは慌て、ギルドの職員にどうにかできないかと聞いて回ったが、彼らは『規則です』とにべもなかった。最初からフルフェイスの鎧で登録されていればまだしも、呪いで途中から鎧が脱げなくなった、という事例に対しては『対処法がマニュアルにない』そうだ。
パーティは俺を除いて皆貧しい村の出身で、稼いだ額の大半を仕送りに送っている。皆の暮らしを少しでも楽にしようと、血のにじむような努力で青銅印を手に入れたのだ。更新に失敗し、印を失えば、それも全て無駄になってしまうだろう。
そのため俺は少し前から『自分がパーティから離脱するしかない』と内心覚悟を決めていた。それでも、パーティの皆は必死に方法を探し、リーダーのルドルは「お前が勝手に離脱することは許さない。最後はリーダーの俺が決める」と励ましてくれた。
だが、あくまで青銅印に過ぎない俺たちに、国の規則の抜け道を探す手段は終ぞ見つからなかった。そういうわけで今日、半ば決定事項だった『離脱』を、リーダーとしての責任感からか『追放』という形で伝えられた、というわけだ。
何日か前に、「別れるなら涙は無い方がいいな」と俺が零したのを聞いていたのだろう。その言葉を守ろうと必死に涙をこらえた結果、先ほどのような不器用な顛末になってしまったらしい。
頭一つ分小さい彼らを抱くようにして慰めたが、自分が鎧姿の為、相手が痛いかもしれないとためらって肩に手を置く程度になってしまう。彼らとは喧嘩をしたこともあったが、一緒に汗水を垂らして努力してきた。仲間、という言葉が自分の中で一番合っているだろう。
別れるのは辛いが、彼らの為にもこれが一番なのだ。ひとしきり抱き合い、酒場の野次馬たちの衆目を集めてから、ややあって彼らに背を向ける。
「ほんどに…ずまん…!!…いばばで、ありがどう…!」
「何か解呪方法が見つかったら、すぐ伝えるからね!そしたら、また一緒にやろ!」
「たまに顔を見せに来いよ!パーティやめても俺たちは友達だぞ!」
一番大号泣するルドルにみんなで泣き笑いし、リックとランバが背中を叩いて乱暴に慰めるのを眺めながら、遠くなっていく彼らに何度も何度も大きく手を振る。やがて自分が角を曲がり、彼らの姿は見えなくなった。
俺は腕を下ろし、スリット越しの狭い視野で通行人にぶつからないよう、注意しながら暗い夜道をゆっくりと歩いた。借家に荷物を取りに行ったら、取り合えず、『念のため』と皆に紹介され、予約も取ってくれてあった仮宿に向かおうか、と思いつつ立ち止まって月を見上げる。
雲で途切れた三日月が、ちらちらと弱い光を零す。それを眺めながら俺は顎に手をあて、月明かりで将来を見通せないか、とばかりに目を細めた。
「さて…これからどうするかな…取り合えず、パーティは組まなきゃいけないよな…」
自身の鎧姿に目を落とし、俺は小さくため息を吐いた。
致し方なく追放されたメンツで、やむなくパーティを組もうと思います @yoshidaraiden
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