第7話 力愛不二
一徹が目的地に到着すると、そこには小さな廃ビルがあった。
トラックの搬入口があることから、配送関係の会社だったのだろう。移転したのか、廃業したのか分からなかったが、今は少女達の監禁場所になっている。
一徹は搬入口の横に立っていた男に、正面から近づく。
近づいてくる一徹に、男は怪しむ。
男は、10代後半ぐらいに見える。
デップリとした体格をし、あの男と同じスカジャンを着ていた。
どうやら、そのスカジャンがこいつらのチームジャケットなのが分かる。
男は一徹を見ると不敵な笑みを浮かべる。
一徹は、男の顔に痣があることに気づく。引っ叩かれたような跡だ。
何の跡か一徹は理解した。平手打ちを使うのは、突きや蹴り技を知らない女が使う攻撃方だ。
「よう。顔は、大丈夫か?」
一徹は、男の頬にある傷を指摘する。
男は一瞬、顔をしかめ、一徹に言う。
「オッサン。誰だテメエ」
男は、自分の顔に出来た傷を撫でながら言い、一徹は受け答える。
「女達に、やられたんだろ。活きが良いじゃないか、どこに居るんだ?」
一徹は作り笑いをする。
「だから、誰だよ。テメエ」
男が訊くと、一徹はウンザリした顔で言う。
「何だ。客が来たのに、口の利き方も知らないのか」
一徹は、街中で倒した男の特徴を言い、そいつから売春の件を聞いたと言う。
「ヒロの野郎か。まだ売春をさせる人数も少ねえから、もう4~5人、家出女を確保してから始める予定だったろうに。もう客を勧誘してやがったのか」
男は舌打ちする。
「で、どこだよ? 女は、未成年なんだろうな」
一徹は芝居とは言え自分の言葉にイライラしながら言うと、男は鼻で笑う。
「オッサンだけに、スケベだな」
一徹はその態度にイラっとするが、抑えて質問を続ける。
「何なら、このまま帰ってもいいんだぞ」
一徹は興が冷めたように言うと、男は慌てた様子で言う。
「分かった。奥の事務所だ。付いてきな」
男の後について行くと、そこは倉庫のようになっている部屋だった。
奥にプレハブのような建物があり、監禁場所になっている事務所だと察した。
奥の方ではスカジャンを着た男達が9人もおり、ここにあった椅子やソファーに腰掛けていた。
一徹は一見して不都合を越えて死を予感した。正面に居る男を加えれば敵は10人。
1対10。
という数の不利益を、一徹は直感的に感じたのだ。
里美に、男達の数を訊かないで来てしまったが、どの道行かない訳にはいかなかった。
一徹の中で、かつて6人の不良に殴られ、外傷によって寝たきりになったことを思い出す。
恐怖に見舞われるが、里美が受けた辱めや、囚われている少女のことを考え、自らを奮い立たせる。
助けられるのは自分しか居ないと。
「奥に家出娘達が2人居る。どっちも、まだ処女だから安心しろ。オッサンがお客様、第一号だ。良かったな」
男はニヤッと笑って言うと、正面を向き仲間達に声をかける。
男達の視線が一徹の方に集まる。
頃合いだった。
もう自分を偽る必要はない。
一徹は拳を構えると、案内役の男の側頭部を殴りつける。
不意を突かれた男は吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
1人目。
男達は、仲間の一人がやられたことで、慌てて立ち上がる。
「おい! 何やってんだよ!」
男が叫ぶと、他の男達が一徹を囲む。
「クソガキ共が、女を使って売春を強要させようとしやがって。それでも男か!」
一徹は叫ぶと、目の前にいた男に前蹴りを放つ。
男は避けきれず、腹にまともに食らうと後ろに転がる。
別の男が鉄パイプを振り上げて襲いかかってくる。
一徹は避けると、後ろから羽交い締めされる。
一瞬、一徹は息が詰まった。
だが、怯むこと無く男の腕を掴み足元を払い、地に叩きつける。
男は肩から地に落ちると、くぐもった声を上げる。
そこに下駄による踏み付けを、男の顔面に入れる。
2人目。
男が、一徹が攻撃に使用した脚を蹴っていた。素人の蹴りではあったが、運悪く関節を狙われて、一徹はバランスを崩す。
その隙に、横からもう一人が鉄パイプで殴ろうとしてくる。
一徹は、しゃがみこんで鉄パイプを避けると、相手の足を引っ張る。
そして男の脚に腕を巻き付かせると、柔道でいう自分の体の脇から斜めに相手を落とす技・体落の要領で男の足を掴んでの無理やりの投げで、男を顔面から床に叩きつける。
3人目。
残心を決める前に一徹は顔を横から殴られる。
ガードが間に合わなかったので、パンチの
パンチにしろ蹴りにしろ、腕や脚が伸び切った瞬間が、最もダメージが大きい。これだとパンチは食らうが、腕が伸び切る前なので、ある程度威力を軽減させることができる。
しかも、密着できるなら一徹の本分だ。組み付いての投げがある。
一徹は男にぶつかるような勢いでスカジャンを掴むと、引き手(左手)で男の重心を崩し、右脚で男の右脚を狩る。
大外刈が決まった。
男は後頭部と背中を強打した。
4人目。
そこで一徹の疲労度はピークに達していた。
柔道団体戦で勝ち抜き戦を採用されている場合、一人で勝ち抜けるのは2人ないし、3人くらいまでだ。
一徹は4人勝ち抜いた。
しかも、一試合ごとのインターバルも無しだ。
まともに戦っていたのでは男どもを全員倒すことはできない。
一徹は囲まれないように男達の囲いの輪から抜けると、呼吸を整える。
30秒。
いや、せめて15秒もあれば、かなり体力が回復できると一徹は思ったが、男達は待ってくれない。
6秒。
それが回復に使用できたインターバルだ。
6人の男達が居るなか、引き気味にいるリーゼントの男が居た。
おそらくリーダー格の男だろう。
そいつさえ倒せば勝てるはずだ。
リーダー格の男は、仲間二人にかかるように言う。
有利になったと一徹は思った。
一度に2人だ。6人全員でかかられるよりはマシだ。
男の1人がナイフを取り出す。
しまった。
一徹の頭に一瞬、後悔の念が浮かぶ。なりふり構わなくなっている。
一徹は男に飛びかかると、ナイフを持った手を捻り上げようとする。
だが、男は一徹が伸ばした腕に刃を当ててくる。
一徹は腕を引いてしまう。
すると、男のナイフが、今度は下から振り上げられるようにして一徹の腕を狙う。
一徹は腕を引く。
引く。
また引いて、後ろに下がる。
下がったところで、一徹は自分の判断ミスに気付く。
後退してはダメだ。
一徹の頭には、すでに昔のケンカのことが過っていた。
あの時、自分は逃げてしまったのだ。
一徹は覚悟を決める。
逃げるな!
前に出ろ!!
ナイフで刺されたっていいじゃないか。
それで勝てるなら、女の子が助かるなら安いものだ。
そう思いながら一徹は前に踏み出す。
男のナイフの突きをギリギリのタイミングで避けると、一徹はその腕を絡め取り、一本背負いで投げ飛ばす。
5人目。
これで半分。
一徹が、思った瞬間、背中に衝撃を感じる。別の男が、鉄パイプで殴りかかってきたのだ。
頭を狙って殴りかかってくるのを、両腕で防ぐ。
その瞬間、脇腹に激痛を感じた。
男の仲間が、鉄パイプを振り回している間に、一徹の背後に回り込んだ男がパンチを決めてきたのだ。
一徹は崩れるように倒れ込む。
倒れたままの姿勢で一徹は思う。
これが、本当の喧嘩なんだ。
一徹の知っている柔道の試合じゃない。
監督の抗議がある訳でなはない。
審判が中断してくれる訳ではない。
仲間が声援を送ってくれる訳ではない。
ルールの無い戦いだ。
男達は一徹を囲み、そして一人ずつ襲いかかってくる。
一徹は立ち上がると、構える。
まだだ。
まだ、終わらない。
まだ、終わってたまるか。
一徹は里美の怯えた顔、涙を思い出す。
こんな男達に負けてはならないと。
男達が、一徹に襲い掛かろうとしたその時だった。
ナイフを持った男が、突然頭をバットでもぶん殴られたかのように倒れた・冲捶という突技が入ったことを後に知る。
6人目。
男達も、一徹も何が起こったのか分からなかったが、人影は鉄パイプを持った男に近づくと、脛を斜め上から蹴る・斧刃脚。
男の脛に関節が増えた様に曲がったところに、男の顔が変形する。突きが入ったのだ。
7人目。
一徹は、その人影を見る。そこには、学ランの少年がいた。
少年は一徹の方を見ると、こう言った。
「田麦君。加勢に来たよ」
少年は、佐京光希だった。
「師匠」
一徹の言葉に、光希は階段を踏み外したかのような顔し、バランスを崩す。
「今、なんて? え、僕が師匠だって? 」
光希は信じられないという表情を浮かべた。
確かに、光希は一徹にアドバイスをしたが、それだけの話しだ。一徹は、自分のことを、ずっと師匠だと思っていたのだろうか。
だとしたら、勘違いも甚だしいが、一徹が、この前の件で恩義を感じて自分を慕っているのかもしれないと思い当たる。
まあ、その件については後の話だ。
「誰だテメエ!」
男の一人が光希に叫ぶと、光希が答える。
「吠えてないで、さっさと来いよ」
挑発を受けた男達の2人が頭に血を上らせる・
光希は、向かって来た男2人を見る。
2人は鉄パイプを持って振り上げて向かって来る。
どちらもリーチが長い武器である。
どうしようかと光希は考える。
1対1なら問題ないが、同時に相手するのは厄介だ。
しかし、そんなことを考えているうちに、男達は光希を殴れる距離までくる。
男達が鉄パイプを振り上げる。
だから、光希は男達との距離を自分から一気に詰める・崩歩という歩法を使う。
鉄パイプによる攻撃を無意味にした。
ドラマーが複数のドラムでも叩く様に、光希は男達の鳩尾を正面から突き、甲側の手首で顎を下から突き上げ、手刀で頚部を打ち、脇腹を突き、顔面に突きをいれた。
男達がよろけると、裏拳で頬を殴打して終わった。
8人目、9人目の片が付いた。
一徹は呆然としていた。
なんという強さだ。
体力も十分で奇襲をかけてきた光希だったが、一徹は、それでもある程度苦戦するだろうと考えていた。
だが、それは間違いであった。
一徹は、光希の強さを目の当たりにし、感動すら覚えていた。
これが本当の強さなのだと。
自分が憧れ続けた、喧嘩に強い男の姿なのだと思うと、一徹は、嬉しくもあり、悔しくもあった。
一徹は、光希の実力を見て、やはり自分はまだまだ未熟だと思い知らされる。
光希が戦っている間にインターバルは取れたが、鉄パイプで殴られたダメージがある。もう、体力が限界に近いのだろう。
一徹の息が荒くなっている。
それでも、一徹は諦めなかった。
最後に残ったリーダー格の男を睨み見る。
「おい! まだやるつもりなのか!? お前らみたいなバカ共のせいで、俺は……」
男は、一徹の気迫に押されたのか、言葉を飲み込む。
一徹は構えるが、立っているのがやっとの状態だ。
「師匠。あいつは、俺がやりますんで」
「……いや、だから僕は師匠じゃないって」
光希はゲンナリとした表情で改めて否定するが、一徹は聞いていない。
仕方がないと光希は思い直す。
一徹は、リーダー格の男に向かっていく。
ナイフを取り出す。
光希は倒した男が持っていた鉄パイプを足首を使って跳ね上げ手にする。手に鉄パイプを馴染ませるように回転させると、槍を持つように半身に構える。
武術の世界で耳にする言葉に、武器は手の延長である。
と言われるが、それはあくまでも感覚を掴んだ人であって、感覚を掴めてない人には延長となってくれない。光希は、その域に達しているのか、鉄パイプの扱いも素人ではなかった。
「田麦君。いざとなったら攻撃するよ」
一徹に声を掛けると、一徹もコクリと首を振る。
一徹は両腕を上げて構えていたが、拳が自重で地に向かって下がる。
ノーガード状態になった。
「何だよオッサン。やる気ねぇんじゃねえか」
男が挑発する。
確かに、ある意味、男の言う通りだった。
やる気はあっても、体の方がやる気を失いつつある。一徹は、既に満身創痍であり、体を動かすことさえ辛かった。
だが、まだ勝機はあった。
疲労で上げられない腕の力を抜く。
脱力をする。
上半身の力みを無くし、両腕をだらりと下げる。
疲労も相まって、あらゆる力みが一徹の体から抜ける。
全身の力が抜けて、体が軽くなる。
凶器を目の前にしてでも、立ち向かって行こうとしている自分を愚かだと思う。
なぜ?
そうだと思い出す。
巻藁突きを行っている時、光希が尋ねてきた時があった。
光希は訊いた。
なぜ強くなろうとするの?
それに対し、一徹は自分を暴行した男達への仕返しのためと答えた。
光希は、それを否定も肯定もしなかった。
一つだけ話してくれることがあった。
《力愛不二》
仏教用語であり、少林拳にある武徳。
この武徳は、嵩山少林寺で修行した宗道臣も受け継ぎ、日本で少林寺拳法を創設している。
拳は禅の修行と同じで、肉体だけでなく内面を磨くことも大切なこと。正義を伴わない力や愛情のない力は、単なる野蛮な暴力でしかない。力と愛は別物ではなく、力という裏付けのない正義や愛情は無力という意味だ。
それを聞いて一徹は、自分の中で気付かされる。
自分が何故強くなりたいと思ったのか。
それは、復讐の為だ。
でも、それは自分がやられたことの再現でしかない。強い者が弱い者を理由も無く力で叩きのめす。自分を暴行した不良と同じことをしようとしていると気付かされた。
だから、一徹は思った。
自分は間違っている。
自分のしようとしていることは、あの時の男達と同類だ。
なら、強くなる理由は、そんな事ではないはずだ。
強くなる理由、それは、弱い者を守る為。正しいことを貫く為だ。
一徹は思い出す。
自分が柔道を始めたきっかけ
強くなりたかった。
弱い者を助けられる人間になりたい。
暴力に怯える人を助けたい。
そう思った。
だからこそ、光希の言葉に心を動かされたのだ。
その時、一徹は光希のことを師匠と思うようになった。打撃のアドバイスをくれたから尊敬したのではない。心の有り様を教えてくれたから尊敬したのだ。
腕を下ろしたことで、一徹は無防備になった。
男はニヤリと笑う。
男は、チャンスとばかりに一徹に襲いかかろうとする。
しかし、その瞬間だった。
一徹の左腕が、鞭の様にしなって男の顔面を襲う。一徹が身に付けたパンチ《脱力からの高速パンチ》《バーサーカーソウル》だ。
男の顔から鼻血が落ちる。
鼻血は格闘技において、体力低下に繋がる。
当然、鼻からの呼吸はできなくなり口で呼吸しなければならないが、口呼吸は、鼻呼吸より確実にスタミナをロスする。格闘技の試合中、口で息をしている選手は完全にスタミナ切れの状態であり、口が開いていると歯を食いしばれ無くなりダメージも大きくなる。
ナイフを構える男に対し、一徹は一気に間合いを詰める。
男はナイフで一閃するが、一徹はそれをしゃがみ込んで避けつつ、タックルの要領で懐に飛び込む。
一徹は男のナイフを持つ腕を掴むと、一本背負で投げる。
一徹は叫ぶ。
「俺は、オッサンじゃねえ! 中学生だ!」
一本背負投。
背負投が変化した、柔道技の基本中の基本と言える手技。
一本背負投は、相手の片腕をつかみ、背負って投げる技。
引き手の袖を握った状態から技をかけ始め、引き手を前に引き出しながら、背負いにかかる。この技は、相手を前方向に崩して投げるのがポイントだが、実戦では背筋力を使って強引に投げた方が良い場合もあり、背筋力を鍛えることも必要な技だ。
ナイフ男が地面に叩きつけられると、その衝撃でナイフが落ちる。
一徹がそれを踏みつけ、男の手から取り上げる。
10人目。
光希の出番はなかった。
一徹は、リーダー格の男を倒した。
一徹は、光希の方を見る。
「師匠……。ありがとうございました」
一徹は、光希に深く頭を下げた。
光希は、困ったような顔をしている。
そして、少し照れ臭そうにしている。
「だから師匠じゃないって」
光希は否定し、一徹の強さに素直な感想を思った。
本当に凄いと思った。
自分の強さは、ただ単に喧嘩が強いだけだと思っている。
しかし、目の前の一徹は、そんな自分よりも強い。
見ず知らずの女の子を救い、しかも単身でアジトまで乗り込む度胸。
しかも、10対1という圧倒的不利。
光希は思う。
同じことをできるとは思えなかった。
自分は弱いと。だからこそ強くならなければならないと。
だから、光希は、この少年に対して羨望を覚えたのだ。
「本当の意味で、強いね。田麦君」
光希の言葉を聞いた一徹は笑顔になる。
その顔を見た光希は、何だか恥ずかしくなり、目を逸らす。
「ところで。どうして、ここが分かったんです」
「西尾君から連絡があってね。助けて欲しいって。たまたま、近くに居てよかったよ」
光希はガラケーを出して、しまう。
「そうだ。青木さんの友達が監禁されているのを助けないと」
一徹は少し慌てるが、光希は大丈夫だと言う。
一徹が理解できないでいると、光希は奥にある事務所を指し示す。
そこにショートヘアの少女の姿があった。
笑った時に覗く八重歯が、子猫のように愛らしい。
やんちゃで元気な様子が魅力的な少女であった。
クラスメイトの
「なんや。もう片付けてしもうたんか。ウチと光希の功夫殺法を披露してやろうかと思うたのに」
由貴は残念そうに言い、続ける。
「せや。女の子は助けたよ、二人共無事。安心しいや」
由貴は、関西弁のイントネーションで喋る。
一徹が光希を見ると、コクリと首肯する。
どうやら、本当みたいだと安堵した。
一徹は、由貴に近づく。
由貴は、一徹を見てニカッと笑う。
その屈託のない笑顔は、一徹には眩しく映る。
それから由貴はデジカメを差し出す。
「これが、聞いとった女の子の写真が入っとるカメラや。中身は女のウチが確認させてもろうた。あの娘らのもんや」
由貴は忌々しい口調を転がっている男達に向けて言う。由貴はフラッシュメモリを取り出すと、4つにへし折った。
「ついでに、やつらのスマホも壊しとこ。残ってたらアカンからな」
由貴は不敵な笑いを浮かべると、意気揚々と男達の股間を蹴り上げて止めを刺す。竿が二度と使い物にならないようにし、回収したスマホを楽しそうに壊していく。
一徹は、唖然としていた。
この少女は、見た目は可愛いのだが、かなり凶暴な性格をしているようだ。
光希も青ざめた様子をみせていた。
一徹は思った。
「師匠。あんな娘とアベック(死語)なんすか」
一徹の言葉に光希は否定する。
「何で僕が由貴なんかと。あいつは悪友。今日も買い物で引っ張り出されてたんだよ。しかも下着売り場だよ。僕が困った顔をしているのに、由貴の奴は終始面白そうにして楽しんでるんだから」
光希は苦虫を噛み潰したような表情で語る。
そして、続ける。
「それと僕のことを師匠なんて呼ばないこと」
光希が言い切る前に、一徹が口を挟む。
「師匠は師匠です」
一徹が興奮気味に言う。拳を握り締めて力説している。
まるで、憧れのヒーローを語るように。
一徹は、光希のことを尊敬して止まない。
だから光希は言った。
「じゃあ、僕は田麦君のことをオッサンって呼ぶよ」
光希は意地悪そうな顔をし、その言葉に一徹はショックを受ける。嫌だったから。
「そういうこと。呼ぶなら名前にして、同級生なんだからさ。一徹」
光希は一徹と呼ぶことにしたようだ。
一徹は嬉しかった。
「おう。光希」
二人は笑顔で拳と拳を突き合わせた。
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