第19話 楽しい高校生活は続くはず……

大食いチャレンジから一か月が経った。

あれからクラスのみんなとの関係性も大きく変わった。

「私、アスカってもっとぶっきらぼうな人かと思ってた」


「ねー、こんなに笑う人だとは思っていなかったって感じー」


「……侍かと思ってた……」


「いや俺、アスカには毛嫌いされていると思ってた」


「ホントホント、何話しかけても短い返事しか返ってこないもんな。あ、いまもか。あっはっはっは」


クラスのみんなは、当初無口で愛想の悪かったアスカを敬遠していたみたいだ。

でも大食いチャレンジ以降、一転して人気者になっていた。



俺とアスカとひばりはいつものように、学食で昼ご飯を食べていた。


「アスカもすっかりクラスになじんだね」


「うむ。これもハルトとひばりのおかげだ。ありがとう」


「いや、俺たちは何もしてないぜ。アスカの頑張りの成果だな」


アスカは照れ臭そうな顔をしながらも、唐揚げ定食をモリモリと食べる。そのアスカに別のクラスの女子二人組が近づいてきた。


「アスカさんですよね。ファンです。握手してください!」


「あふふ? ほっほまっへへ」


いまやアスカは学校中の生徒から知られる存在になった。

長身で、キリリとした美貌の持ち主であることから、一部の女子の間ではすっかり人気が出ているらしい。


アスカはいつものように、笑顔で対応していた。女子二人組はキャーキャーと大喜びだ。あの最初に出会った時のとっつきにくさが、ウソみたいだ。

 


食後、アスカがまじめな顔で切り出した。


「ハルト、ひばり、実は私は最近、毎日が楽しい。三人で遊びに行ったり、たくさんおしゃべりしたりすることがとても楽しい。それでだけではない、クラスのみんなと仲良くなったり、他のクラスの人に笑顔で話しかけられたりすると、何とも言えない気持ちになる。もしかして、これが青春なんだろうか? 私は青春できているのだろうか?」


そういえば、すっかり忘れていたけれどエイリアンであるアスカの任務は「青春する」ことだったっけ。改めて考えると、なんとも不思議な任務だ。


「あー、そうだな。けっこうできてるんじゃないか? 青春」


「そうか、良かった。これからも頑張って青春を極めるぞ」


 アスカは感慨深そうに一人力強く「うむうむ」とうなずく。


「ねえ、いっそのこと、部活動しない?」


ひばりが突拍子もないことを言い出した。


「部活? 帰宅部の俺たちが?」


「そう! もっと青春するためには、部活動をするのがいいんじゃないかな? 私たちもきっと楽しめると思うし」


「部活動か! それは楽しそうだ! ハルト、ひばり、一緒にやろう!」


アスカは席から立ち上がり、前のめりで目をキラキラと輝かせた。


「そりゃ悪くない考え方だけど、俺、できればSF的な部活がいいんだよな。でも、前に部活紹介見たけど、SF研究会みたいなものすらなかったしなあ……」


「何を言っているハルト! 入りたい部活がなければ、自分たちで作ればいいではないか! 青春には行動あるのみではないか!」


「あっ、それいいねアスカ! 青春っぽい!」


「そうだろう? ひばり! さあハルト! 三人で一緒にSF研究会的なものを作ろうではないか!」


こんなに積極的なアスカを見るのは初めてだ。

なぜだかアスカの変化がとてもうれしい。


「わかった、わかった。ほんじゃあ、後で担任の渡辺先生に相談しに行こうぜ!」


 アスカはとっても満足そうな笑顔を浮かべていた。



「ハルト、早く職員室へ行って、渡辺先生に部活創設の仕方を聞きに行こう」


HRが終わるやいなや、アスカがひばりの手を引っ張って俺の机に飛んできた。


「む? なんだそのノートに書いてある絵は? ……大型の機動兵器か?」


「あっ、ハルトの俺ロボの絵、久しぶりー! あのねアスカ、これはハルトのSF的欲求が高まった時にハルトがする行動の一つよ。これは俺ロボって言って、ハルトの脳内にある架空の巨大ヒト型機動兵器の一つね。でもこれ……あたしもはじめてみるタイプね」


「よく聞いてくれた!」


俺は勢いよくイスから立ち上がり、ノートのイラストを二人の前に掲げた。


「これぞ、俺たちアオハリアンの操縦する巨大ヒト型機動兵器、その名もジャイアント・アオハリアンだ!」


二人とも絶句している。ふっ、無理もない。この主人公が乗るにふさわしい、伝統美のポイントを押さえつつ、最新のロボットアニメのトレンドをも取り入れた、俺ロボのあまりの格好良さに驚いて……。


「……名前が……残念だな」


「そうだよねえ、ジャイアント・アオハリアンって……。っていうか、「俺たち」アオハリアンって何よ。あのプールでのヒーローショーみたいな恥ずかしいこと、あたし二度とやらないんだから!」


ちょっと冷たくない? ああそうか、必殺技を披露していなかったな。


「ま、まあ見てくれ! 俺の脳内では完璧に細部まで完成しているんだ! 特に必殺技の名前が格好いいんだ!」


「……一応、聞こうか」


「必殺技はこうだ! あ、三人の声をそろえるのがポイントな! 行くぞ? 『燃える!心の! ジャイアント! アオハルパーンチ!』だ!」


俺はノートをめくり、渾身の必殺技をかましている大迫力イラストを披露した。


「はい、それじゃあ、職員室に行きましょう」


ちょっとー! コメントはー? 

俺はアスカとひばりにずるずると引きずられて職員室へ行った。


職員室で担任の渡辺先生に確認したところ、新しい部活動の設立には最低四人の部員が必要とのことだった。


「あと一人必要ってことね。でも困ったなあ。こんな時期じゃあ、部活に入りたい人はもう部活に入ってるしねえ。都合よく転校生でもやってこないかなあ」


まったくだ。SF的な世界ならここで都合よく、謎の転校生が転入してくるのだが。


「誰かいないか?」


「うーん、そうだ! ヨネスケなんてどうだ?」


「ヨネスケ君は生徒会執行部に入ってるでしょ?」


「どうせ赤水生徒会長狙いで入っただけだからな。そろそろフラれて、やめるかもしれないぜ」


「あのねえ、そんな都合よくフラれるわけないでしょ。って、あれ、ヨネスケ君じゃない?」


ひばりが指した先には、ヨネスケ……と、赤水生徒会長の姿があった。俺たちは二人の元へと駆け寄る。


「おーい、ヨネスケ!」


「ん? おー、ハルトか。ひばりちゃんにアスカも。どした? 帰宅部のお前らがこんな時間に校内にいるなんて珍しいな」


「や、その、えっと、……そうそう。今度新しくSF的な部活を作ろうかなって思ってて、その準備中なんだ」


俺は赤水生徒会長の手前、ヨネスケが生徒会執行部を辞める予定がないか聞くわけにもいかず、思わずひばりの方を見る。


「そうそう! 準備中なの! あー、えっと、ヨネスケ君は赤水生徒会長とこれから何かするの?」


ひばりが苦し紛れの質問をすると、ヨネスケはニカッと笑った。


「おー! よくぞ聞いてくれたね、ひばりちゃん! 俺、これから赤水生徒会長と一緒に放課後デートするんだ!」


「それって死亡フラグか?」


「こらこら、縁起でもないこと言うなアオハル」


「米田、デートではない! いまから次の校内イベントのための資材の買い出しに行くのだ! お前は荷物持ちだ! 何度言ったらわかるんだ!」


ああ、そういうことか。


「でへへ。会長、ツンのデレだから」


ツンしか感じないのだが。


「ヨネスケ君、鼻の下がのびてるよ」


「早くしろ米田! 置いていくぞ!」


「待ってくださいよー。会長ってばー」


赤水生徒会長は後ろを振り返らずに、ツカツカと早足で歩いて行った。ヨネスケは小走りに生徒会長を追いかけていく。


「ヨネスケ君は前向きだねえ」


「こりゃ当分、生徒会執行部を辞める気配はないな」


四人目の部員探しは難航しそうだ。それでもアスカとひばりは、これから始まる新しい青春の1ページに胸をときめかせているみたいだった。もちろん、俺も!

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