第18話 大食いチャレンジ!
金曜日。ついに大食いチャレンジの日がやってきた。
「いよいよお昼だな。アスカ、準備はいいか?」
「ああ、問題ない……」
「ちょっとアスカ大丈夫? 顔色が悪いわよ。元気もないみたいだし」
「ふふふ……問題ない。なに、一昨日から光合成を断っているだけだ」
「それ大丈夫なの? なんだかフラフラしてるよ」
「ふはは……ここまで全身からエネルギーが抜けたのは初めてだ。大食いチャレンジが楽しみだ。私の真の力を見せてやろうではないか……」
「目が血走ってるよ……」
俺たちは会場である学食へ向かい、エントリーを済ませる。
学食には放送部のカメラ機材の設置や、生徒会執行部の会場づくりでざわついていた。
「よう、アオハル! 白雪選手の付き添いか? それにしても、まさかアオハルとひばりちゃんが、白雪とこんなに仲良しになるとは思わなかったなあ」
生徒会執行部側の席から、蝶ネクタイをつけたヨネスケが現れた。
「うん。もうアスカとは友達だよ! ね、アスカ!」
「うむ。……友達だ。なぜだろう、口に出すと少し恥ずかしいな」
「ところでヨネスケ、今日の司会はお前なのか?」
「ああ、俺。そして生徒会長の赤水さんと一緒にやるんだ。じゃあ、そろそろ開始の時刻だから、行ってくるな」
「ヨネスケ頑張れよ!」
「ありがと! あ、白雪さんも頑張ってな! 応援してるよ!」
ヨネスケは笑顔でアスカに手を振った。
「あ、ああ、全力を尽くす」
ヨネスケは学食の特設ステージに上がり、マイクを握った。
『それではこれより、『第一回 生徒会執行部主催の学食大食いチャレンジ大会! 星空高校の大食い王は君だ!』を開催いたします。あ、私、司会の米田新之助です。どうぞよろしく。まず大会の概要をお知らせいたします』
会場のスクリーンに、スライドが映し出された。
『まず、本日は特別時間割です。通常よりも昼休憩が一時間長く設定されています。また、大食いチャレンジの様子は放送部の協力により、全教室にリアルタイムで映像が中継されています』
へえ、そうなのか。ってことは、クラスのみんなも見てくれてるのかな?
『では、選手の登場です! 公募の結果、エントリーした選手はこちらの十名です!』
特設ステージに選手十名が登場した。
予想はしていたが、アスカ以外は男子ばかりだ。そして男子は皆、柔道着や野球のユニフォームなどを着ている。体育会系の部活の大柄な男子生徒ばかりだ。
それから赤水生徒会長が、勢いよくステージに上った。
『ルールは簡単! 制限時間の45分間以内に、先に完食した選手が優勝! 優勝者には学食三カ月間飲食無料券を贈呈! それでは、大食いチャレンジ、スタートォ!』
赤水生徒会長の元気な開始の合図とともに、学食から料理が運ばれてくる。
最初の料理はカレーか……。ってアスカ、よだれ出てるぞ。
「アスカ、頑張ってー!」
「いっけー、アスカー!」
アスカはカレーが出てくるやいなや、豪快に食べすすめる。
あちゃー、ほくほく笑顔が隠しきれていないな。クールビューティーどこ行った。
参加選手たちは皆、大食いには自信があるようで、あっという間にカレーを食べ終わった。もちろんアスカも。
それから続々と料理が運ばれてくる。そば・ラーメン・うどんと麺類が続く。
学食だから凝った料理などはない。どこにでもあるような料理しか出ないのだ。しかし、それでも豪快に食べすすめる様子を全教室で流せば、学食のメニューに対する好奇心が増し、食欲旺盛な高校生たちの学食利用率は上がるだろう。企画としては成功なのだと思う。見ているこちらもお腹が空いてきた。
『おっと、麺類が終わったところで、半数ほどの選手がペースダウンです! さあ、ここから先は、星空高校人気の丼ものだ!』
司会のヨネスケはノリノリだ。小指を立ててマイクを握っている。
アスカは初めて食べるであろう料理に目を輝かせながら箸をすすめる。牛丼、そしてかつ丼と食べすすめていった。
『おーっと、かつ丼で多くの選手の手が止まったぞー? かつ丼をクリアできたのは、三選手のみです! ここでトップを争う三人の選手紹介をしましょう! 2番、野球部の石井君! 5番、柔道部の荒谷君! そして9番、紅一点の白雪さんだ! どの選手も頑張ってください!』
「頑張れ荒谷! 野球部に負けんなよ!」
「石井先輩! ファイトでーす!」
会場のあちこちから、応援に来ていた体育会系部員の野太い声援が飛ぶ。
俺たち二人も負けじと応援するが、声援は野太い体育会系部員たちの声にかき消されてしまう。
『さあ、最後は定食三連発だー! これを先に完食した選手がチャンピオンだ!』
テーブルの上には、焼き魚定食・野菜炒め定食・唐揚げ定食が一気に並べられた。
アスカはここまで黙々とニコニコしながら食べていたが、次第にペースが落ちてきていた。
「アスカ、頑張ってー! ねえハルト、さすがにアスカも苦しいのかな?」
「ああ、ちょっと笑顔が曇って来たな。もうちょっとで優勝なのになあ! アスカ、落ち着けよ! 負けてないぞ!」
石井、荒谷の両選手とアスカのペースはほぼ互角だ。
しかし、最後の唐揚げ定食に入ったところで、ついにアスカの箸が止まった。
周囲は野球部と柔道部の声援が凄まじく、俺たち二人の声援は届かない。
アスカのキラキラとしていた眼の光が少しずつ消えていく。
ここまでなのか? 何とかアスカに勝ってほしいのに!
「「「「「白雪さーん、がんばってー!」」」」」
「「「「「がんばれー、白雪―!」」」」」
突然の大音声での応援が、後方から聞こえた。な、なんだ?
振り返ると、そこにはクラスメイトたちが来ていた。
「みんな、なんでここに?」
「いや、だって教室のテレビ見てたら、白雪が出てるじゃん?」
「うんうん。さっきまで教室でみんなして白雪さんを応援してたんだよ」
「そしたら、最後の最後で苦しそうだったから、みんなで教室を飛び出て、声援を届けに来たんだ」
「そうだったのか……。おおっ、どんどん来るじゃないか」
最初は十数人しかいなかったクラスメイト達だったが、次第に人数が増え、ついにクラスの全員が集まってきた。なんだろう、とても嬉しい。
「ねえ、青木君、白雪さんと仲がいいんでしょ? 後からみんなが続くから、応援コールやってよね。よろしく!」
「よし、みんな俺に続いてくれ!」
「「「「「おー!」」」」」
ステージ上のアスカの眼がこちらを向いていた。クラスのみんなが応援に来たことがわかったみたいだ。目を丸くしているのが遠くからでもわかる。
「頑張れ、頑張れ、アースカ!」
「「「「「ガンバレ、ガンバレ、アースカ!」」」」」
「君なら、絶対、優勝だー!」
「「「「「きみなら、ゼッタイ、優勝だー!」」」」」
クラス全員の応援コールは、体育会系の部員たちの声をかき消し、アスカに届いたみたいだった。アスカは恥ずかしそうに、照れ笑いを浮かべている。アスカの瞳に再び光が宿った。止まっていた箸が動き出し、次第にペースを上げていく。
『おーっと、ここで9番の白雪選手、ラストスパートだー! スゴイ、スゴイ、驚異の追い上げだ! そして、そして、いま、なんとトップで完食だー!』
『優勝は、白雪アスカ選手!』
クラスのみんなが「わっ」と歓声を上げた。やったぞ!
ステージ上のアスカにヨネスケと赤水生徒会長が駆け寄り、マイクを差し出す。
『おめでとうございます! 白雪選手、何か一言、お願いします!』
「え、えっと。その、デザートは?」
まだ食べる気なのかよ。
クラスのみんなも大笑いしていた。
翌日から、アスカの昼休みの定位置は屋上の階段室の上から、学食になった。
もちろん俺とひばりも弁当を持って、学食でアスカと一緒に食べている。
アスカはいまや、好きなだけ学食を堪能している。そんなわけでアスカは学校でニコニコしている時間が、以前よりだいぶ増えた気がする。
学食側もあれ以来、利用者数がグッと増えたみたいだ。
おっと、そうそう。アスカがニコニコしている時間が増えたのには、もう一つワケがあると俺は思ってるんだ。
その理由っていうのは、クラスのみんながアスカと仲良くなったからだと思う。
名前を呼ばれるたびに、アスカはちょっとじゃなくって、かなり嬉しそうだった。
良かったなあ、アスカ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます