第17話 日光浴

月曜日の昼食時。相変わらずアスカは教室にいない。


「なあひばり。アスカを見なかったか? いつも昼飯の時間になるとどこかに姿を消すんだ」


「えー? またいないの? 三人でお昼ごはん一緒に食べようと思って、いつもより多めに作ってきたのに。どうしよう」


ひばりの手には、おせちの重箱のようなお弁当箱が抱えられていた。


「探しに行こうぜ!」


「うん! でも当てはあるの?」


「……よく考えたら、一つだけ探していない場所があった。もしかしたら、あそこかもしれない。行ってみよう!」


俺は重箱を抱えたひばりと一緒に屋上へ向かった。屋上に出る階段室の扉を開けると、青空が目に飛び込んで来た。


「いないねえ」


だだっ広い屋上には、誰もいなかった。校庭で遊ぶ男子たちの声だけがする。


「ああ、屋上も前に探したんだ。でもいなかった。学校中で探していないのは、屋上の屋上、つまりこの階段室の上だけなんだ」


俺は階段室の屋上を指さした。階段室の屋上には、登るためのはしごも何もない。


「ここ? 確かにアスカならジャンプできそうだけど」


「おーい、アスカいるかー? 俺だ。ハルトとひばりだー」


少しの沈黙の後、ひょっこりとアスカが顔を出した。


「どうした? 私に何か用か?」


「ビンゴ! やっぱりここにいたのか。やっと見つけられたぜ」


「ね、一緒にお昼ごはん食べよ! あたし、お弁当作ってきたの!」


「なんと、お弁当だと! わかった。上がってくれ」


俺達はアスカにひっぱり上げてもらい、階段室の屋上へと上がった。

そこからの眺めは格別だった。風も気持ちがいい!


「いいところだなあ。いつもここにいたのか」


「そうだ。ここはいい、一人でゆっくり思案にふけることもできるしな」


「いつも一人でお昼ごはんたべてたの?」


「いや、私は普段ごはんを食べない。地球で食事をとったのは、先日のウォーターアイランドでの食事が初めてだ」


そういや、あの時はしきりに感心してごはんを食べていたっけ。


「ウソだろ? ごはんを食べなかったらどうやってエネルギーを得るんだ?」


俺が質問すると、アスカは敷いてあるシートの上にスッと横になった。


「日光浴で得られるのだ」


それから制服とスカートをたくし上げ、お腹と太ももを出した。

おおっ、やはりおへそもあるな。風呂場で見たのは見間違いじゃなかった。ブラジャーとパンティも見えそうだ……が見えない。もうちょっと斜めから観察できれば……。


「見ちゃダメ! アスカもアスカよ! 年頃の女の子が、男子の前でお腹と太ももを出しちゃダメでしょ!」


ひばりは慌ててアスカの制服とスカートを元に戻そうとする。


「いや、ひばり違うんだ。こうした方が効率良いのだ。正確に言うと、日光浴が食事の代わりになるんだ。極微細想像力増幅装置の話をしたと思うが、太陽光エネルギーを転換することで、必要な栄養素やエネルギーに変換できるのだ」


「そうだったのか。だからいつも昼飯時に教室にいなかったのか」


「そうだ。しかし先日のウォーターアイランドやハルトの家の食事などで、地球の食事のおいしさに感動した。だから私もできれば学食にも行ってみたいのだが……」


とたんに寝転がったままのアスカの表情が曇った。


「どうしたんだ? 困ったことがあったら相談してくれ」


アスカは言おうか言うまいか、少し悩んでいたが、口を開いた。


「……お金がないのだ!」


「なんで? 母船とかいうところから、もらえないの?」


「むう、すまないひばり。その質問には現在、答えられない」


「変なところで、変な情報規制があるのねえ。まあいっか。ところでアスカ、毎日日光浴している割に日焼けしてないわね」


「ああ、極微細想像力増幅装置が紫外線もエネルギーに転換するので、日焼けはしない」


アスカは再び、制服とスカートをたくし上げ、おなかと太ももを出した。


「本当だ」


俺は斜めになりながら確認する。確かにおなかも太ももも、日焼けをしていない。

その様子を見ていたひばりが、自分の制服とスカートもたくし上げ始めた。


「わ、私も日光浴しちゃおうかな?」


「こら、ひばり。ダメだぞ」


「な、なにがダメなのよ」


「ひばりは肌が弱いから、大切にしないとダメだぞ」


「あ、ありがと……」


ひばりは急に顔を赤らめ、下を向いた。

アスカの方を見ると、寝転がったまま、苦悶の表情で胸の辺りを抑えていた。


「どうした、アスカ?」


「わからない。急に胸が、イガイガし始めた」


「えっ……。それってまさか……」


「そりゃ、お腹が減ったんじゃないか? ひばり、ごはんにしようぜ!」


「あっ、うん。さあ、食べよ!」


 

俺は昼飯を食べ終えた後、シートの上にごろりと寝転んだ。


「あー! うまかったー!」


「ひばりはとても料理が上手なのだな」


「えへへ。そう? 嬉しいな。今度はもっとたくさん作ってくるね」


アスカもひばりの重箱弁当をモリモリ食べ、あっという間に完食した。ただそれでも、まだまだ食べたそうな顔をしていた。アスカの食欲は底なしなのだろうか。


ピンポンパンポーン♪


ん? 学内放送だ。なんだろう。


『えー、生徒会執行部一年生の米田新之助です!』


「あれ? ヨネスケの声じゃん。なんだろう?」


『えー、この度、『第一回 生徒会執行部主催の学食大食いチャレンジ大会! 星空高校の大食い王は君だ!』を開催することとなりましたので、ご案内いたします』


「えー? そんなのあるの? 面白そうだねー」


『生徒会長、お願いします』


一瞬の静寂の後、コミカルな弾んだ声が聞こえてきた。


『生徒会長の赤水よ! 今週の金曜日の昼に、制限時間内に先に完食した人が優勝! という大食いチャレンジ大会を開催する! んんー? なぜかってー?』


……誰も聞いてませんけど。そして相変わらずのテンションの高さだ。


『実はー、最近学食の利用者数が増えていないの。このままでは学食の存亡にも関わる! そこで大食い大会の様子を、学校のテレビで放送することで、多くの生徒の学食の利用を促したい! というのが本企画の趣旨ってワケ!』


「むう。学食で大食いだと? ぜひ参加したい。しかし私にはお金が……」


アスカが悔しそうに、拳を握りしめる。そんなに食べたいんだな。


『もちろんお金の心配は無用! コマーシャルを兼ねているので、参加費は無料! しかも優勝者には、学食での三カ月間飲食無料券をプレゼント! 詳細は……』


アスカはすっくと立ちあがり、拳を天高く掲げた。

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