第12話 質問

「白雪さん、おはよっ。昨日はあたしたちを助けてくれて、ありがとう! ホントにケガしなかった? いやー、でもまさかハルトの言う通り、白雪さんがエイリアンだったなんて、あたしびっくりだよー! もう聞きたいことが山盛り状態だよ!」


月曜日の朝、俺とひばりは校門の前でアスカを待ち伏せしていた。

そしてアスカの姿を見つけるやいなや、ひばりが早口でまくし立てた。


「おはよう黄之畑。任務の一環だから礼には及ばない。大きなケガはしていない。いかにも私はエイリアンだ。あと黄之畑、私のことはアスカと呼んでくれ」


アスカもひばりの問いに、早口でテンポよく返した。

なんだか機嫌が良いように見える。


「わかった! じゃ、あたしのことはひばりでいいよ」


アスカはちょっとうれしそうに「うむ」とうなずいた。


「観察対象として、ハルトとひばりは非常に興味深い。二人に対する認識レベルを上げることにする。公開可能な範囲で質問に答えよう。さあ、来い」


「マジか! じゃあ、俺から! 昨日のスキニーとか、ビーストとか、あれは何者なんだ? それに強行派とか、慎重派とかっていうのも、めっちゃ気になる!」


「ビーストは私と同族のエイリアンだ。スキニーはおそらく奴が任務で使っている偵察機だろう。実は我々エイリアン側も一枚岩ではない。内部で強行派や慎重派などの各勢力が存在する。奴らはおそらく強行派。そして私は慎重派。私から見ると強行派は敵性勢力というわけだ」


「すっげ! まさにSF的! その強行派とか慎重派って、具体的になんなんだ?」


「すまない。それはまだ公開不可能な内容だ」


「次はあたしね! あのキラキラ・チカチカって何? カッコいいバイザーとかドレスとか、えーっと、刀? みたいなのも出してたね!」


「あれは我々の技術、極微細想像力増幅装置だ。敵性勢力も使える」


「ごくびさいそうぞうりょくぞうふくそうち?」


「ナノマシンの一種だ。想像力などのエネルギーを具現化したり、別のエネルギーに変換したりする、魔法のようなものだ。様々な装備、武装・エネルギーなどを生み出すことができる。ビーストと名乗った敵は、極微細想像力増幅装置で野獣の肉体を作り出したのだと推測できる」


「おおー、ロマンを感じる! スゴイ技術だぜ!」


「ただし、極微細想像力増幅装置の効果は使用者それぞれの特質というか、個性により異なる」


「へー、ところでアスカの出した刀って、攻撃力も特別なのか?」


「その通りだ。我々の技術で作られた兵器・兵装の多くは、我々の技術でなければおいそれとは破壊できない。もちろん大質量の通常兵器であれば、地球人側の攻撃でも破壊できることもあるが」


「んんー? なんかおかしくない? そんなに高い化学技術があるならさ、もっと、なんていうか、レーザー光線銃とか、ビームサーベルとか、そういうスゴイ武器とか使えばいいんじゃない?」


「生存条約があるので、いまの時代は使えないのだ」


「なに? その、せいぞんじょーやくって」


「私たちの科学技術は進歩しすぎてしまった。一発の爆弾で大量の人を殺せる大量破壊兵器や、放ったが最後、回避不可能な光学兵器も無数に作られた。そのため大昔には同族同士で大きな戦争を起こした結果、私たちはその人口を急激に減らしてしまった過去があるらしいのだ。もう一度戦争でそれらの兵器を使えば、間違いなく、私たちの種族は全滅するだろう」


「なんか、俺達地球人みたいだな。俺たちの星でも、数十年前に核兵器っていうのが開発されて、もしそれを使えば、全人類を何度も絶滅させることができてしまうらしいぜ」


「……うむ。そこで私たちの種族は、生き延びるために、生存条約を結んだのだ」


「どんな条約なの?」


「ナノマシン技術を応用し、DNAレベルで私たちの脳へリミッターをつけたのだ。つまり、それらの大量破壊兵器や光学兵器はおろか、銃器すらも開発・使用できなくしたのだ」


「それってつまり、地球製の銃でも使えないのか?」


「そうだ。体を使って、何かを投げることなどはできるが、拳銃などを握っても、引き金を引くことすらできないだろう。これにより仮に戦争が起こっても、一気に全滅となる事態は避けられることとなった。ゆえに生存条約なのだ」


「なるほど。それであんな近接戦闘をお互いにしてたってわけか」


「そうだ。またそれゆえに、我々の種族は近接戦闘技術に重きを置いている。個々の戦闘力の差が、戦局を大きく左右するからだ」


なんか……燃える状況だ。それってヒーローが出現する余地があるってことだ。


「ちなみに生存条約は、ロボット全般にも適用されているからな」


ロボット! それは男のロマン! 俺の血が騒ぐぜ!


「なあなあ、アスカ、スキニーみたいな小さいロボットじゃなくって、巨大ヒト型ロボットはないのか? ほら、人が乗って操縦するようなやつ!」


「かつては超高性能の軍用があったらしい。しかし生存条約により、それも現在では使用不能だ。現在は建築・土木用のウォーカーと呼ばれる作業用大型ロボットのみ許可されている」


「ええ……そうなんだ……がっかりだな」


「ところで、ハルトとひばりはあんなところで何をしていたのだ?」


アスカの眼が少しきつく光った、気がする。


「えっ、そ、それはもちろん、デートだよ! ね? ハルト!」


デートだったっけ? と言おうとしたその時、俺の腕が突然ひばりにつかまれた。

もにゅん、と腕にひばりの胸の柔らかい感触が伝わる。


「むう……? 二人はどういう関係なのだ?」


「そ、それは……特別な関係っていうのかな? えへへ」


ん? なんでちょっと自慢気なんだひばりは。


「俺たちはいわゆる幼馴染ってやつさ。家が隣同士なんだ」


「そうか。それでは二人はその……つき合っているのか?」


「えっと、それは、その、まだって言うか、これからって言うか……ね、ハルト?」


ひばりはもじもじしながら上目づかいで俺を見上げてくる。


「ああ、そんな関係じゃないぜ」


「そうか。わかった。仲は良いが、つき合ってはいないということだな」


ん? 心なしか、アスカの表情が和らいだ?


「ふ、ふーん、なんだかアスカさんって、ハルトとは普通におしゃべりできるのね」


ひばりは口をとんがらせて言った。あれ? なんか怒ってない?


「む? ……そういわれてみると、確かにハルトには話がしやすい。なぜだろうか? いや、むしろ、ハルトと話していると、なにかフワフワとした気持ちになり、もっと話がしたくなる。ひばり、なぜだろうか?」


「そ、そんなの私に聞かれても、困るよ」


「そうか、では別の質問をしよう。ひばりは青春とは何かを知っているか?」


「せ、青春? そうだね……女の子にとっては、恋することかな?」


「恋? 恋が何かはよくわからないが……そうか、知っているのか! 実は私は青春を知らない。だからハルトに青春を教えてくれと頼んでいるのだ。そしていよいよ今日から教えてもらえるはずなのだ! さあ、ハルト、思う存分教えてくれ!」


アスカは目を輝かせながら俺の手を取り、胸の前で力強く握る。


「ちょちょちょっと待ってアスカ! 青春をハルトから教えてもらうって本気なの?」


「本気だが?」


「ダメダメダメー! そんなのダメだよ! ハルトはあたしと青春するんだから!」


「そんな約束してないだろ?」


「してないけど、二人っきりでなんてダメだよ! そ、そう! ハルトは勝手におっぱい揉んじゃう変態だし!」


「むう……そういえば、昨日、私は胸を許可なく揉まれた……」


「あ、あたしだって、昨日許可なく揉まれたんだから!」


「あの、スミマセン。大声でそんなことを言わないでくれる? ほら、みんなが変な目で見てるし」


多くの生徒が登校してくるなか、俺は何とも言えない気まずい視線を集める。


「ぬぬ……わ、私は服が濡れてブラジャーが透けているところを凝視されたぞ」


「ふふん。あたしなんて、ハルトを蹴る度に下着を覗かれてるんだから。ね! ハルト」


もうやめてください。ほら、あっちこっちで学生たちがヒソヒソ話してるじゃん。ああ、あそこの女子グループなんて、まるで虫けらを見るような目で見てる。


「わ、わ、わかった! じゃあこうしようぜ。三人で青春するってことで! それならいいだろ?」


「は? 三人で?」


「いいだろう。ハルト一人から学ぶよりもひばりからも学んだ方が、効率がよさそうだ」


「え? アスカそれでいいの?」


「問題ない。私は青春をすることが最重要任務なのだ」


「よっしゃ! じゃあプランを披露するぜ。俺なりに考えたんだけど、学校の休憩時間とかにちまちま話をしてても青春できないと思うんだ。だから今度の土曜日に三人で新しくオープンした複合レジャー施設、『ウォーターアイランド』に遊びに行かないか?」


「ウォーターアイランドって、あのコマーシャルしてるやつ? 水着で一日遊べるっていう街みたいな施設? カップルとかがデートで行くようなところだよ?」


「ふむ、興味深い。行こう」


「待ってよアスカ、一日水着で過ごすんだよ? ハルトに何されるかわからないよ? 危ないよ? ここじゃ言えないことだってされるかもしれないよ?」


ひばりは子供みたいに足をバタバタさせながら何かを訴えようとしていた。

ああ、ほら、だからそんな言い方したら、周囲の目が痛いって……。


「だから俺は変態じゃないって。ひばりがイヤなら、やっぱりアスカと二人で行くか」


「ハルトのバカ! わかったよ、あたしも行くってば!」


「なあハルト、なぜひばりは怒っているのだ?」


「さあなあ。時々こうなるんだ」


「もー! 鈍感王!」


こうして俺たちは、次の土曜日にウォーターアイランドへ遊びに行くことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る