第11話 戦闘の幕切れ

この生死をかけている状況下に、俺の脳内では異常な速度で脳内会議が開幕した。


「やあ、俺! こんなチャンスないぞ? ここでおっぱいを揉みしだけば、エイリアンの体の秘密がわかるかもしれないぞ」


「ダメだダメだ! おい俺! こんな時に何を言っているんだ!」


「だってよう。もしかしたら、もにゅんは気のせいで、ブラジャーの下は、カチカチの筋肉があるのかもしれない。それか、外骨格を薄い皮膚で覆い隠しているのかもしれない。しっかり揉まなきゃわからないだろ? さあ、俺よ。これは千載一遇のチャンスだ!」 


「よし俺! わかった! おっぱいを揉もう!」


「「「「俺、異議なし!」」」」


刹那、脳内会議は、おっぱいを揉むことを全会一致で承認し、閉幕した。



もみもみもみもみ……。


……大発見だ! 人間と変わらないぞ! 柔らかさはひばりと同じだ! むむ? 大きさはひばりほど大きくはないが、程よい大きさだ。おお、さらに形の良さが手のひら一杯に伝わってくる!


「なっ……なにを?」


戦いのさなか、冷静な表情を崩さなかったアスカが羞恥の表情を浮かべる。


「こんの変態! こんな時に何してんのよー!」


視界の隅っこから、ひばりの『フライング・スパロー・ニーキック(飛び膝蹴り)』が俺に飛来するのが見えた。


ゴスッ。


ううぅ……、パンティが見えるから、飛び膝蹴りもやめろ。

  


『ピピッ。武装のロックが解除されました。武装レベル1を開放します。ピッ』


どこからか謎の音声が聞こえてきた。

びゅう、と風が強く吹いた。桜の花びらが舞い散る。


桜吹雪のなか、アスカの体が光っていた。ドレスやバイザーが出てきたときと同じ、きらめく光の渦だ。その光はアスカの左手に収束されていく。


なにこれ! めっちゃまぶしいんだけど。


ん? アスカが右手を左の輝く手のひらに当て、何かを抜く動作をした?

……おいおい、アスカの手に長さ六十センチ前後のキラキラと光り輝く小さな刀が、握られてるじゃないか。どうなってんだ? さっきまで持っていなかったはずなのに。


「小太刀か……いいだろう」


俺があっけにとられていると、いつの間にか、スキニーの群れが俺たちに迫ってきていた。慌てる俺たちの前に、アスカが立ち、光り輝き続けている小さな刀を構えた。


「奥義、桜花」


桜吹雪の中、アスカはひらひらと舞い踊るかのように、次々とあの固いスキニーを細切れにしていった。まるで柔らかいチーズを包丁で切っているみたいに、スパスパ切断していく。その動きは一瞬のよどみもなく、水が高き場所から低き場所へと流れるようだった。


「キレイ……」


ひばりが思わず声を上げていた。俺も同感だ。なんという美しさなのだろうか。スキニーたちはガシャガシャと崩れ落ちていく。そして全てのスキニーの動きが停止した。

 

やった! 勝った! 俺たちは安堵し、アスカの元へ駆け寄ろうとする。


「動くな!」


え? 何か怒られることしたっけ? 

……したな。おっぱい揉んだ。揉みしだいた。しかし、アレは研究……。


「そこに隠れているのはわかっている。出てきたらどうだ」


アスカは大きな桜の木の上をにらんでいた。


「おいおい、なんだよ。やっと見つけたと思ったら、もう偵察機が全滅してるじゃねえか。お前……慎重派か?」


良く見えないが、どうやら木の上に人が立っているようだ。

声の主が少し動いた。見えた。男だ。背のすらりと高い、言葉使いに似つかわしくない、誰が見ても「カッコいい」と思うような風貌の男だった。


誰だこいつ。……まあ、お友達って雰囲気じゃあないな。たぶん、アスカの敵だ。


「まあ、ちょいと遊んでやるか。野獣闘衣!」


声の主の周辺が、キラキラと輝く光の渦に包まれる。


「あれって、アスカの変身や刀を出した時と同じ光じゃないか?」


直後、木の上から巨大な塊がボタっと落ちてきた。かと思うと、それはゆっくりと立ち上がった。ウソだろ、身長3メートルはありそうじゃないか。

ソレは全身獣の毛皮を身にまとった、まさに野獣、という風体の化け物だった。指の先には、それぞれ巨大な爪が生えている。まるで鉄でできているみたいに硬くて重そうだ。


ああ、ピンと来たぞ。いまのイケメンが謎の力で、変身したんだな。うん、SF的な話ではよくあることだ。


もう一個、ピンと来た。渡辺先生の言っていた、最近事件をよく起こしているっていう、「獣の毛皮を被った変質者」っていうの、こいつのことじゃないのか?


「お前がスキニーたちのボスか」


「そうだ。ビーストってぇのさ。さあてと、行くぜえ? オラオラァ!」


ビーストと名乗ったそいつは、まるでおもちゃで遊ぶかのようなノリで、巨大な手の爪を大振りに何度も振り回す。

アスカはそれらを紙一重でかわし、最後の大振りの後、小太刀をビーストの顔に切りつけた。


ビーストの左目からは赤い鮮血が噴き出した。


「ヒャハハッ、おうおう、見切りと返しがうまいじゃねえか、楽しいなあ、おい」


なんだこいつ。自分の血をぺろぺろと舐めながら、嬉しそうに大笑いをしていやがる。


「ハハハ! おっもしれえ! この星の原住民は弱すぎて退屈していたところだ! おっと、そっちにも二人いるな。お前らも慎重派か?」


「慎重派? アスカ、何の話だ?」


「白雪さん、ケガしてない? 大丈夫?」


ひばりが心配そうにアスカに声をかける。アスカは慌てて、ひばりを隠すようにビーストの前に立った。


「……この二人は何の関係もない! お前の相手は私だけだ!」


俺たちの短いやりとりを聞いたビーストは、何かを理解したようだった。


「……そいつら原住民か! こりゃいいぜ、慎重派の人間が原住民とお友達ごっことはな!」


原住民って、俺たちのことか。それって侵略者が使う言葉なんじゃないのか?


「よーし。いいこと考えたぜぇ。おもしれえことをな。ありがたく思えよ。いいか、お前らは、いますぐには殺さねえ。見逃してやる。くっくっく、せいぜい仲良くなれよお!」


なんだ? あいつ、俺とひばりの方を見て、笑ってやがる。

ビーストは木の上に大きく飛び上がり「ヒャハハハ……」と高笑いを残し、林の暗闇へと消えていった。


え? 逃げたのか? もう戦いは終わったのか?


「バイザー、索敵。……周辺から敵性兵力の消失を確認」


アスカが膝をつく。同時にアスカの兵装が消え去り、いつもの制服姿に戻った。


「白雪さん! 大丈夫?」 


「アスカ、しっかりしろ!」


俺とひばりはアスカに駆け寄った。


「私は……大丈夫だ。二人こそ大丈夫か?」


「ああ、おかげさまでな」 


「ねえねえ、白雪さん、あたし聞きたいことがあるんだけど」


「その話はまた明日でも良いか? 私にはまだするべきことがある」


アスカはそう言うと、つらそうな表情で立ち上がった。そしてビーストの去った方向へと駆け、すぐに見えなくなった。

俺たちの周囲には桜の花びらが、はらはらと舞っていた。

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