第9話 ひばりとデート

日曜日。手始めに俺たちは、女子に人気のランチのお店を調査することにした。


「げっ、なんだこの行列は。昼飯なんて別にコンビニでおにぎりでも買えばいいだろ? なんでこんなに人が並んでいるんだ」


「ここはオシャレ女子に人気のお店なのよ! 白雪さんもオシャレだから、きっとここにいる……かもしれない。ほら、さっさと並ぶ!」


俺は小一時間行列に並ばされ、ようやく店内に通された。ふう、疲れた。


「アスカは……いないじゃないか」


「さあ、注文よ! 何にする?」


ひばりがとてもうれしそうにメニューを差し出してくる。だが注文をしようにも、見たことないメニューばかりなので、よくわからない。


「ひばりに任せるよ」


そして出てきた料理は、女子に人気のパンケーキという代物だった。

なーんだ、これはちょいとオシャレなホットケーキじゃないか。


「ねえ、ハルト、あーんして?」


「えっ? そんなの恥ずかしいだろ?」


「ダーメ。これカップル限定でしか味わえない料理なんだから。私、この料理食べるの楽しみにしてたんだから」


よく見ると、周りはカップルだらけだった。おまけにみんなあーんさせあいっこしながら食べている。何やら変な同調圧力を感じる。


「い、いい? あーん」


ひばりが顔を真っ赤にし、手をプルプルと震わせながら、スプーンを差し出してきた。

そんなに恥ずかしいなら、やらなきゃいいのに。


仕方ないから食べるか。あーん。もぐもぐ……。ん? へえ、こりゃおいしいや!


「ふふふ。次は俺の番だな」


ひばりめ、恥ずかしい思いをさせやがって。みてろよ。お返しだ。超ゆっくりあーんして、恥ずかしめてやる。


「う、うん。来て」


「行くぞ。あーん」


ひばりは恥ずかしさを隠すためか、目を閉じたまま口を開けている。うっすらとピンクに染まった頬が、いつにもましてかわいく見える。

っていうか、これじゃこっちが恥ずかしくなってしまう! 

何だろう。恥ずかしさのあまり、ドキドキが止まらないじゃないか。

 

何とかすべて完食し、俺たちはその店を後にした。


「あー、おいしかった。ね、ハルト?」


「いや、ドキドキしすぎて味がわからんかった」


「……ハルトもドキドキしたの?」


「……ま、まあな。そ、それより、次はどこに行くんだ?」


「えへへ。次はね、ここだよ!」


「カラオケ?」


「そう! 女子に大人気! きっと白雪さんもここにいる! ……かもしれない」


個室に入室後、俺はトイレに行くついでに全室をチェックした。

ところがこのカラオケ屋にも、アスカの姿はなかった。


「ひばりー、ここにもアスカはいない……って、この曲は!」


俺が自分の個室に戻ると、聞き覚えのあるイントロが流れ始めていた。


「ほら、ハルトの大好きなSFアニメの主題歌メドレー入れといたよ。一緒に歌おっ」


それから俺たちは心行くまで歌った。


「やー、カラオケ楽しかったなー、ひばり!  特に『海洋戦隊シャークジャー』のサビの部分、最高だよな」


カラオケで何時間も熱唱した俺たちはいま、夕日がきれいに見えるので有名な星空公園を散歩していた。ひばりが「行きたい」というのだから仕方がない。

時刻はすっかり夕方になり、星空公園の丘からはきれいな夕日が見えていた。


この星空公園はここら辺では一番大きな公園だ。ライブ会場にもなる。

だだっ広いだけではなく、豊かな自然も見どころの一つだ。

公園の奥の方には林が広がっている。空気も美味しい。

また桜の名所としても有名だ。今年は桜の開花が遅く、まだ花がたくさん残っている。


「ね、ハルト。サビのとこだけ歩きながら歌おうよ」


さすがひばりだぜ。俺はひばりと呼吸を合わせた。


「「チャラッチャッチャッ♪ 行くーぜ♪ 怒涛の心の、必殺♪ ジンベエパーンチ!」」


「な! ここ、必殺技に主人公の名前が入ってるの、アツいよな! 名前、大事!」


「うんうん。名前大事だね。ハルトがヒーローなら、どういう歌詞になるかな?」


「俺ならさしずめ、燃える心の、必殺、アオハルパーンチ! だな!」


「うんうん。そうだよねー。かっこいいね」


なんだかひばりはご機嫌で、暖かい視線を送ってくる。こっちまで嬉しくなってくる。

今日は結局、アスカは見つからなかった。エイリアンの研究は進まなかったものの、久しぶりにひばりと楽しい一日を過ごせて、気持ちは満たされていた。


「きゃっ」


突然、隣を歩いていたひばりが段差につまずく。俺は素早く手を伸ばす。


「おっと、危ない!」


もにゅん。


ひばりがこける前に俺はひばりを抱き抱えた。ふう、危なかった。


「ん? もにゅん?」


もみもみ。俺の右手は、ひばりの豊満な胸をわしづかみにしていた。もみもみ。


もみもみ。これは……、ずっと昔から幼馴染で、ずっと妹みたいだと思っていたけど、いつの間にか成長していたんだなあ。もみもみ。


もみもみ。俺は感慨にふけりながら、ひばりの胸を無意識にもみもみしていた。

あー、柔らかい……はっ! 俺はいったい何を?


「ご、ごめん!」


やばい! めっちゃ怒ってるに違いない! また蹴られる……ん?


「……」


「どうした、足首、くじいたか? ちょっとそこのベンチに座ろう」


「……」


ベンチに座らせたものの、ひばりは無言でうつむいていた。


「大丈夫か? 足、痛いか?」


「……大丈夫。心配してくれてありがとう。あー、良かった。ハルトが元気になって」


「俺が?」


「そう。だって高校入学以来、ハルト変わっちゃった気がしてて。心配だった」


「変わった? 俺が? どう変わった?」


「前はSFに夢中だったでしょ。恋愛なんて興味ない! って感じだった。でも、高校生になったら、ハルトは急に他の女子……白雪さんに夢中になったんだもん」


ひばりは潤みがちな瞳で俺を見つめてくる。少しも目をそらすことなく。


「ごめんね。白雪さんを探すのなんて、ウソなんだ。昔のハルトに戻ってほしかった。あたしがハルトと一緒に……その、遊びたかったの」


「そうだったのか……」


夕日に照らされたひばりの顔が、とても美しいと思える。素直に。

ひばりの瞳は、キラキラと夕日の光に染まっている。なんて綺麗なのだろう。


ひばりが俺の手の上に、自分の手のひらを重ねた。暖かくて柔らかい。そしてひばりは静かに目を閉じた。ひばりの吐息が俺の唇にかかる。


「ハルト……」


「アスカ」


「……へ?」


その時、日曜日だというのに、制服を着たままのアスカが公園の奥の林に駆け込んでいく姿が見えた。

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