第3話 コイバナしよう

「……というわけなんだが、これって恋だと思う?」


「恋だと思う? って……」


俺は放課後、ひばりと一緒に下校している途中、相談した。

小学校からずっと変わらない俺たちの日常風景だ。

困ったことがあった時は、お互いになんでも包み隠さずに相談してきた。

だから俺はこの謎の胸の高鳴りの件も、ひばりに相談したんだ。


「なあ、どう思う? 聞いてるのか? ひばり」


「……ハルト、自分が何を言ってるのか、わかっているの?」


「なんだ、聞いてなかったのか? 俺が白雪さんのことを考えると、胸がドキドキするのはなんでだと思う? っていう話だよ」


「……そうじゃなくて……」


さっきまで、担任の渡辺先生は優しそうだけど、ああいうタイプは怒った時、めちゃくちゃ怖いに違いないとか、学食のおすすめメニューは、かつ丼セットだってとか、他愛もないことでケラケラと笑っていたひばりが、急に無口になった。


どうしたんだ?


「もー、この、鈍感王!」


「はっ? 王?」


どうした、急に。


「鈍感よ! 鈍感! それも宇宙レベルの鈍感王よ!」


「俺の何が鈍感だっていうんだ?」


ひばりはすさまじく怒った顔をしていた。


こんなに怒ったひばりを見るのは、中学二年の夏以来だ。あの時は、確か「三年の先輩が明日の放課後、体育館の前に来てくれって。大事な話があるんだってさ」という先輩から頼まれた内容を伝えた時だったっけ。

そういや、なんであの時、あんなに怒られたんだっけ?


「いつもいつも、ちっとも気がつきゃしない! だからハルトは鈍感王だってのよ!」


「気がつかないって、ひばりの何に俺が、気がつかないっていうんだ?」


ひばりは俺の前に立ちはだかった。よく見ると、怒りでわなわなと震えている。


「どうして私に、他の女子の話をするわけ?」


「うん?」


「しかもあろうことか、胸の高鳴りの原因を私に相談する? 普通、しないでしょ! 私にはハルトの行動が理解不能!」


「だって、俺たち仲良しだろ? 何か変か?」


「もー! この鈍感王! くらえ!」


ヒュッ、パンッ、ドドゥッ! 


予備動作もなく、ひばりの白くキレイな足がスカートから飛び出した。そして俺の太もも、腹、そしてこめかみへと、キレイにヒットした。

こ、これは……。昔、二人で練習した戦隊ヒーローものの必殺技の一つじゃないか。


「ナ、ナイス、トリプルライジングドラゴンキック……。でも、パンティが見えるから、スカートでキックは止めた方がいいぞ……。誰かに見られたらどうするんだ……」


俺は地面に横たわったまま、ひばりを見上げた。


「もうハルトなんか知らない! あんたなんか、一生SFバカでいればいいのに!」


「ま、待って……」


「ついてこないで! 一人で帰る!」


いや、ひばりのキックが強すぎて、起き上がれないんですけど……。


その日、俺は一睡もできなかった。ひばりに蹴られた跡が痛かったからという理由もあったが、本当の理由はそれではない。

頭の中にあるのは、白雪アスカのことをもっと知りたい! という気持ちだけだった。


これは本当に恋なのだろうか? 

俺は、本当はSFバカではなく、どこにでもいる普通の男子なのだろうか。


そうだとすると、なぜか少し残念な気がした。

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