危険な俺と幼馴染の受験結果 運命の分かれ道

冬。朝ご飯も食べ終わり、俺はベッドに寝転がりながら病院の窓越しに見える景色を


いつもだったら楽しんでいるのだが、今日はそうもいかない。


そう。今日は麻友の受けている国内最高峰の医学校、「南館大学医学部みなみだてだいがくいがくぶ」の合格発表の日だ。


あと、数分か。心臓の音がいつもよりうるさい。息苦しい程である。


実はもう既にネットで結果は出ているのだが、俺は見ていない。麻友が合格通知書をここに持ってくるって言ってたし、何より俺は麻友の受験番号を知らない。


ベッドの上でそわそわしてると、病室のドアが突然勢いよく開いた。


麻友かと思ったが、そこには、金髪アフロの小さい丸サングラスにちょびヒゲの生えた外人がいた。いままであった緊張感が一気に引いていくのがわかった。


「天野ボーイ!私が来たからにはもう安心ですYO!」


「…どちら様ですか?」


「オーマイガッ!私のことを聞いてないんですか?てっきり羨望のまなざしで見られることだと思ってましたYO!」


「いや全然。」


「オーノー!旧友の頼みだから色々な仕事断ってなるたけ早く来たってのに、言ってないなんて!」


「あたりめーだ!なんの連絡もなしに急にくるから、天野さんに連絡出来なかったんだよ!」


「あ。先生。」


アフロ外人の後ろからひょっこり出てきたのはよく見なれた医者だった。


「天野さん。胡散臭いと思うけど、去年辺りに言っていた君の病気を治せる医者がこの人です。」


「は?」


パードゥン?


「そのとぉーり!!私の名前はマイケル・マイク!アメリカの医者デース!」


リアリー?


「あの、失礼なんですけど、全然医者っぽくないって言うか…ラッパーっぽいというか」


正直メスを持つよりBIGカセットを持ってYO!YO!言ってる方が圧倒的に似合うその風貌に思わず本音を言ってしまうと、


「HAHAHA!ザッツライト!元々私ラッパーだったんですYO!」


キャラ濃すぎない?


「とにかく今の時点での症状を見てもよろし?」


「あ、あぁ。はい。」


と言ったら、アフロ…じゃなくてマイケルさんは俺のことを診察し始めた。


ある程度見たのだろうか。しばらくすると先程の浮ついた顔はどこへ行ったのかとても真剣な顔をして


「やっぱり、タヌキ大臣の診察蹴ってきて良かったデース。」


と言うとすぐに


「明日にでも手術しまショー。正直今こうやって元気で話してるのが不思議なくらい悪化してマース。」


「え?そんなに症状が悪かったんだ。確かに言われてみれば、どこか具合が悪い」


ような、


って、あれ?突然ふらっとして


「天野ボーイ?天野ボーイ!ヤハリ今日手術を行いマース!手術室は空いていますか?」


「あ、あぁ!今確認してくる!」


「あれ?先生?そんなに急いでどうしたんで…って、え?うそ?りっくん!?」


まゆ?なんでそんなにみんなあせってんの?


あれ?なんか、あたまがまわらなくなってきたなぁー?


「りっくん!?りっくん!?」


「天野ボーイのガールフレンドですか?声をかけ続けてくだサーイ!身体揺らさないでくだサーイ!」


「え?あっ、はい!ねぇ!りっくん!」


そんなおおごえださなくても、きこえ、て、る…よ?



数時間前に遡る…


今日は私、井上麻友の第一志望の南館大学の医学部の合格発表日だ。


「っ!はぁ。はぁ。」


いつの間にか呼吸が止まっていたようだ。慌てて冬の冷たい空気を肺に入れる。


すると、まるで肺が突然凍ってしまったかのように胸が苦しくなってしまった。


「…はぁ。まったく。どうしちゃったの私。」


いつものように明るく元気に考えられず、一人でドタバタしている私は自虐的に笑い、南館大学の校門をくぐる。


ネット発表で済ませようとも思ったが、電車で行けるほどの距離だし、何より私は合格の通知書を一刻も早くもらいたかった。理由はもちろん、りっくんに見せるため。


「ありがとう」って伝えて、私の夢を語って、りっくんみたいな人を救いたいって言って、そして…私のもう一つの夢を…りっくんと一緒に…幸せに…


「って、顔あっつ!ったく何考えてんの私は…」


絶対顔が赤くなっていた。手で顔をパタパタ仰ぎ、そして、


「あれ?」


私、自然に笑えてんじゃん。


それがあの幼馴染のことを考えたからというのはすぐに理解わかって…

やっぱ、りっくんすごいなぁ。


「よし!自信持って!行くぞ!」


小声で、だけどしっかりと自分には聞こえるように呟いたあと、合格番号が書かれている看板の前に立った。私の番号は…1204。


意を決して、私は受験生の運命を無慈悲に仕分ける看板を見る。




1169

1178

1179

1187

1193

1199

1200

1204

1209

1218…



「っ!あった!」


一歩進んだ。私の夢のために確かに一歩進んだ。その達成感が私を包む。私は資料をもらってすぐに私の街に帰った。親と大切な幼馴染に私の努力を見せるために…



現在に至る…


「りっくん!りっくん!」


目の前にいる幼馴染は呼吸も荒くあまりにも苦しそうで、私は必死に呼びかける。


「りっくんりっくん!私受かったよ!私南館に受かったよ!私だけの力じゃ受からなかった!りっくんの力があったから受かったの!私ね!まだりっくんに「ありがとう」って言ってないの!心を込めて言えてないの!だから…だからまだ逝かないでよ…声を聞かせてよ…」


「アハ、まゆ…もうダメかもしれん…」


「りっくん?りっくん!」


苦しそうにりっくんは頑張って言葉を紡ぐ。


「…さよなら、おめでとう。」


「…りっくん…」


次の瞬間医者が病室に飛び込んでくる。


「天野くん!マイケル!準備できた!」


「ナイス!天野ボーイ!今助けマース!ヘイガール!ここで待っててくだサーイ!」


「りっくん!りっくん!」


運ばれていくりっくん。私はあのりっくんの姿と言葉を思い出してしまう。


『…もうダメかもしれん…』


『…さよなら、おめでとう。』


私は膝から崩れ落ちる。


あぁ。多分私ひどい顔をしている。最後の言葉がずっと頭の中で反射している。


『…もうダメかもしれん…』


なんでそんな不安になるこというのさ。


『…さよなら、おめでとう。』


手の中の合格通知書は手汗と涙と握りしめたのでくしゃくしゃだ。


私は無意識のうちに呟いた。


「…アハっ。りっくんのバカ。」


私は今、泣いている。







それと同時に呆れたように笑っている。

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