励ます俺と寂しい幼馴染 3年冬

冬。昼ご飯も食べ終わり、俺はいつも通りベッドに寝転がりながら病院の窓越しに見える景色を楽しんでいる。今日は雪が降っているらしい。


俺は生まれた時から重い心臓病を患っていて、この病院で入退院を繰り返している。病院のベッドでやることは何もなく暇なので、ボーッとしている。今、僕は本当に虚無。最近麻友が来ないのだ。本当につまらない。申し訳程度に降る雪が切なさを加速させている。


「まぁ、受験だからしょうがないんだけどね。」


俺は正直受験とか関係ない。当たり前だ。闘病生活、死ぬかどうかの戦いだ。命あっての物種とはよく言うものだ。

しかし、麻友は最近顔を見せていない。まぁ、国内最大手に入るレベルであろう南館大学の医学部となればそれは気の狂うような勉強量が必要だろう。


「なんかさみしいなぁ。」


今振り返ってみると最近素直になったなぁって思う。それもこれも、あの幼馴染のおかげだな。そういえばあの日も今日みたいな雪が降っていたっけ。そう考えていると、俺のスマホに電話がかかってきた。


「はい。もしもし。」


無気力状態を加速させている僕は特に着信元を見ずに電話に出る。


「…りっくん。」


その声に思わず「えっ?」と声が出た。電話をしてきたのは意外なことに麻友だった。しかし、その声には異常な程に元気がなく憔悴していた。


「麻友。元気がないじゃないか。どうしたんだ。」


「えーと、じつはね。ちょっと自信なくなっちゃって。」


「はぁ。」


対面じゃないから確信は無いけどさ。


なんかウソついてんなこれ。なんとなくの勘だが、この歯切れの悪い感じ、ずっと嘘をつく時のそれっぽい言動な気がする。


「えーと、そう。ちょっと直前の模試が悪くてさ。それでちょっとね。」


はい。ダウト。

俺の記憶だと明日が麻友の第一志望大学の第二次の試験日だったはずだ。

センター試験の直前ならともかく大学試験の直前に模試を返す予備校があるだろうか?いやない。(反語)


「んでさ。りっくんにちょっとさ。」


でも、なぜそんなウソをつくんだ?それだけがわからない。


「励ましてほしくってさ。」


いったいどういう、


ん?


おれは思わず言っていた。


「パードゥン?」


「だから、励ましてほしいんだ…け…ど。」


麻友の声は明らかに小さくなって羞恥を孕んだ声になった。


「あ、あぁ!お安い御用さ!優菜を励ます事なんて造作もないさ!」


ここで早々に引き受けたのはシンプルに受験で憔悴しているであろう幼馴染を助けたいっていうのと、後、何もしないとなんとなく、いや、絶対に人間としてダメになるような気がしたからだ。


「まずな、お前は頑張り屋だ!毎日のように俺に勉強教えてもらってたその飽くなき向上心!間違いなくその大学がほしい人材だろう!」


「……。」


あれ?これさ、


めちゃめちゃ恥ずかしい!!!


「次にな、ソフトボール部のキャプテンとして部員たちをさばいてきたその手腕!何が優先で何を後回しにしていいかその判断力と最後の大会で負けた時に見せたその案外負けず嫌いな一面!そう!悔しさをばねにできる奴は成功しやすいんだ!」


「……。」


たのむー!いつもの麻友にもどってくれー!とんでもなくやりずらいんだって!


「何よりな。お前の特筆するべき点は、俺が応援しているということだ!

人間は応援されてる時は何倍もの力を出せるんだ!自信をもって行ってこい!俺はお前が合格通知をここに持って来ることを待ってるからさ!」


「……。」


あれ?ん?俺今なんて言った?恥ずかしさのあまり変なこと言ってないか?思考が停止してしまった俺に代わり俺が口走ったことを麻友が聞き返した。


「『俺が応援してる』?」


んなぁぁぁぁ!!!!めちゃめちゃ恥ずかしいこと言ってるやん!何口走ってんの?俺?

こんなの励ましになるわけ・・・


「…。ふふっ。あーっははは!なにいってんの!?おもしろい!」


あったー!なぜかいつもの麻友にもどったー!

いや、馬鹿にされてんのか?まぁ、どのみちいつもの麻友に戻った事は喜ばしい事だ。


「あー。笑った笑った。おかげで緊張がほぐれたよ!」


「あ、あぁ。それなら良かった。」


「急にごめんねー!絶対そこに合格通知持っていくからね!じゃあね!」


「あ、うん。がんばってね。はは。」


といった直後ツーツーと電話の切れる音が聞こえた。


「そういえば、なんで麻友はうそを・・・」


「こぅぉらぁぁ!!!ここで電話しないのぉ!!!」


「あ。」


この後おば…お姉さん看護師に滅茶苦茶怒られた。


ってこのくだり前もやった気がするんだけど。はぁついてない。


「聞いてんの!?」


「はいっ!!!!」



数分前

麻友サイド。


「あ、うん。がんばってね。はは。」


そう言われた後、私はすぐに電話を切った。このまま通話を続けていたら、りっくんに依存してしまいそうだったから。


りっくんと最近喋ってない事が少しメンタルに来てたので、りっくんに電話してしまったが結果それが良かった。


自信?あぁ、南館を受ける受験生が自信が無いなんて口が裂けても言えるもんか。(数分前のはノーカンです。)


…それにしても、


「俺が応援している。か。」


どうやらりっくんは失言だと思っているが、その逆、ファインプレーだ。その言葉は間違いなく私の背中を押す一言になっていた。


「さーて!明日に向けてラストスパートだ!がんばるぞい!」


そうして私は再び目の前の難問に立ち向かった。

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