第13話 亮の誘拐

マリエは自分がまだ車に乗っていないのに

走り出した事に驚き手を振りながら

車を追いかけた。

「亮!」

祐希はスマフォを取って絵里子に電話をかけた。

「ママ、亮が誘拐された」


「ロビンに連絡をして」

「はい」

祐希は妙に落ち着いている絵里子に違和感を感じながら

ロビンに連絡をした。

「祐希はとりあえずホテルに来てくれ」

「はい」


~~~~                             

「兄さん、なんて事を・・・」

マリエはケアカが何をしたか気づき

車のテールランプが遠ざかって行くのを見ながら

道路に跪いた。


~~~~~

何事が起きたか直ぐに察した亮は奥歯を2回噛んで

マイクのスイッチを入れると体を起こし腕時計のGPSのスイッチを入れ

運転席のケアカに声をかけた。

「ケアカどこへ行くつもりですか?」

「すまない、ある人の指示で」

「そうですか、どなたかの指示ですか」

亮は冷静に腕を組んでシートに

深く座り直した。


間もなくケアカの運転する車は

住宅街の中で停車し亮の座っている後部座席の

スライドドアが開いた。

「降りろ!」

体格のいい色の黒い男が亮に声をかけた。


「降りたくても足が動かないんだけど・・・」

「クソッ!」

男は亮の手を引き肩に抱えた。

「おお・・・」

亮は子供の頃以来何十年か振りに人に抱えられたので

嬉しくて声を上げた。


「おい、それは何だ?」

脇にいた男が亮に話しかけた。

「ハワイアンのCDです。

イズラエル・カマカヴィヴォレのCDも」

「そうか、それはいい」

亮に答えた男は、人の良さが垣間見えた。

「俺はどうしますか?」

「もう帰っていいぞ!」

ケアカが聞くと男が突き放すように答えた。


「は、はい」

亮は男達の車のトランクに入れられ閉められた。

「ロビン、誘拐された」

「ああ、祐希から連絡が有った。GPSで場所は

確認してある。大丈夫か?犯人はマリエの兄のケアカだな?」

「いや、犯人は別に居る今途中で乗り換えて

トランクの中だ、だからマリエを責めないでくれ」

亮は世話になっているマリエをかばいたかった。

「だが誘拐だぞ」

「いやケアカとはドライブだ」


「まったく頑固だな、亮。まあいい。直ぐに助けに行かせる」

「うん、だけど僕が合図するまで待ってくれ」

「何か作戦でもあるのか?」

「ああ、ちょっとリハビリを・・・」

「リハビリ?」

~~~~~

マリエの声で表に出た美喜が祐希に声をかけた。

「私、幸田美喜亮の仲間よ」

美しい女性に声をかけられて祐希は驚いて返事をした。

「はじめまして、黒崎祐希です」

「絵里子さんの娘さんね」

「亮、大丈夫ですか?」


「うふふ、亮はとても強いから大丈夫よ」

「そんなに強いんですか?」

「カンフーの世界チャンピオンより強いらしい。

今頃亮とロビンが話をしているわ」

絵里子はユニオンハワイアンリゾートの最上階の

VIPルームにいた。


「私はどうすればいいの?」

美喜は絵里子に連絡をした

「栗田さんに怪しまれないようにしてそのまま、探って」

「はい」


美喜が店内に戻ると栗田が美喜に話しかけた。

「どうしました?美喜さんって野次馬?」

「うふふ、そうかも。子供の頃消防自動車のサイレンが

聞こえると家を飛び出して火事現場まで走って行ったわ」


「あはは、それは凄い」

「栗田さんは?」

「私はもっぱらそんな事気にせずに

 勉強ばかりしていました」

「厳しかったのね。お父様」

「はい、出世の第一条件は学歴ですからね」


栗田の言う事は正にエリートサラリーマンその物だった。

美喜は勉強だけじゃなく色々な体験をして

学んでいる亮が尚更魅力的に感じた。

「栗田さんは夢は無いんですか?」

「えっ、それは・・・」

栗田は言い難そうに考え込んだ。


「言いにくい事?」

「いいえ、一度歌をステージで唄ってみたいですね。

それと父と同じ

 政治家になりたいです」

栗田は妻にも言った事のない正直な気持ちを言った。

「素敵!」

美喜が小さく手を叩いた。


「そう言えばさっき、そこに座っていた

男性見たこと有るんです」

「車椅子に乗った男性?」

「ええ、昨日絵里子さんに紹介してもらいたいとお願いした。

團亮さんにそっくりだったような気が・・・」

「えっ?」

美喜は栗田が亮の顔を知っていた事に驚いていた。


~~~~~

「ロビン、車が止まった。マイクを外すぞ」

亮はトランクの中からロビンに話しをした。

「ま、待て。連絡が取れなくなる」

「いや、マイクが見つかったら僕が危ない」

「亮の居場所は時計から出ている

電波で探知している」


「3分20秒前にジェット旅客機ボーイング

737の離陸音が聞こえました」

亮が言い終えるとトランクが開き、男が顔を覗かせた。

「おい、着いたぞ」

亮はその瞬間マイクを耳から外して手に握った。


亮は大人しく大男に担がれ

倉庫の中に運ばれて椅子に座らせられた。


「ようこそ、團亮さん」

カニエラが亮の前に立ってニヤリと笑った。

「はじめまして・・・どちら様ですか?」

亮は目の前に立った男に名前を聞いた。

「おい、お前が今どんな状況におかれているか分かっているのか!」

亮の落ち着き払った態度にカニエラは腹を立て

亮の耳元で大声を上げた。


「誘拐の目的はなんですか?身代金ですか?」

亮はカニエラの恫喝に恐れる事無く目的を聞いた。

「い、いや。ハイジャック犯ジェイクの金が欲しい」

「ハイジャックの金なんて知りません」

「この前のハイジャックの様子をWEBで流したアクセス料だ」

「あなたは、犯人の仲間なんですか?

それなら共犯で逮捕されますよ」

亮はカニエラを脅かした。


「いや、違う」

「でもずいぶん詳しく知っていますね」

カニエラは亮が詳しく突いて来るので

このまま返したらFBIに通報されるので

生かして返すつもりは無かった。

「さあ、吐いてもらおうか。金の在りかを」

「知らない、いいがかりだ」


「ジェイクが最後まで一緒にいたのはお前しかいないんだ」

「金の在りかは知りませんけど、

WEBのアクセス料なら銀行を

調べたほうがいいんじゃないですか?」


「そんな事分かっている、我々の知りたいのはIDとパスワードだ」

「口座番号は知っているんですね?」

「それは知っている」

「それなら簡単です。僕を誘拐して聞き出すより、

銀行の担当の人間を誘拐して

 拷問をして聞きだした方が早い」


「バカにするな!」

カニエラ亮の左顔を殴った。


亮は椅子ごと飛ばされコンクリートの地面に転がった。

「ギャングを舐めるなよ、お前の女房も娘も我々が

 抑えているんだ」

「それはありえない。娘の絢香に手を出したら

お前の一族は三世代全員殺される」

「何を言っている!」

カニエラは亮の胸座を掴み頭にピストルを突きつけた。


~~~~~

「3分20秒前に飛び立ったのはホノルル発ロサンジェルスの行き

 USA航空798便だそうです。B滑走路を使用したそうです」」

絵里子は電話でホノルル空港に電話して聞きロビンに報告した。

「ありがとう、絵里子さん」


ロビンは絵里子に礼を言うと飛行場周りの

地図をコンピューターで開いた。

「B滑走路は西から東に向かって離陸したこの地点から

 時速60kmで走ると3.3km。亮を責める場所は・・・」

ロビンはモニター画面を指差した。


「ロビン、どうして時速60kmなの?」

「亮をトランクに詰め込んでいるんだ、

スピード違反で警察に捕まったら大変だ。

犯人は目立たないようにするものさ」

「なるほど」

絵里子はロビンの代わりに答えた文明の説明に納得した。


「よし!いくぞ!」

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