第12話 絵里子の誘拐

美喜は手を合わせて上を見上げその後目線を亮の背中に向けた。

「そうですか・・・どんな人だろうその人」

栗田は思いをめぐらし業界のプロデューサーか

モデル仲間ではないかと

決め付けていた。


「とても素敵な人です。もし良かったらご紹介しますよ」

「美喜さんが惚れる男性には興味がありますが、

会いたくない気もします」

栗田は自分が嫉妬してしまいそうで

亮とは会いたくなかった。


「栗田さん、あなたにとってとてもプラスに

なる男だと思いますよ。彼」

「本当ですか?」

「ええ、私はあなたと彼が気が合いそうな気がする。たぶん」

美喜は両手を広げた。


「あはは、気を使わなくていいですよ」

「でも、彼はあなたの銀行にたくさん預金をしているはずよ」

「どれくらい?」


「何十億円かしら?」

美喜が言うとさっき絵里子が言ったことを

思い出し、顔つきが変わった。

「その方のお、お名前は?」

「うふふ、後で教えてあげる」

美喜はもったいぶって言った。


~~~~~

「亮、動けるようになったら日本に帰るの?」

「はい、日本に帰って温泉療養しようと思っています」

「日本には体にいい温泉があるって父に聞いたことがあります」

「カラは日本に言った事が?」


「ううん、1度行ってみたい私のルーツだもの」

「そうですね、僕も日本が大好きです。

僕は日本の国を護るためなら

 どんな事でもします」

亮は顔を上げて星空を見上げた。


「私もこのハワイを護るためにがんばるわ、でも亮は

 アメリカの偉い人たちと友達なんでしょう。

お見舞いにたくさん来ていたもの」

「そうですか、僕は意識不明でしたからね。

きっとハイジャック犯を捕まえた

 お礼じゃないですか」


マリエは亮の答えが明確じゃないので首を傾げた。

「まあ、いいわ。兎に角あなたは魅力的で謎が多くて素敵だわ」

マリエは映像に映し出された身代金

400億円の行方を亮から聞き出すカニエラの

命令をすっかり忘れていた。


「ありがとう、カラも素敵です」

傍で聞いていた、祐希は亮のわざとらしい

話になにか探っているような気がしていた。

三人は楽しい食事の時間が終えると目の前に

マリエの兄のケアカの車がレストランの前に止まった。


~~~~~

ヒルトンホテルのレストランで真壁と

夕食をしていた絵里子と祐希の後方に二人の男が座っていた。

「あの女か?」

カニエラの子分のサムが絵里子を見て確認した。

「はい、あの美人です」

「美人は余計だパウラ、それで娘は?」


「ホテルに預けているはずなのでそっちへも二人

 向かっています」

「何処のホテルだ?」

「ユニオンハワイアンリゾートです」

「あそこは、ちょっとまずくないか?」

サムの顔色が変わった。

「どうしてですか?」


「あのホテルは香港のユニオンチャイナ

グループが経営していて中国のVIPが

お忍びで来るところだ。とてもセキュリティが厳しいぞ」

「たかが子供の誘拐、失敗なんてありえませんよ。

それに命までは取られません」


「だといいんだが・・・」

ロサンジェルス出身のサムは安易なハワイの人間の態度に

なぜか胸騒ぎがしてならなかった。

~~~~~

「いや、今日はお二人に買い物に付き合ってもらって助かったよ」

真壁は深々と頭を下げた。

「いいえ、真壁さんがしっかりと

お嬢さんの好みを聞いてくれたおかげです」

「とにかく感謝する」

「でも、買ったものは娘さんだけの物

ではないですよね、好みが違っていました

から年齢でいくと30歳代後半ともう一人?」


絵里子は笑いながら質問すると真壁はばつが悪そうに答えた。

「う、うん。まあその・・・」

「うふふ、仕方がありません。色々な女性と

関係を持つのが男性の本能ですもの」

絵里子は職業柄多くの男性を見てきていたので

生活にゆとりのある真壁が愛人を

持つことなど当然の事だと思った。


「そう言ってもらうと気が楽だ、一人は秘書、もう一人は人妻だ」

「そこまでおっしゃらなくてもいいのに・・・」

「いやいや、君には嘘は付けないよ、

すべて見透かされているような気がして」

真壁は絵里子の気を引こうとして自分の女性関係を明かした。


「そんな事ありません、私が見透かせない男性も居ます」

「ああ、例の男か・・・」

真壁は絵里子の言葉の端々に亮の事が出てくるので

気に入らなかった。


「では、明日の岡村幹事長のお嬢さんのいらっしゃる、

トランプホテルに9時でよろしいですね」

絵里子はそう言って立ち上がった。

「おいおい、もう帰るのか。せっかくだから私のホテルで

 飲み直さないか?」


「うふふ、そちらのお付き合いはできかねます、それに祐希も居ますし 」

絵里子が首を横に振ると真壁はため息をついて時計を見た。

「わかった、私はもうしばらくここで飲んでいく。気をつけて」


~~~~~

「おい、女達だけ出たぞ。パウラ、チャンスだ」

「はい」

サムに命令されパウラはレストランを出て外に居た

仲間を連れて絵里子と後ろに付いた。

「おい、姉さん達命が惜しければ黙って我々に付いて来な」

「はい」


絵里子は絢香を護るためも有って

危険回避の為に黙って後ろの男に従った。

絵里子達は3方を男に囲まれホテルの

玄関を通り過ぎ表通りに出よとしていた。


その向かいから小妹と蓮華と桃華が歩いてきた。

「やっぱり、絵里子さん達を誘拐するみたい。卑怯な奴」

真ん中の小妹が呟いた。

「小妹、レベルはいくつ?」

蓮華が小妹に聞いた。

「そうね、両腕骨折のレベル2」

「了解」


小妹の脇にいた蓮華と桃華が突然走り出し

絵里子の両側に居た男の股間を蹴り上げた。

すると男達の体は一瞬宙に浮き股間を押さえて転がっていた。

小妹は絵里子の両肩に手を掛けて絵里子を

飛び越え後ろにいたパウラ

の肩に上に乗り足を首に絡ませ締め上げ後ろに倒し

気を失わせた。


「絵里子さん、大丈夫?」

「ありがとう、小妹」

絵里子は小妹に感謝を込めてハグをした。

「蓮華、桃華!」

小妹が二人の男を見ると股間を押さえたまま

気を失っていた。

「両腕を折る間もなく一蹴りでこのありさまよ」

桃華は相手があまりにも弱いので両手を広げた。


「絢香は?」

絵里子はロビン達に預けた絢香が気になった。

「あちらは大丈夫。ネズミ一匹は入れないわ、

 骨折で済めばいいけど・・・」


~~~~~

亮が帰り支度をしていると

亀山がCDを10枚持って来た。

「病室でハワイアンでも聞いてください」

「あ、ありがとう」

亮は亀山に突然CDを渡されて驚いていると

マリエがそれの一枚を手に取った。


「わあ、素敵。イズラエル・カマカヴィヴォレ大好き」

「有名なんですか?」

「うん、日本のおすもうさん以上に太っていて、

 曙、武蔵丸、小錦も

 唄っていたわ」

「あはは、面白い聴くのが楽しみです」


そこにマリエの兄ケアカがレストランの中に入って来た。

「カラ、迎えに来た」

「兄さん、心配したのよ、電話が通じなかったから」

「ああ、すまないスマートフォンを家に忘れちゃって」

「じゃあ、メール読んでいないんだ」

「あっ、ああ」


ケアカはカニエラにスマートフォンを

取り上げられていた事を

隠していた。


「それがとてもいい話なの亮がね、お兄さんの・・・」

「はじめまして、カラ、いいえマリエの兄のケアカです」

ケアカはマリエの話しをさえぎって亮に挨拶をした。

「團亮です。マリエにはいつもお世話になっています」

「いいえ」


「亮さん、またいらしてください。お待ちしています」

亀山が亮に声をかけた。

「もちろんです。ところで機内食の方は?」

「レシピが30ほど出来上がりました、

後は冷凍のテストなんですが

 これは私の専門外なので・・・」


「了解です、それは僕の方で手配します」

亮が亀山に別れを告げるとケアカが

亮の乗っている車椅子を押した。

「カラ、俺が押すよ」

「ありがとう、兄さん」


マリエはケアカの優しさに感謝し

亮がケアカの船をツアーで使いたいという事を

早く伝えたかった。

「マリエ、まず亮さんを車に乗せるから手を貸してくれ」

乗用車と違ってSUVの車高が高いので

亮を乗せるのには一人では容易ではなかった。


亮がケアカとマリエの助けで後部座席に乗るとマリエは

車椅子をたたんでシートの後ろに載せて

スライドドアを閉めた。


すると、ケアカが急に車を発進させた。

「兄さん!」

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