第6話 盗聴

「良かった、また遊べるね」


ヒゲを剃った亮の爽やかな顔が本の向こうに見えると

絵里子の顔が赤くなり亮は絢香が抱こうと手を伸ばした。

「はい」

絵里子が亮に絢香を預けると亮は

嬉しくて頬擦りをした。


「そう言えば絢香、さっきすれ違った女性を見て笑っていたわ」

「そう・・・」

それまで笑顔だった亮の顔が真剣な顔になった。


「これは亮に頼まれた物ね」

絵里子は薬ビンとローションを渡した。

「ありがとう、おいしそうだ」

亮は盗聴を警戒してまったくトンチンカンな返事を絵里子

にすると薬ビンを開け錠剤を2錠口に入れ

薬ビンとローションを枕の下に隠した。


絵里子は病室のドアを見て誰も来ないのを確認すると

ロビンに預かったマイクを亮に

渡し耳に入れるしぐさをした。

亮はうなずき左の耳のそれを入れ

カチカチと奥歯を鳴らした。


「おお、亮繋がったな」

突然亮の耳の奥でロビンの声が聞こえた。

「そうだ、絵里子さん今夜

看護師のマリエと夕食に外出します」

亮はそう言ってロビンに夜の予定を伝えた。


「ああ、そう。素敵な夜を楽しんでちょうだい」

絵里子は亮がロビンと外で接触したいと希望を察していた。

「絵里子さん、午後からの予定は?」

「ええ、アラモアナシッピングセンターでお買い物よ」

「分かりました。楽しんできてください」


絵里子はメモに劉文明とロビンがユニオンハワイアンリゾートに

宿泊している事を伝えるとそれを読んだ

亮は黙ってうなずき手招きをした。

「誰と行くんですか?」

亮は気になって絵里子の耳元で囁いた。


「亮、京浜不動産知っている?」

「データは覚えています。京浜不動産はマンションの

建設、販売をメインとする

2部上場会社で年商1335億、社長が真壁伸太郎

さん62歳ですがマンションの売り上げの

低下と免震工事に費用が掛かり

赤字決算を出したので株価が下がっています」

亮は会社四季報をすべて記憶していた。


「凄い記憶力」

「たまたまです」

「それで、メインバンクは?」

「いなほ銀行横浜支店です」

「そう、じゃああの人は・・・」

絵里子は真壁と一緒にいた栗田という男

が気になっていた。


「どうしたんですか?急に・・・」

「昨日、例のスマートフォンを借りちゃったから

 お礼に今日の娘さんのお買い物を手伝う約束をしたの、

 それに亮の仕事で何か利用価値があるかと思って」


「それはありがとうございます」

亮は絵里子を愛しく思って抱きしめそうになった。

「そうだ、祐希さんも一緒に行くといい、

娘さんなら年齢も近いし商品を選ぶのにいいかも」

「了解です」

祐希は亮に指示されて喜んで

返事をした。


「あっ、失礼」

ドアを開けたマリエの声が聞こえた。

亮と絵里子が離れると

絵里子は普通の声のボリュームで亮に話しかけた。


「亮、何か欲しいものある?」

「服とお金」

亮はまるで普通の若い男性のような反応をして

絵里子は可笑しくて笑った。

「マリエさん亮の持ち物はどうなっているの?」

絵里子が怪訝な顔でマリエに聞いた。


「ええ、それがFBIの方が亮のトランクから

財布もパスポートも全部持っていったまま

帰ってこないんです」

「お金も?」

絵里子はFBIの協力者のはずの亮からお金まで

持って言った事が不思議だった。

「はい、下着類は病院が立て替えています」

「すみません。なぜかしら・・・亮の方からも

FBIに聞いたほうが良いわよ」


「そうですね」

亮は笑いながら両手を絵里子に差し出した。

「今夜食事に行くんだし病衣じゃ恥ずかしいわね。

 直ぐに買ってくるわ」

絵里子と祐希はマリエに会釈して病室を出て行った。


「ねえ、絵里子さんは一緒に夕食に行かないの?」

「はい、用があるみたいだし絢香もいますから、

一緒にいた祐希を連れて行こうと思います」

「そう」

マリエは亮と二人で食事が出来るので

楽しみにしていたが 祐希が一緒だとは思わなかった


「それでスミス先生は何て言っていましたか?」

「亮の怪我は治ってから問題は無いそうよ、

 ただアルコールは絶対ダメだって」

「分かりました」


~~~~~

「よし!マリエがダンを誘い出したぞ」

車椅子に付けてある盗聴器で盗聴をしていた男が車の中で声を上げ

カニエラに連絡をした。

「ボス、マリエが今夜ダンを外に連れ出します。

ただもう一人連れがいるようです」


「よし分かった」

事務所の大きなテーブルに座っていた

カニエラは葉巻を吸いながら笑っていた。

「よくやったなマリエ、アハハ」


~~~~~

「祐希、亮の事好き」

絵里子が真剣な顔をして祐希に言った。

「うん」

「どんな感じで?」

「私の初恋、一生傍にいたい」

絵里子は祐希を複雑な家庭で

育てた贖罪で何も言えなかった。


「祐希、あなた大変な人に恋をしたわね。

亮を超える男性はいないわよ。

ライバルが多いし」

「わかっているわよ、でも負けない」

「でも祐希は美人だしスタイルも良いし

英語も日本語堪能だし頭も良い申し分ないわ」


「うふふ」

母親に褒められて舞い上がっていた

「だた、亮の正体を知ったらあなたは

失望するかもしれない」

「何?」


「あなたの知っている亮は仕事以外に裏の仕事をしているの」

「何?」

「スーパーヒーローよ」

「えっ・・・」

〜〜〜〜〜〜

「マリエ、サンペレグリノ(イタリア製の炭酸水)を

3本買って来てくれないか?

 お金は後で払う」

「ペリエじゃダメ?」


「カルシウムとカリウムの濃度が

高いからサンペレグリノの方がいい」

「分かった」

マリエは病室を出ていった。


すると直ぐにドアが開き掃除婦が入って来て

亮のベッド脇のゴミ箱に手をやった。

「パチン」

亮は掃除婦の尻を叩いた。


「キャー、何するのよ!」

体を起こした掃除婦は怒って

声を出さず亮を睨みつけた。

亮は口に人差し指に手を当てて車椅子を指差した。

「フン」

掃除婦は車椅子のシートの下の

マイクを見つけ枕の下に突っ込んだ。

「もういいわよ、亮」

亮は奥歯を2回噛んでマイクのスイッチを切った。


「久しぶり小妹」

ベッドで嬉しそうに笑う亮に小妹は思い切り抱きついた。

「看護師のマリエは5分で戻ってくる」

「OK、それで具合はどうなの?」

「まだ、腰から下が動かない」

「本当?しゃぶってあげようか?」

小妹は舌をベロベロと出した。

「バカ何言っているんだ」

亮は小妹の頭を軽く叩いた。


「ロビンに聞いたんだけど、FBIに監視されているんだって」

「入り口に人相の悪いのがいるだろう」

「うん、いたいた。でも亮はFBIにお友達いっぱいいるでしょう」

「まあね、でもここにいる連中はそれとは

違うみたいだ。それに別の誰かにも監視されている」

亮は自分の足が不自由に動けない事を悔しく思っていた。


「そうだね、その盗聴器はFBIが使っているものと違うわ」

「うん、その盗聴器は量産型のVHF帯の139.950

と139.970と140.000MHzの

物だから受信範囲はせいぜい1000m以内ちょうど

病院の外側の道路辺りにいるだろう」

「了解、直ぐに犯人を捜すわ」

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