第5話 介護

「絵里子さん、威勢がいいなあ」

すると目の前のエレベーターのドアが開いた。

「あっ文明さん・・・お久しぶりです」

絢香を抱いた絵里子は車から降り深々と文明に頭を下げた。

「うむ、とりあえずエレベーターに乗って」


そのエレベーターはあっ言う間に

最上階の40階に着いた。

「このホテルは?」

「うちのグループの物で安心だ、さっきの運転手は私の指示通りに

動いただけだ。君をつけていた連中を

撒くためとはいえまなかった」

「いいえ」

絵里子は首を横に振った。


「この子、私の上の娘の祐希でハーバード大学へ

 っています」

「祐希です。亮と一緒に水ビジネスをやっています」

「おお、この子が亮のお気に入りの祐希君か

将来アシスタントにするんだろう」

「そうなんですか」

祐希は文明に言われて心がときめいた。


「ロビンから亮の意識が戻ったと言う

連絡を受けたが亮の様子はどうだ?」

文明は絵里子に聞いた。

「はい、まだ障害があるそうで車椅子の

生活でリハビリをしています」

「車椅子か・・・」

文明は亮が不能になってエッチが出来ないのではないかと

想像して吹き出しそうになった。


「それで、入り口でFBIの人間が亮の見張りをしています」

「それは、亮を護っているんじゃないか?」

「私もそう思ったんですけど、亮は監視をされていると言っていました」

「何故だ?」

「ハイジャック犯がライブカメラで流した

アクセス料が20億ドルあるそうなんですが

パスワードナンバーを亮が知っているので

はないかと疑われているそうです」


「なるほど20億ドルのパスワードナンバーか・・・」

文明は腕を組んで考え込んだ。

「他のみんなは?」

絵里子は亮の仲間達がハワイに

来るのではないかと思っていた。


「ロビンが連絡をしている、

一応のこのホテルに宿泊するように指示はしたが

小妹たちはどう動くか予想もつかない」

文明は両手を広げて笑い絵里子も一緒に笑った。

「絵里子!」

ドアが開くとロビンが絵里子にハグをした。


「亮の意識が戻ってよかったね」

「はい。早かったんですね。ロビン」

「いや、もっと早く来たかったんだが

10時間も掛かってしまった。

 日本からの方が近い」

絵里子はロビンに祐希を紹介すると

「君が噂の祐希君かキャシーに聞いている。

 ロビン・ハイドだ」

ロビンは祐希と握手をした。


「ロビン・ハイド。AmericanwebのCEO・・・」

祐希はあまりにも大物の人物に手が震えた。

そしてロビンはソファーに座っている

絢香のところへ行って微笑みながら

しゃがんで挨拶をした。


「絢香ちゃん絵里子さんに似て美人だな」

ロビンは絢香が亮の子と知らず人懐っこい絢香の頭を撫でた。

「うふふ、ありがとうロビン、あなたも早く子供を作って」

「あはは、それは相手が決めることです」

美佐江に恋をしているロビンは千沙子と付き合っている

文明の顔を見て笑っていた。


「そうだ、これが亮へお土産です」

ロビンはポケットからスマートフォンを取り出した。

「これは?」

「うちが開発したスマートフォンです。

うちの会社が作ったOSで動いているから

 盗聴できません」


「まあ、凄い!」

絵里子が受け取ったスマートフォンを文明が取って

触り出した。

「これはずいぶん動きが早い」

文明は指先で動かしながら驚きの声を上げた。

「5Gの倍の早さです。しかもパーツを使えば

 衛星電話が使えます」

ロビンは自慢そうに答えた。


「私もこれが欲しい」

「はい、何台でもとりあえず1億台中国で売ってください」

「わかった、考えておく」

「日本製のイメージセンサーを使っていてカメラは最高です」

「そうか、それは凄い」

二人は亮を心配した様子が微塵もなく

ビジネスの話しをしていたので

絵里子は不満だった。


「あのう、そろそろ病院へ行かないと」

「ああ、すみません。これも

亮に渡してもらえますか?」

ロビンはベージュの大豆大の物を差し出した。

「これなんですか?」


「超小型無線機です、骨伝導マイクとスピーカーに

 なっていて外から見えなくなっている」

「電池は?」

「LR41よりちいさな3×3の水素電池が入っていて

VOX(音が出た時だけで作動する発信するシステム)で動くので

120時間以上もつ、後は亮に渡し耳に

入れてもらえば亮とはいつでも交信できる。

ボリュームスイッチは奥歯をカチカチさせればいい」


技術解説の好きなロビンは

絵里子のシリアスな質問に答えた。

「うふふ、素敵」


~~~~~

海辺にはビキニの女性がビーチパラソルの下で

ホノルルセントラル病院を双眼鏡で覗いていた。

「小妹、こちら準備が出来たわ」

「OK、マギーこちらは潜入成功。

東洋人が多いので意外と楽だったわ」

ボランティアの掃除婦に着替えた

小妹は病院の廊下を掃除していた。


その脇を面会手続きを済ませた絵里子と

祐希が絢香を連れて通った。

「きゃ、きゃ」

絢香が声を上げて笑った。

「絢香、どうしたの?」

絵里子が絢香の顔を見て不思議そうな

顔をして亮の病室に入った。


「おはよう、亮」

「おはようございます」

「祐希さん。どうしたんですか?」

「夏休みです。しばらく私が介護しながら仕事

を進めたいと思って、一応身内なので

面会が許可されているので」


「身内?」

「亮さんの娘の絢香の姉なので、うふふ」

祐希は絵里子の顔を見た

絵里子はすっかり女性らしくなった祐希が

亮に恋をしている事を察していた。


「じゃあ、祐希に頼もうかな亮の介護」

「任せて、ママもいつまでも仕事休む

訳にも行かないでしょう」

「そうね」


ベッドを起こして本を読んでいた亮が

本を閉じて顔を出した。

「絢香こっちへおいで」

絢香はベッド乗り亮に抱きついた

「パパ足動かないの?」

「大丈夫、もうすぐ動くよ」

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