第4話 出会い

「銀座でちょっと・・・」

「そう言えばどこかで見たような」

真壁が絵里子の顔をじっと見つめた。

「ええ、まあ。あっいけない。

スマートフォンをホテルに忘れちゃった」

絵里子が困った顔をすると直ぐに真壁が

スマートフォンを差し出した。


「これ使って良いですよ」

真壁は絵里子の予想通り最新型の5Gディバイスだった。

「ありがとうございます」

絵里子はそれを受け取り窓際に

立ってロビンに電話を掛けた。


「ロビン、亮の意識が戻ったわ」

「それは良かった」

「それが亮はFBIに拘束されて病院から

外部に連絡が出来ないのよ」


「なぜだ?彼はアメリカ政府と

仕事をしているのに・・・」

「ハイジャック犯のお金の在り処を

亮が知っていると疑われているみたいよ」

「分かった、僕も直ぐにそっちへ向かう」


「盗聴されているかも知れないので気をつけて、

 私も亮の指示で盗聴が少ない5Gのディバイス

 を探したんです。アメリカは5Gの電波が飛び交って

 居るのに中々ディバイスを買い替えない人

が多いので普及率が低いので盗聴され易いようです」


「わかった、後は僕に任せてくれ、絵里子さんの宿泊先は?」

「ワイキキのコンドミニアムアクアタワーズの2101号室です」

「了解、連絡する」

ロビンはまるで亮が乗り移ったように

冷静で安心できる反応をした。


「どうもありがとうございました」

絵里子はロビンの送信履歴を削除して

ハンカチでスマートフォンを拭き

真壁に返した。

「とんでもない。ところで絵里子さんの明日の予定は?」


「午前中は予定がありますけど午後はまだ何も」

「そうか、では明日娘に頼まれた買い物が

あるんだが付き合ってもらえませんか、 

英語が話せる人が側にいた方が都合が良い。

お礼はさせてもらいます」


「はいご一緒させていただきます。

ええと連絡先は?」

絵里子は栗田が語学に堪能のように見えたが

躊躇なく真壁の依頼を受けた。


「この電話に連絡をくれれば良い、電話番号はここに」

真壁は名刺を差し出した。

「まあ、あの有名な横浜の京浜不動産ですね」

「知っていますか。あはは」

真壁は豪快に笑っていた。


絵里子が推理するには、一緒にいる栗田は

京浜不動産のメインバンクの貸付担当で

接待でハワイに来た様子だった。

「さて、そろそろ」

真壁の一言で絵里子は次の二人の行動を察して立ち上がった。


「ありがとうございました。ではまた明日」

絵里子は挨拶をしてマイタイバーを出て行った。


~~~~~

病室のドアが開くとマリエが入って来た。

「マリエさんこんな時間にどうしたんですか?」

亮はいつもと違う時間にマリエを不思議に思った。

「ううん、急に寂しくなったから・・・」


「そうですか」

仰向けで天井を観ている亮にマリエが聞いた。

「ねえ、亮。飛行機のハイジャック

犯ってどんな人だった?」


「どうして?」

亮は事件の時の事を突然聞かれてマリエを疑った。


「だって300人もの乗客を危険に貶めるなんて

凄く悪い奴なんでしょう?

そんな奴をやっつけた亮は凄いと思う」

「いや、犯人は頭の良い男だった。

最後まで主犯だと思わなかった」


「そう・・・ところで身代金の

お金何処へ行ったのかしら?」

マリエは公表されていないアクセス料の

事は知らないふりをして

身代金と言った。


「ん?身代金?どこかの銀行にあると思うよ。

でも当局が凍結したか、もう日本に

返還されているのかも知れません」

「そ、そうよね」

亮はしつこく聞くマリエを完全に疑ったが

FBIがマリエを使って自分から

情報を取るとは思わなかった。


「そうだマリエ、僕が退院したらお世話を

してくれたお礼がしたい

 何か欲しいものある?」

「うふふ、ありがとう。何でもいいわ?」

「家族は?」


「ここで漁師をしている父と母、

フィッシングボートで釣りツアーをしている兄

 それと大学生の妹よ。ただ父は足の

怪我をして仕事を休んでいるけど」


「それは大変ですね」

亮は首を起こして自分の足を見た。

「亮は2本あるから良いわ。

父は片足しかない・・・」

亮はマリエの悲しそうな顔を見て

父親の足の無い原因を察した。


「そうだ亮、明日スミス先生の許可を

取って夕食を食べに行きませんか?

 病院食も飽きたでしょう」

マリエは亮を外に誘い出す事に心臓をドキドキさせていた。


「そうだね。魚が食べたい」

「はい、美味しいところ知っています」

マリエは普通の日本人ならステーキと言うのに

亮に魚と言われて嬉しかった。

「うふふ」

マリエは亮のベッドの上に座った。

~~~~~

その夜、絵里子の部屋の館内電話が鳴った。

「ママ、私祐希」

「祐希、どうしたの?」

「私も亮のお見舞いに来た」

~~~~~~

翌朝9時前に絵里子と祐希がホテルの前からタクシーに乗った。

「ホノルルセントラルホテルへ」

「かしこまりました」

運転手は丁寧に答えるとゆっくりと走り出した。

カラカウア通りをホノルル動物園の方向に向かうと


「お客様、曲がります窓の上のグリップを掴んでください」

運転手はそう言ってパオアカラニ通りを左折すると

絵里子と祐希と絢香の体は

左に揺れタクシーは急にスピードを上げた。


「どうしたの?急に・・・」

運転手はそれに返事する事無く

スピードをグイグイ上げ

ユニオンハワイアンリゾートの地下駐車場に入り

エレベーターのドアの前にタクシーは止まった。


「申し訳ありませんでした、どうぞお降り下さい」

中国系の運転手は深々と頭を下げドアを開けた。

「私達を誘拐してどうするつもり!」

絵里子は車の中で絢香と祐希を抱きしめ強い口調で怒鳴った。

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