最終話 大切なあなたに幸せを
足が重い。少し歩くだけで息が切れる。今僕は近くの森に1人でいた。部屋には戻らなかった。
みんなが僕の死を受け入れたくない…というのは本当のことだろう。それは有栖だってそうだ。だって、死を受け入れられるのだったらこんな世界作らない。みんなは僕の願いを叶えたいと言っていたが、正直会いたいだけだったのだろう。この世界なら悲劇は起こらないはずだから。僕の理想通りに世界が進むはずだから。
でも現実は違った。悲劇は起こった。それは、僕の限界。現実の僕が完全に死ねば、この世界は消え失せる。そうしたらみんなは悲しむだろうか。それともみんな理想の夢から覚めることができないのだろうか。それだけは嫌だなぁ。と、一人で考え事をしながら歩いている最中だった。前の方から人影が現れた。
「一人で何してんだよ…秀。」
声をかけてきたのは真夏だった。だが、その背後には、一緒に旅行しにきていた面々が揃っていた。
「なん……で…みんなが…」
僕は思わずそう呟く。予想外だった。これほどまでにみんなが僕の行動を、僕という人間を理解しているとは思わなかった。僕は一人でここで最後を迎えるつもりだった。だって、ここで死ねば、みんなの悲しむ顔を見なくて済む。死ぬ前に辛い思いをしなくて済む。
でも、みんなの顔を見て、変わった。そんな考え方が、百八十度変わった。
「ここにいる全員、お前が思ってる以上にお前のことが好きなんだぜ?もちろん俺は友達としてだけどな。」
そうして僕の頬を何かが伝った。
「ねぇ、兄さん。なんで一人で消えようとしたの?みんながそれを望むなんて思ってるの?」
「……僕はただみんなの悲しむ顔を見たくなくて…」
「悲しむ顔をするのは別れた後で良いのよ。」
汐恩がそんなことを言った。
「別れってのはね、笑顔でするもんなのよ。」
そんなことを言うが、汐恩の目尻には涙が溜まっていた。暗闇の森の中でもわかるほどに、溜まっていた。
「うおっ!」
その瞬間、真夏が僕をおぶった。
「ついてこい、見せたいもんがある。」
そうして僕は真夏におぶられながら、みんなについて行った。
そこには、まだ冬だというのに、咲き乱れていた一本の季節外れの桜があった。
「………そうか。ここは夢だから…なんでもありなんだ。」
「そうだぞ。俺たちが望めばなんでもできるんだ。」
そう言いながら何かを準備するみんな。
「何をしようとしてるんだ?」
僕がそう聞くと、みんなはビニールから何かを取り出した。
「花火だよ!」
音羽が火をつけ、花火を散らしながら、笑顔で振り向いてそう言った。
「ほら、兄さんも!手出して!」
言われるがまま手を出す。その手は、支えがないと動かなかった。だが、みんなが支えてくれた。
僕の指に花火が握られた。そうして、着火。火花が迸り、僕たちの顔を照らしていく。
「なんだよ……笑顔で別れるんじゃなかったのかよ…」
思わず僕はそう呟いた。だって、みんな何かを我慢するような、辛い顔をしていたから。
だから僕は、頑張ってぎこちない笑みを浮かべて言った。
「別れってのは……笑顔でするもんなんだろ?」
笑顔とは裏腹に再び頬を涙が伝った。それは留まることを知らなかった。
「しんみりした別れなんて……僕は嫌だよ…」
そうして一拍をおいて、本当の願いを僕は告げた。
「ここは僕の理想の世界なんだろ?だったらみんな…笑ってくれよ…」
僕は切実にそう訴えた。すると、みんなも僕と同じようにぎこちない笑みを浮かべ始めた。
「泣いてるの丸わかりだぞ……お前ら…」
そう言うと、僕はとうとう身体中の力が抜け始めて、地面に寝そべった。花火が消え始め、僕の腕もだらりと力が抜けて垂れ下がった。
「………なぁ。」
僕は呟く。
「………何よ。」「何だよ。」「何ですか?」
みんなが反応してくれた。だから僕は、最後くらい弱音を吐いても良いだろうか。
「僕、死にたくないよ……」
すると、僕を抱き抱える音羽から、一滴の水滴が僕の頰に落ちてきた。
「知ってるに決まってるでしょ……そんなこと。」
音羽が呟いた。………。あれ?有栖がなんか言ってるけど………聞こえないや。
「先輩が未練タラタラな事くらいわかってますよ……………て、最後まで聞いてくださいよ…全く…」
気がつけば先輩は帰らぬ人となっていた。私は最初先輩の意識が戻らないと知った時、死にたいと思った。でも、ここが夢の世界だったとしても、先輩と会えたのは本当だ。最後に一度、先輩会いたい、と言う願いを、神様は叶えてくれた。この世界っていうのは、案外残酷で、悲しいものなんかじゃないのかもしれない。神様は乗り越えられる試練しか与えないというのも、本当かもしれない。だって、私は最後に先輩に会えて、幸せだったから。だから私はこれから前を向いて生きていく。
でも、先輩がいなくなった今、少しくらい泣いても良いよね?
そうして世界が崩れ始め、柳沢秀という世界が崩壊を始めた今、私は、私たちは泣いた。先輩の前で泣くわけにはいかなかったから。だから、涙をこれでもかというほど流して、流して、涙が枯れ果てた頃、私たちは意識を取り戻した。
病室だった。秀先輩のお父さんが立ってそこにいたことから、現実世界と時間はリンクしていないらしい。
私は横たわる秀先輩に目を向ける。隣に映し出されていたのは心拍数が0になったことを伝えるモニターだった。
先輩は死んでしまった。そのことを嫌というほどに思い知らされる。でも私は。
「先輩。先輩は幸せでしたか?」
そうして私は一拍置いて告げた。
「私は秀先輩が大好きです。だから、願います。」
だから私は願った。もし、先輩が生まれ変わることができたのなら、先輩が幸せになれるような、そんなハッピーエンドを。
お願いします。私の愛したたった一人の彼に幸せを。
大切なあなたに幸せを。
80000文字少しもあるのに最後まで読んでくださりありがとうございます!初めてこんな字数の小説を書いたので意味不明なところもあったかもしれませんが、最後までかけて良かったです!
もしかしたら続編が出るかも?なんて思ってます。(人によっては蛇足)
大切なあなたに幸せを フィリア @Gain0307
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