待ちに待った温泉旅行 2

 あれから船を乗り終え、少し歩いたのちに、僕たちはあるお店にやってきていた。そこは麺を主食として出しているお店で、この県でトップレベルの人気を誇っていた。


 店に入った途端いい香りが鼻口を貫く。感じていた空腹は唸るように暴走し始めた。


 ぐぅっと腹が鳴る。


「ぶっ」


 音羽が吹いた。


「何笑ってんだお前。」


 間違いなく、次に言われる言葉が予測できる。そうして言われた言葉は


「やっぱり兄さんって食い意地張ってるよね。」


 やっぱり予想通りだった。本当にそんなに食い意地を張ってるように見えるのだろうか。僕はそれが少しだけ気になってしまった。


 それから僕たちは席につき、メニューを眺めていた。


「俺は絶対にラーメンしか食わん。」


 真夏はラーメン派らしい。僕はうどんなんだけど。やっぱりうどんが1番である。ラーメンは麺が細い。まずいって訳じゃない。むしろ美味しいとは思うけど、やっぱりうどんのあのもちもちがたまらないのだ。


「秀はラーメン派だよな!?」


 期待した目で僕を見てくる真夏。


「ふっ」


 僕は息を吐くように笑って


「僕はうどんだ。」


「お前もそっちかよ!」


 今この場でラーメンを食べるのは真夏だけだ。


「孤独は悲しい。なので俺はうどんを食べることにします。グス。」


「あ、泣いた。」


「泣いたわね。」


「泣きましたね。」


「ひでぇ…」


 僕たちは、いつになっても変わらない真夏への対応が久しぶりに面白く感じ、笑った。


 賑やかで楽しくて笑いが絶えない僕の居場所。それがここだった。だから、これから先のことを想像して、少しだけ寂しくなった。不滅というのが存在すれば、僕は永遠にこの居場所にいれたのだろう。だが、不滅なんてものは存在しない。だから僕は…


「秀先輩。」


 名を呼ばれ、僕は我に帰る。すると、有栖はにっこりと笑いながら


「まだ今日がありますから。楽しみましょ!」


 どうやら僕の考えすぎてしまう癖は治っていないらしい。


「そうだな。今日を楽しまないとな。」


 クスリと笑って僕はそう返した。そうして僕たちは注文が来るのを待った。真夏がボケて他の誰かが突っ込む。いつ見ても面白いし楽しいかった。


「ご注文の品は以上になります〜。」


 店員のその声を合図に、僕たちの机には全員分の食事が並べられた。


「私、こういううどん初めて食べるのだけど…」


 汐恩がそう言うので、僕は汐恩の頼んだうどんを見た。肉うどん。なるほど。確かにお嬢様は食べているイメージが無い。


「大丈夫だ。うまいぞそれは。」

 

「ふふ。秀がそう言うのなら安心ね。」


 そうして僕たちは飯を食い始めた。


 しばらくして飯を食い終え、僕たちはこの店を出るのだった。


 


 それから楽しい旅行の時間というのは面白いように過ぎて行って、僕たちは旅館に到着していた。その旅館は温泉旅館というだけあって、和風な雰囲気を漂わせていた。


 チェックインを済ませた有栖がこちらにやってきて、僕たちは楽しみにしていた部屋に入ることになったのだった。


 ドアを開けると、畳が一面に引かれ、真ん中に机があり、奥の方には窓があり、いつでも絶景が見れるような作りになっていた。その部屋に、僕たちは感嘆の声を漏らした。


「着いたァァァァァァァァ!」


 真夏が元気よく叫び、荷物を放り投げる。


「ちょっと、汚さないでほしいのだけど…」


「荷物は投げちゃいけませんよ?」


「真夏さんはもう少しおとなしくしたほうが良いです。」


「すいません。」


 いつものように糾弾される真夏。そんな真夏を横目で見ながら僕は床に座り込む。


「ふひぃ〜。」


 ずるずると壁に寄りかかりながら座り込む。1日歩いて疲れた。だからしばらくここから動けそうになかった。


 すると、真夏が何かを思い付いたかのように言った。


「せっかくの温泉旅館なんだ。温泉行こうぜ!」


 僕は時計を見た。時刻は午後6時。そろそろ飯が来る時間だ。だから僕は


「もう飯が来るからもう少し待て。それからにしようぜ。」


 と言った。ここの飯は海鮮がメインで、天丼とかが出るらしいので楽しみにしていた。


 …………本当に僕って飯のことしか考えてないな。そう思ってると、部屋のドアがノックされ、料理が運ばれてきた。


 天丼にその他海鮮。刺身にホタテなどの僕の大好物がずらりと並べられる。


 また僕の腹が鳴った。周りに笑われた。僕の腹よ。これ以上鳴らないでくれ。


 僕たちは食卓につき、飯を食べ始めた。




 飯はうますぎたが故か、一瞬で完食してしまった。僕たちが普段過ごしていた地域とは違う味付けだったためか、食べるのに夢中になってしまい、会話を忘れるほどだった。


「よし、飯も食い終わったし温泉行くぞ!」


 そうして真夏が待ち侘びていた風呂の時間がやってきていた。

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