待ちに待った温泉旅行!
僕たちは朝早くから出発して、駅にいた。真夏が途中で腹を下し、電車に遅れそうになった。指定席を取っていたのでかなり危なかった。ヒヤヒヤさせやがって。
「お前…体調管理しっかりしろよな…」
「仕方がないだろ。俺は朝弱いんだから。」
何を隠そう真夏は朝に何かを口にしたり飲んだりすると必ず腹を下す。たまにいるよねこういう人。男に多いらしい。まぁ、そんなことはどうでもよくて
「また寝れなかったぁ…」
そう。僕は有栖とのデートの時みたく、楽しみすごて眠れず、絶賛今睡魔に襲われているのだ。ひどい睡魔に、心地よい電車の揺れがマッチして、絶妙な空間を作り出していた。
「先輩?」
僕を呼ぶ声がしたので右を向くと、前の時みたいに膝をポンポンしていた。僕らゴクリと固唾を飲んだ。あれはあの時の、伝説の膝枕だ。男なら誰でも中毒になってしまうあの柔らかさ。また体験したい………いや抑えろ僕。ここはみんないる。恥ずかしくなるだけだぞ。
だが、そんな僕の気持ちとは裏腹に、睡魔は悪化していって、結局膝枕にお世話になるのだった。いやまぁ、前向きの席だから覗き込まれなければバレないのだが、元気活発なやつが多いせいでいつバレるか心配なのだ。
まぁ、そんな心配する暇もなく爆睡しちゃったんだけどね。
「ふぁぁぁ〜。」
盛大なあくびをして僕たちは電車から降りる。そうして周りの景色を見る。
「おぉ。」
思わず声が漏れた。3時間かけて来た場所なので、見たことのない綺麗な景色が並んでいた。いつもいた場所とは違う街並みに、目を奪われた。
「なんか、感動してるのだけれど…」
汐恩がそんな声を漏らした。
「そうだなぁ。僕も旅行とかしたことなかったから感動してるなぁ。」
改札を通り、駅を出る。そして歩き出そうとした時、有栖川僕に声をかけた。
「先輩。」
「なんだよ。」
なんか小動物みたいな顔をしていたので何を言われるのか身構える。すると
「手繋いでくれませんか?」
「………へ?」
「だから、手を繋いでくれませんか?」
僕は考えた。手を繋ぎたい。僕の本心はそうだ。だって僕は有栖に惚れてしまってるから。それに、恋人だと認めた人としか手は繋がないとこの間言ったのだ。だから僕は迷った。手を繋いでも良いのかどうか。繋いでしまったら恋人のようになってしまうのだろうか。そうなってしまうのなら、僕は手を繋げない。そうして僕が長考していると、有栖がクスリと笑った。
「そんな考えなくても良いですよ。恋人とか関係なくただ手を繋ぎたいだけですから。」
それなら、ただ手を繋ぎたいだけなのなら良いのだろうか。
結局欲望に負けて、僕は手を握り返した。柔らかいと思った。
僕たちを汐恩が恨めしそうな目で見ているが、真夏と音羽はなんか子供を見るような目で見てきた。なんだあの視線むず痒い。
そうして僕たちは歩いたりバスに乗ったりして、第一の目的地やって来た。そこは湖だった。ガイドブックによれば、船に乗れるらしい。だから僕はここが楽しみだった。船に乗るという経験をしたことがなかったから。
「先輩ウキウキしてるのが丸わかりですよ。」
有栖は全てお見通しらしい。顔にでも出てただろうか。まぁ、そんなのどうでも良い!僕は船に乗りたいのだ!
そうして僕は気がつけば早足になっていて、他の奴らを連れ回すのだった。
「うおおぉ…」
船に乗り、風を感じた僕は声を漏らす。なんだこの爽快感。冷えた風が吹き荒れ、僕たちを冷やしていく。が、僕に取ってその風は気持ちよかった。あまり寒いと感じなくなっていたというのもあるが、気がつけば僕は寒いのが平気になっていたからだろう。まぁ、今年の冬に色々嬉しいこととかあったからな。
ドタドタと足音が後ろから聞こえ、振り向くと、真夏が急いでトイレへ駆け込んでいた。
「あいつ…ここで船酔いかよ…」
いつものことだが真夏には呆れてしまった。
「何してんのよあいつ。」
ニヤニヤしながらグロッキーな真夏を見ていた汐恩。こいつは真夏に恨みでもあるのだろうか。
「兄さん。」
音羽が後ろから話しかけてくる。その顔は嬉しそうな笑みを浮かべていた。釣られて僕も笑った。
「楽しい?」
それは端的な質問だった。だが、僕に取っては大切にしたい質問だったのだ。だって僕はもうすぐ限界だから。だから僕は自信満々に頷いて
「当たり前だ!」
と元気よく返すのだった。
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