はちゃめちゃお泊まり会
「明日は温泉旅行だァァァァ!!」
僕の狭い部屋に真夏のデカすぎる声が響く。
「うるせぇぞ。」
「うるさいです。」
「うるさいわね。」
ひどい言われようである。僕だったら絶対にショックを受けている。
「す、すみません…」
真夏はひどく萎縮していた。それもそうだろう。温泉旅行が明日なのだ。テンションが上がるのは当然で、それを体現しただけなのだ。なのにこんなに怒られる。
「不条理だ…」
真夏がボソッと呟いた言葉を僕は聞き逃さなかった。
なんやかんやで、色々と予定が積み重なって、温泉旅行に行くのは一ヶ月後になってしまっていた。そして、今日は前日。明日は待ちに待った温泉旅行なのだ。そして、前日の今日は、僕の家でお泊まり会をすることになった。正直に言うと、僕だって真夏みたいにはっちゃけたい。だって楽しみなんだもん。でも僕も騒いだら真夏みたいになるだろう。そんなのは嫌だ!
しばらくして、暇だと言うこともあり、the partyというテレビゲームをすることになった。どういうゲームかというと、人生ゲームみたいなものだ。サイコロを振ってその目の数だけ動いて、マス目に書いてあることを実行する。だが、このゲームの怖いところは、ゲーム内で実行するのではなく、現実で実行しなければならないところ。
マス目に書く内容は、事前に一人10個から15個くらい決めるのだ。ゆえに、前の王様ゲームのような過激なことが書かれる可能性も高いのだ。
周りを見ると、僕以外意気揚々にマス目に書く内容を決めていた。僕はどのようなことを書こうか。かなり迷った。結局過激すぎることは書かずに、王道なものを書いた。
「クク。クフフフ。」
左ら辺から汐恩のやばい笑い声が聞こえてきたが、無視しても平気だろうか。少しだけ恐怖を感じた。
「よし、始めよう!」
真夏の掛け声で、僕たちはスタートボタンを押す。
「僕からサイコロするのか。」
このゲームにおいて先行はプレッシャーがすごいのだ。なんでかというと、最初にマスに書かれた命令を実行しなければならないからである。
「……………お。」
サイコロの目は3だった。だから、僕の操作しているキャラは3マス進む。そこに書かれていた命令は
『汐恩に対して膝枕をする。』
刹那
「やったぁぁぁ!!」
と汐恩の勝利の咆哮が聞こえた。
「えぇ…まじかよ…」
初っ端から汐恩の命令に当たるとか結構ついてない。まぁ、膝枕するだけで良いのならマシな方だろう。
「ほら、早く来いよ。」
僕が急かすと意気揚々に僕の正座した足に頭を下ろす汐恩。少しは遠慮という言葉を知らないのだろうか。
「そんじゃ次の人。」
真夏の掛け声で、次の順番である有栖がサイコロを振った。
「6……ですか。」
「すげぇ進むじゃん。」
初っ端から6を引く有栖に驚きながら、僕は画面を見た。そこにら
『今から全員分飲み物を買ってこい』
と書かれていた。あぁ。見なくても有栖の絶望した表情がわかる。だって面倒臭いじゃんこんな夜に買いに行くの。しかも女子高生だぞ。………て、誘拐とか絶対に起こらないんだったこの世界。
「い、行ってきますねー。」
とうとう言葉が棒読みになる有栖。僕から言える言葉はだった一つ。ご愁傷様。
「そんじゃ次俺な。」
そうして真夏はサイコロを振る。でためは1だった。その瞬間、この場にいる全員が息を呑む音が聞こえた。そして、全員が震撼する。だって、一個進んだ先に書いてある命令は
『パンツ一丁になって家の周りをランニング』
だったのだから。
「ひぇっ…」
命令を受けた本人でもないのに僕の口からは畏怖の声が漏れた。誰がこんな命令、と思ったが、一人しか思いつかなかった。それは今この場にはいない有栖という女。絶対ニコニコしてるって今。
恐る恐る真夏の方を見てみる。
「今。冬。寒い。ここ。理想。世界。」
単語しか言えなくなってた。
「ど、ドンマイ…」
僕はとりあえず声をかけておいた。なんというか、不憫なやつである。
そうして真夏はパンツ一丁になって外に出て行った。
「つ、続きやる…か?」
「そ、そうしましょうかね…」
僕たちは萎縮していた。これ、女がこの命令に当たったらどうするつもりだったんだよ…有栖…
僕は有栖がこの命令を出したということがいまだに信じれなかったのだった。
「次私ね。」
汐恩はそう言いサイコロを振った。でた目は3。
『汐恩に対して膝枕をする。』
「おもんな。」
汐恩は一言そう呟き
「次秀でしょ。やりなさいよ。」
と言った。うん。確かにおもんなかった。
「よし、良い命令引いてくれよ〜。」
僕はそう頼み、サイコロを振る。出た目は4だった。そして、4マス進む。そこに書いてあったのは
『このゲームが終わるまで語尾にニャンをつける』
「ええぇ!?僕嫌だよこれ!てか絶対真夏だろこれ!ふざけんなあいつ!凍死しちまえ!」
これでもかというほど僕は騒ぎ立てる。
「ニャンがついてないわよ?」
汐恩が痛いところを指摘してきた。
「うぐっ………」
そうして僕は終わりの見えないこのゲームが終わるで、語尾にニャンをつけるという生き地獄が決定したのであった。
先が進まないので、僕たちは有栖と真夏が帰ってくるのを待っていた。したからドタドタとした足音が聞こえ始め、誰が帰ってきたのかと思ったら
「うるさいよ兄さん!夜なんだから静かにして!」
という音羽からの苦情だった。
「申し訳ありません……ニャン。」
音羽はゲームに参加してない。つまり、僕が語尾にニャンをつけている意味を知らないのだ。ゆえに、今僕は音羽から軽蔑した視線を向けられている。
「兄さん…そういうのが趣味だったの?」
「断じて違う!……ニャン…」
「ぶっ」
隣で汐恩が噴き出す。
「クソが…ニャン……後で覚えておけよ…ニャン。」
軽蔑が最高潮に達したのか、音羽は下の降りていった。そして、真夏も有栖が帰ってきていた。予想通り真夏は死にかけの顔で。有栖はこれでもかというほどにニコニコしていた。女の人怖い。
そうして有栖がサイコロを振る番になる。出た目は5だった。そして、有栖のキャラが5マス進んで書いてあった内容は
『今から水風呂。』
「いやです!無効ですこんなもの!」
「いや、それはできないぞ。」
真夏が否定する。
「何故ですか!」
有栖は真っ向から勝負を仕掛けた。
「このソフトのパッケージの裏に命令の取り消しはなしだと書いてあるからだっ!」
そう言われた有栖はニコニコした顔からゲンナリした顔になって風呂の方に向かっていった。しばらくして、かなり離れた位置なのに悲鳴が聞こえてきたのは言うまでもないだろう。
「ふふ。してやったり。」
真夏は真夏で仕返しをできたことに満足しているようだった。そして
「次俺。」
そう言い真夏はサイコロを投げる。そして、一が出た。真夏のキャラが1マス進み、書いてあった内容は
『汐恩の頬にキス』
「………は?」
「………え?」
僕と真夏の声が同時に発された。いや、だってこんな過激な命令普通は書かなくない?いや、しかも名指しだし。てか汐恩さん狙ってる人外してますよ〜。
「なっ!?なんでこの無神経図太男なのよ!!そこは秀が引くべきでしょ!!」
「知るか!てかそんな運ゲーみたいなことするお前が悪いだろ!俺に責任を押し付けるんじゃない!」
汐恩は自分のせいなのに逆ギレをする。いや、キレるなよお前が悪いからな。まぁ、そんなことを言ったらまたキレられるので言わないのだけど。
「チッ……は、早くやって終わらせてちょうだい…」
「そ、そうだな……文句言うなよ?」
「言わないから早く終わらせてって言ってるでしょうが!」
「ウルセェ!良いからじっとしてろ!」
こう言う照れてしまってなかなか進まないところを見ると、前に有栖がキスした時を思い出して、こいつらは男気がねぇなぁと思ってしまう。まぁ、僕もヘタレだからそんなことできないけど。
「まだおわんないのー?」
まだ照れてしまって終わらない真夏を急かす。
「わぁったよ!やれば良いんだろやれば!」
覚悟を決めたのか、真夏は一度深く息を吸って吐いて。そして勢いよく頬にキスをした。
「下手くそっ!」
直後、汐恩がそう叫び、真夏の頬に平手打ちをした。
「アバガァっ!?」
真夏は反動でひっくり返り、地響きを起こしたのだった。そうしてまたドタドタと足音が聞こえてきて
「うるさいって言ってるでしょぉガァ!?」
敬語が外れているブチギレ音羽が乱入してきた。そして、よく見ればぶっ倒れてた有栖を抱えていた。
「有栖倒れたのか。こりゃ、真夏のせいだな。」
「そうね。全ては真夏のせいよ。キス下手くそだし。」
その瞬間、全てのヘイトは真夏に向かう。
「え?………え?……俺?なんで?」
状況がよくわかっていない真夏。ここで馬鹿が出たな。
「おい真夏。」
敬語が外れている音羽に、完璧に萎縮する真夏。
「ひゃ、ひゃい…なんでしょーか?」
そうして音羽は耳元まで近づいて
「騒ぐなら準備してから騒げや。」
低い重低音の声でそう言うのだった。
「申し訳ありません。手伝わせていただきます。いや、手伝わせてください。」
形成逆転。いつもの逆の立場だ。しんせんである。
「そこまで言うなら仕方ないですねぇ。手伝ってもらいますね!」
そこで僕は音羽に対して一つの感想を抱いた。
「プレイガールだな。」
「なんか言った兄さん?」
「なんでもない。」
そうしてゲームは中断され、有栖を蘇生した後に、サボっていて音羽に任せっきりだった明日の旅行の準備を始めるのだった。
「なぁ、明日ってどこ行くの?」
突然そんなことを聞いてくる真夏に、僕ら含む四人は呆れる。
「おまえ、本当に楽しみにしてんのか?」
すると真夏は得意がな顔になって
「当たり前だ!お前らの中では1番楽しみにしてる自信があるぞ!多分。」
「多分をつけるな多分を。」
正直やばいと思った。だってこれ、修学旅行前日に行き先がどこかわからないのと一緒だぞ?
「そういえば音羽どこいるの?」
さっきまでここにいたのだが、気が付けば消えていた。すると気配なく真夏の後ろから顔を出した。
「あなたたちが手伝わないから準備をしてたんですよぉぉ。」
「うおわっ!!」
真夏が跳ねる。音羽はまるで幽霊のようだ。
そんなこんなで、最後は全員で準備をして適当に過ごして、寝た。
そうして僕たちの楽しみにしていた旅行が幕を開けるのだった。
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