僕の決意 3
僕は次の日、みんなを病室に呼び出していた。
「悪性腫瘍って……余命1ヶ月って……本当なのか?」
僕が夢の世界だということを自覚していることを知らない真夏や汐恩は慌てている。そりゃそうだ。この世界は、本来なら悲劇は起こらないはずだから。こういう予想外なことは起こらないはずだから。にも関わらず、僕の脳には悪性腫瘍ができてしまった。それはなぜか、現実の僕の脳にも異常があるから。
「本当だ……あと、別のことを伝えたかったんだ。」
「別の……こと?」
僕が言うと、汐恩と真夏はキョトンとした顔をする。
「僕、気づいたんだ。」
二人は小首を傾げた。まぁ、この一言だけじゃ伝わりづらいのもわかっている。だから僕は詳しく話した。
「ここが僕の理想の世界だってことに気づいたんだ。」
僕がそう言うと、二人とも分かりやすく動揺した。
「な、なんで気づいたんだ?てか、気づいたらどうするんだ?」
慌てて質問を捲し立てる真夏に、僕は苦笑する。
「待て落ち着け。別にどうってことねぇよ。ただ、一ヶ月で現実の僕の体が限界なのは知ってるだろ?だからこっちでも余命1ヶ月って言われたんだよ。」
すると今度は汐恩が話し始めた。
「じゃ、じゃあ現実でもこっちでも1ヶ月したら、秀は本当にいなくなっちゃうの?」
「まぁ、そう言うことだろうなぁ。」
僕は天井を見ながら呟く。あと1ヶ月の命。どう使おうか。まぁ、ほとんど決めているのだが、こいつらの協力が必要なのだ。だから僕は頼み事をする。
「なぁ、僕からみんなに頼み事があるんだ。」
「頼み事…ですか?」
有栖が反応する。それに僕は肯定の首肯をする。
「あぁ。これは僕の最後のお願いなんだが、聞いてくれるから?」
すると、満場一致で全員が頷いた。心の底からこいつらの優しさに感謝して、頼みを告げた。
「一ヶ月間、余命のことについては触れないでくれないか?」
「…………え?」
みんな素っ頓狂な声を上げた。
「それって、兄さんが死んじゃう時までってこと?」
「ま、そういうことだ。これから一ヶ月、僕は幸せになるって決めたから。だからそう言うマイナスなことは考えたくないんだよ。ここは僕の理想の世界なんだろ?」
そうして僕はニッと笑い
「だったらお願いくらい聞いてくれるよな?」
すると全員が苦笑した。
「わがままだなお前。」
「そりゃどうも。僕はわがままだからな。」
そうしてみんなが僕の頼み事を聞いてくれることになった。そして、今度は有栖が声を上げた。
「秀先輩が温泉旅行に行こうって言ってたんですけど良いですか?」
有栖のその問いに、全員が笑顔で頷く。
「温泉旅行……秀と旅行……ぐへへ。」
あかんやつが一人この場にいる気がするのだが、気のせいだろう。
「日時はどうすんだ?有栖ちゃん。」
「そうですねぇ。みんなの都合が合う日が良いので、皆さんの日程を教えてください!」
そこで僕は気づく。現実では僕が脳死になったせいで、真夏とみんなの仲は険悪だった。が、今ではそうでもないように感じる。まぁ、ここにいる奴らは優しいし、結局許したのだろう。
「理想の世界なのに予定があるやつなんていると思うか?」
真夏が言う。が、音羽が否定した。
「ここは夢とは言え、限りなく現実世界に近いようになってるから、学校生活とかで予定ができる日とかもあるんですよ。だから予定はしっかり確認したほうがいいですよ?」
「そ、そうなのか…」
確かに音羽の言う通りだ。夢の世界とは言え、僕たちの記憶から完璧に再現されているこの世界。ゆえに、学校行事とかクラスメイトとかも完璧に再現されている。ゆえにちょっとした用事ができたりするだろう。病院にいる医師も患者も完璧に再現されてるし。
「すげぇなこの世界。」
思わず呟く。
「まぁ、父さんの機械だから。これくらい余裕なんじゃない?」
「まぁ、そうなのかもなぁ。でも最後くらい本物の父さんに会いたかったなぁ。」
正直、このまま限界を迎えたとして、未練があるとすれば本物の父さんと話せないことだろう。ちなみに母はと言うと、現実では物心ついた時辺りに病死している。ゆえに父さんとの記憶しかほぼ残っていない。
「父さん叫んでたもんな。僕のこと見て。」
それに音羽も少しだけ笑う。でも安心した。父さんは色々や機械を作って他国に紹介したりしていて忙しかったから、かなり距離があった。もしかするとそこまで愛されていないのではないかとまで思ったこともあった。だが、現実を見てそんな考えは変わった。あそこで泣いてくれたことや、この世界を作ってくれたことに心の底から感謝している。
それから少しだけ話して、僕は退院することになった。頭痛はある薬を飲めばほぼ収まるとのことだった。これも理想の世界ゆえか、わからないが、結果オーライというものだろう。
僕たちはとりあえず家に帰り、明日からまた学校なので支度をすることにした。
僕はベランダに来ていた。そして夜空を見上げる。あの時の病院の屋上にいた時とは違って見える景色。あの空に浮かぶ自由や希望は掴めない。が、願うことはできるのだ。この先一ヶ月で、幸せになれますようにと。すると、キラリと何かが瞬き、空を流れていった。
「流星…か。」
そして、その数は増していき、流星群になった。だから僕は願った。僕自身が、そして、僕の大切なあいつらが幸せになれますようにと。
願い終わって僕は、父さんへのお礼を述べることにした。
「父さん。ありがとう。父さんがこの機械を作ってくれなかったら、僕はあのまま死んでいたかもしれない。てか死んでた。だから感謝してるし、幸せになるから。だから、見てるならで良いから見守ってて。」
それだけ伝え、僕は家に入るのだった。伝わってると良いなと思いながら。
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