終章
考え事
冬休みが終わり、新学期が始まっていた。夢の世界といえど、クオリティーが高すぎて、毎回驚くのだ。正直現実とその世界を同時に見せられてどっちが本物かと聞かれてもわからない。それくらいクオリティーが高い。
そして、普通の高校生である僕たちには学年末テストが待ち受けていた。
「あぁもう難しい!!」
僕の部屋で真夏が叫ぶ。今はテストに向けて勉強会を開いているのである。夢なら問題ないと思うかもしれない。でも、僕は普通の生活が送りたかった。現実では普通の生活は送れないから。
今日はテスト前日。色々とあって勉強する機会が設けられず、みんなが苦戦している。
「そんなに難しいかしら。頭弱いわねぇ。」
「煽るな煽るな。」
汐恩は煽り出したらヒートアップするし、真夏は煽られたら耐性がないゆえにキレる。だから僕は止めた。
「そういうお前は望めば簡単に問題解けるんだからずるいよなぁ。」
「そ、そうかぁ?別に僕はそんな理想思ってないから普通にわからないところ結構あるぞ?」
「だったらその丸の数はなんだ?」
真夏が指差すのは、僕が解いている学校のワーク。対して勉強してないのにも関わらず、ほぼ全ての問題を解けていた。
「う、う〜む。わからんな。そんな思ってないんだけどなぁ。」
ひょっとして少しでも望んだことがあれば実現してしまうのではないかと思った。だから僕は少しありえないことを想像してみた。この家の駐車場にジープが欲しいと、理想を心の中で唱えた。結果は無理だった。理想ってどんな感じなんだろう。全くもってわからない。
「ひょっとして、前までに望んだことのある理想が叶うんじゃない?」
音羽にそう言われて、僕は少しピンと来た。
「そうかもしれない。確かに勉強しなくても問題が解けるようになりたいって願ったことあったかもしれん。」
「秀は仕方がないから許してあげるわよ。真夏。あんたがそれを望むのは100年早いわ!」
ドヤっとした顔で真夏に言う汐恩。
「なんで秀はよくて俺はダメなんだ……わからん…」
そうしてワークと睨めっこを始める真夏。周りを見てみると、汐恩は真面目に勉強している。そして音羽は爆睡している。勉強しろよな。そして有栖は黙々とノートにペンを走らせている。偉い!良い子!流石は有栖!心の中でベタ褒めした。声出して褒めたら恥ずかしいからな。
そうして僕たちは今日の夜から夜中にかけて泊りがけでテスト勉強をするのだった。一夜漬けって結構頭に入るよね。ちなむと前までは僕も一夜漬けタイプでした。
「始め!」
先生のその合図で、クラスの全員が慌ただしく解答用紙を裏から表にして、名前の記入を始める。それに従い僕も同じことをする。
名前記入し終え、問題を見ると、あら不思議。とっても簡単です。僕は謎の勝った気分を感じ、ニコニコでテストを受け、最後の日までそのニコニコは続くのだった。
「秀4日間もニコニコしてたけど良いことあったの?」
汐恩が僕の表情を不思議に思ったのか、聞いてきた。
「あぁ。テストが思ったより簡単でな。めっちゃ良い出来だったんだよ。」
「良かったじゃない。私は難しかったけどねぇ。」
クラスみんなの顔を伺うと、確かに今回のテストは難しかったようだ。真夏は白目を剥いて口をポカーンと開けていた。あれは爆死した証拠である。
「まぁ、結局僕の力じゃないんだがな。」
すると汐恩は少しだけ微笑みながら
「それでも良いじゃない。ここはあなたの世界なんだから。」
「……まぁ、そういうもんか。」
深く考えすぎなのかも知れない。僕の悪い癖である。あの日、あまり考えないように決意したが、結局は考えてしまう。この癖どうにかならないかと思っているのだが、解決策はないのだろうか。
「ほら、また考えてるわよ。」
「……あ。」
汐恩に言われて気がつく。
「これどうにかならないかな。」
少なくとも僕には解決できそうにないことなので、僕は汐恩に助けを求めたが、
「私に言われてもわからないわよ…」
と言われてしまった。まぁ、音羽に聞けばわかるか、と勝手に結論づけ、僕は帰路を辿るために学校を後にするのだった。
正門までくると、有栖がいつぞやのように待ち伏せていた。有栖の方を見ると、目が合い、微笑んでくれた。
「テストどうだった?」
すると有栖はにぱぁっとした笑みを浮かべて
「過去1の出来でした!」
と告げた。
「すげぇな。過去一勉強する時間なかっただろうに。」
本当に色々あった。僕が事故にあったり、夢の世界に来たり、僕が夢の世界に気づいたり、デートしたり。現実にいたままでは間違いなく経験できなかったことである。そうやって僕がまた感傷に浸っていると
「先輩また考えてますよ。」
と有栖に呼ばれる。今日だけで3回目である。
「いやでも考えてたんじゃなくて思い出してたんだよ。色々あったなって。」
すると有栖も色々と思い出したらしく、今度は有栖が感傷に浸っていた。
「まぁ、今になっては良い思い出だよ。しかも、今度旅行行くからな。それも思い出にするために楽しみにしておかなきゃ。」
「ふふ。そうですね。」
僕たちはお互い笑い合った。そうして帰路を辿り、家の前で別れた。
ちなみに、テストは全教科90点を超えていました。これが理想の力。理想、恐るべし。と、僕はそう思ってしまった。
それから、余命の日は着々と近づいてきているが、なんやかんやで毎日が楽しいと感じる日々が続いていた。
いやはや、温泉旅行が楽しみである。
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