頭痛の正体

 僕は少し前までのことを思い出そうと頭を使う。が、思い出せない。みんなと王様ゲームをして、初詣に行ったところまでは覚えてる。だが、その先が思い出せない。一体僕に何があったのか。少しの不安に駆られる。


 僕が色々と考えていると、病室のドアが開いた。音羽が戻ってきたのかと思ったが、そこには背の高いヒョロヒョロのメガネをかけた医師がいた。


「柳沢秀さんですか?」


 その医師の問いに、僕は首肯する。


「え、えぇ。そうですけど…」


 何やら少しだけ青ざめた顔にしている医師に、不安を覚えた。


「柳沢さん。あなたの頭痛の原因がわかりました。」


 その言葉は、今の一瞬だけは希望のように感じた。だが、それは一瞬にして絶望に変わった。


「本当ですか!?」


 僕の驚きに冷静に頷く医師。


「えぇ。ただ、覚悟はできていますか?」


 なぜそのようなことを聞くのだろうかと疑問に思った。何が重症な病気でも抱えているのだろうかと心配になってしまう。ただ、覚悟ができなければ原因を聞けないのだとしたら、覚悟ができていると言うしかないのだ。だから僕は言った。


「できてます。だから、教えてください。」


 すると医師は深呼吸を一回した。そして


「あなたの激しい頭痛の原因は」


 そうして一拍をおいて、その医師は告げた。


「悪性腫瘍です。」


 その言葉の意味が理解できず、僕は聞き返す。


「あくせい…しゅよう?」


「えぇ。悪性の腫瘍です。」


 目の前が暗くなった。動悸が激しくなってくる。だが、希望を捨てるのにはまだ早い。だから僕は聞いた。


「先生。治療はできるんですよね?」


 その僕の問いに先生は少しだけ逡巡して、首を横に振った。


「残念ながら、現代の医療技術では難しいです。」


「………え…」


 か細い声が喉の奥から出た。現代の医療技術では難しい。それは、治療することすらできないとそう言うことなのだろうか。


「今回の腫瘍は影に隠れてしまっていて、見つけるのも一苦労でした。そんな難しい場所にある腫瘍を取り除くには、もう少しだけ技術が進歩しなければなりません。ここまで進行しなければ治せてたかもしれません。申し訳ない。」


 医師は頭を下げた。だが、そんなことを気にしている余裕はなかった。パニックに陥る。だから、一回深呼吸をして落ち着かせる。まだ死ぬと限った話じゃない。僕は奇跡を起こしてきたんだ。まだ死にはしないだろう。そう思った。いや、そう思っていた。次の医師の言葉を聞くまでは。


「これを放置してしまうと、余命は残り1ヶ月ほどになります。」


 瞬間、目の前が真っ暗になる。動悸が激しくなり、うまく呼吸ができなくなった。


「はぁ…はぁ…」


 過呼吸なり、苦しくなる。


「さん………さわさん!……柳沢さん!」


 先生の呼ぶ声がする。だが、それも聞こえづらくなっていく。そうして僕は酸欠に陥り、意識を失った。


 それからしばらく僕が目覚めない日々が続くのであった。




 これにて序章お終いです。

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