緊急事態

「もう外出たくない…」


 初詣が終わって家に帰ってきた僕は、あの時の恥ずかしさと寒さを思い出しながらこたつに浸かっていた。時刻は午後5時。


「面白かったからもう一回やってよ兄さん。」


「無理に決まってんだろ……同じ学校のやつに見られたし…」


 僕の心はメンタル崩壊寸前である。仕方がないだろう。あんな命令されたの初めてだし予測もしてなかったんだから。


 言い忘れていたが、音羽以外の全員は帰った。なので、今は僕と音羽だけである。


「まぁ、日頃から私に頼りまくってる罰だと思いたまえよ。」


「クソが…」


 吐き捨てるように、僕は言う。これで僕は学び、決意した。今後二度と王様ゲームはやらないと。それに、音羽は危険人物だと言うことも理解した。キスだとかハグだとか、そう言った面で過激というわけではなく、違う意味の過激な命令を出してくる。社会的に死ぬタイプのね。


「まぁ、終わったし何人かは笑ってくれたんだから良いじゃん?」


 音羽はそう言ってくるが、僕の心にはあの時の惨劇がこびりついている。


「僕の人生は終わりだ…うっうっう…」


「何もなくことじゃないでしょ…」


 泣くつもりはなかったのだが…あれ、目から雫が。


「まぁ、私も悪かったよ…ごめん。兄さん。」


「そんじゃあ今日の夜ご飯はオムライスにしてくれ。」


「そ、そんなんで許してくれるんだ…」


 そこで気がつく。やっぱり僕は食い意地張ってるかもしれない。


 そうして音羽はオムライスを作るためにキッチンに行った。僕はやることもないのでテレビをつけた。


『余命わずかな少女の病気が奇跡的に完治しました。』


『行方不明だった9歳の女の子が無事救出されました。』


 それらのニュースを見てやはり思うのだ。


「やっぱりなんかおかしいよなぁ。」


 物騒な事件が一つもない。だからこそ違和感を感じてしまう。それも、今まで感じてきた全てが理想的に進むような違和感と似た感じの。


 考えすぎかもしれないが、この世界は何かがおかしいかもしれない。


 頭を使って少しだけ疲れた僕は、風呂に入ることにした。風呂に入る直前、頭痛を感じた。だが、いつもほどではなかった。ゆえに無視してシャワーを浴びた。


 シャンプーをして顔を洗って体を洗う。その工程を一通り行い、風呂に浸かる。


「はふぅ〜。」


 やはり風呂というのは良いものだ。体はあったまるし、頭痛が軽くなる。やっぱり血行とか関係してそうだし後遺症じゃない気がする。まぁ、考えてもわからないから考えないんだけど。


「……上がるか。」


 少しのぼせかけた僕は、風呂から上がるために立ち上がる。途端、尋常じゃないほどの頭痛が押し寄せてきた。


「うっ!………」


 強く呻き、僕は思わずしゃがみ込む。頭を金槌で殴られているような感覚が走る。意識を失いそうだった。だが、僕は今裸だ。ゆえになんとかして服を着る。


 とりあえず服を着てリビングに行こうとして、ドアを開けた瞬間、ぐらりと視界が歪んだ。そして、地面が僕向かって迫ってきていた。いや、僕が地面に倒れているのだ。頭痛はさらに痛みを増し、段々と僕の意識は途切れ始めるのだった。


 最後に音羽が僕に駆けつけて名前を呼ぶ声がしたが、それに反応することはできなかった。






「……………ん。」


 目を覚ます。そして、天井が視界に写る。そこは知らない天井だった。……いや、詳しく言えば知ってる。ここは、事故にあった直後に入院していた病院の天井だ。


「兄さん!」


 隣で僕を呼ぶ声がして、僕は右を向いた。そこには音羽が切迫した表情をして座っていた。


「僕は…なんでここにいるんだ?」


 少し前が思い出せない。まるで靄がかかったかのように。


「兄さん、洗面所で倒れてたんだよ?」


 少し考え込む。が、わからなかった。


「………そうなのか。…悪い。思い出せない。」


 そうして僕は音羽の方を向くと、音羽はなぜか呆然としていて、何やらぶつぶつと言っていた。


「なんでこんなことに……ここではあり得ないはず……なんで…こんなこと起らないはずなのに…」


 よくわからないことを言っている音羽を、僕は呼んだ。


「おい、何1人でぶつくさ言ってんだよ。」


 すると音羽は我に帰ったような顔になった。


「ご、ごめん…ちょっと席外すね。」


 そうして音羽は病室から出て行った。何が何だかわからない僕は、呆然としながら、1人病室に取り残されるのだった。

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