24日
今日は、冬休みにも入った直後の12月24日。世界のみんなは全員口を揃えて言うだろう。今日はクリスマスイブであると。それは僕とて例外ではない。毎年毎年楽しみにしていたのだ。クリぼっちなのに何を楽しみにするかって?夜ご飯の後に出るケーキだよ。他の家庭ではわからないが、僕の家では24日の夜はケーキが出る。まぁ、今年は親が海外出張でいないから僕の実費だが。
「兄さん今日デートだっけ?」
朝、リビングでのんびり頬杖をついていると、音羽に話しかけられる。
「そそ。待ちに待ったクリスマスデートだ。」
僕の様子を見て、音羽は呆れた感じの笑みを浮かべている。だが、よく見ると微笑んでいる。
「……な、なんだよ…」
僕のことをじっと見つめてくるので、思わず聞き返す。
「いや?幸せそうだなって。」
「いや、そりゃ幸せだけど。」
本当になんなのだろう。僕の幸せに幸せを感じてるとか言うのだろうか。まぁ、家族なのだから当たり前なんだけどね。
今日でクリぼっちを卒業できる。そう考えると心が躍る。
「……ウヘ。」
「きもいよ兄さん。」
おっと。思わず心の声が口に出ていて笑ってしまっていた。デート中は気をつけなければ。
そんなことを考えていると、気がつけば午前8時半になっていた。集合時間は9時なので、今から家を出なければ間に合わないだろう。
僕は急いで着替えて歯を磨いて玄関に行く。
「楽しんできてねー!」
音羽が玄関で元気に見送りをしてくれおかげか、いつもより元気がある気がする。
「おう。楽しんでくる。」
手をひらひら振りながら、僕は家を出て集合場所である駅前の広場に直行するのだった。
集合場所に到着すると、有栖はもう来ていた。あれ、こういうのって男が先に来るんじゃなかったんだっけ。
「あ!秀先輩!おはようございます!」
にぱぁぁっと輝かしい顔をしながら僕に話しかける有栖。その姿を見て笑みが浮かんだ。
「ういっす。」
なんだかデートだと考えると少しだけ緊張してしまって端的にそう返すことしかできなかった。視線も逸らしちゃったし。
「行きましょっか!」
そう言われたので、僕は頷く。すると、有栖はこれが当たり前だと言わんばかりの顔で手を差し出して来た。
「これは?」
意味がわからずに僕は聞く。この手をどうしろというのだろう。まさか…な。
「デートなのに握ってくれないんですか?」
やっぱりな。僕の予想は間違っちゃいなかった。
「…僕たちはまだ恋人じゃないんだ。こういうのはあんまりやらない方が良い気がするんだが。」
「じゃあ、今日だけ恋人になりましょう!」
僕は思考が停止したのを感じた。…いや、もし僕以外にもこういう状況に立たされたら間違いなく思考が停止するだろう。
「…………は?」
口からは素っ頓狂な声が出る。
「ごめん。どういうこと?」
僕はもう一度聞き返す。すると有栖は少しだけむすっとした表情になった。
「だからぁ!恋人じゃなきゃ手を繋げないなら今日だけで良いので恋人になりましょうって言ってるんですっ!!」
「………ふむ。」
恋人になる。それは付き合うというのと同じだろうか。もしそれを僕が肯定したら、今日だけとは言え僕らはカップルになるのだろうか。
「………ダメじゃね?」
僕が長考の末に導き出した答えはNO。流石に僕自身、有栖が恋愛的に好きかと聞かれたら好きではない。僕は本当の恋人になってから手を繋ぎたいのだ。
「なんでですかぁ!」
有栖は意味がわからないといった表情で僕に訴えかけてくる。
「いや、僕は本当の恋人になってから、そういうことはしたいんだ。」
「それ、間接的に私のこと振ってますよね。」
「うぐ…」
気がつかなかった。しっかりと考えるべきだった。傷ついてるだろうなと思い、ちらりと有栖の方を見る。すると、意外というべきか、表情は変わっていなかった。
「ま、秀先輩がそう言うのなら良いですよ。今はまだ好きじゃないならこの後振り向かせれば良いんです。」
自信満々にそう言う有栖に僕は苦笑を隠し切れなかった。
「そんじゃ、行くか。」
僕の言葉に首肯する有栖を見て、僕たちは歩き出した。
横を歩く有栖を見ると、ふわりと風にたなびく金髪に、似合っている服装。そして、整っている顔立ち。それを思い出した途端、ドキッとしてしまって顔が熱くなったのは秘密である。
「ふぁぁぁ〜。」
僕は電車内で大きな欠伸をする。
「眠いんですか?」
有栖が小首を傾げながら聞いてきた。
「まぁ、少し。」
すると、有栖はわざとらしく膝をポンポンと叩いて僕の方を見つめて来た。
「…………なんだよ。」
「寝たかったら膝枕してあげても良いですよ?」
「……なら寝ない。」
「な、なんでですか?」
言えるわけがない。ただでさえ可愛い有栖。横にいるだけで少しドキドキしてしまうのに、膝枕なんてされてしまったら意識せざるおえなくなる。そんなこと言えるわけがない。
「……さぁな。」
そうして僕は頑張って睡魔に耐えようとしたのだが、睡魔というのは三代欲求の一つ。耐えようと思って耐えれるものではないのだ。
「先輩もしかすると今日が楽しみすぎて寝れなかったんですかぁ〜?」
ニヤニヤしながら聞いてくる有栖。
「ち、違うし。別の理由があっただけだし…」
図星だ。こいつはなんなのだろう。心でも読めるのか?
「……っと…」
こくりと首を支える力が一瞬抜ける。ぽんぽんと膝を叩く音が隣から聞こえる。やめろ。やめてくれ。それ以上誘惑しないでくれ。そんな僕の悲痛な願いとは真逆に、耳元で甘い声が囁かれた。
「せぇ〜んぱい。良いですよ?」
瞬間、有栖が僕の頭に手を乗っけて無理やり膝枕の体制にしてきた。僕は抵抗しようとしたが、生憎と睡魔が酷すぎて抵抗する気力すら残っていなかった。
な、なんだこれ…気持ち良すぎるだろ…そう思わずにはいられない。そこら辺の枕なんかよりよっぽど寝心地が良い。ゆえに、睡魔はだんだんとかなりひどくなって来て、僕の意識は堕ちて行くのだった。
今日から僕は膝枕中毒になるかもしれない。
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