デート前日

あれから時は流れるように過ぎ、気がつけば23日になっていた。頭痛は何回か発症したが、日常生活に支障がないくらいだったので助かった。そして明日は24日。そう。有栖とのデート前日である。女性経験がない僕にとっては楽しみでもあり、同時に緊張するものでもある。ゆえに僕はドキドキしていた。今日は終業式のみなので、午後は丸一日空いている。デートのリサーチでもしようか。


 家を出ると、今日は有栖だけだった。


「おはよ。」


 短く挨拶をする。すると有栖は振り返り、天使の如く笑みを浮かべて言葉を返す。


「おはようございます!」


 この時かなりドキドキしたのは秘密である。デート前日だからか、かなり意識してしまっていた。顔赤くなってないかな?心配だ。


「明日デートですね!」


 有栖はワクワクを隠そうともせずに僕に話題を振る。


「あ、あぁ。そうだな。……楽しみだな?」


「なんで疑問系なのかわかりませんが、楽しみですよっ!」


 なんだか僕まで嬉しくなってきて、顔が綻ぶ。


「先輩嬉しそうですね。」


「え?あ〜。そうだな。楽しみだし。」


 すると有栖は僕よりも少し前に出て振り返って微笑んだ。


「ふふ。それは良かったです!」


 僕はその眩しすぎる微笑みを直視できずに視線を逸らした。ここでインキャ発動である。自分を殴りたい。


「なぁ有栖。」


 僕は前々から疑問に思っていたことを口に出した。


「有栖は僕のことが好きって言ってくれたじゃん。」


「?そうですけど。」


「僕のどこが良いと思ったんだ?」


「え、えぇ〜。それ聞きます?」


 有栖は頬を赤らめてもじもじする。天使かな。


「秀先輩は自分の魅力に気づかな過ぎですよ。」


「そ、そう言われてもなぁ。」


 自分のことは自分が1番わからないとも言う。今僕は絶賛ソレ状態である。自分の魅力がわからない。僕のちょっとした悩みでもある。


「ちょっと掘り返しずらいんですけど…秀先輩は、私のことを庇ってくれたじゃないですか。」


 そう言われて僕は思い出した。そういえば僕は有栖を庇って事故に遭ったんだった。


「ハハッ。完全に忘れてたよ。」


「忘れちゃダメですよ!本当に。」


「あの時は体が勝手に動いたから、なんというかな〜、無意識だったからあんまり覚えてないんだよなぁ。」


 僕は苦笑しながら言う。正直、かなり鮮明に覚えていた。だが、有栖は気負うタイプなのだ。ゆえに掘り返した時にまた考え込んでしまう場合がある。だから僕はあまり覚えていない風を装った。


「も〜。ちゃんと覚えててくださいね。でも納得しましたか?先輩は私の命の恩人なんです!惚れて当然です!」


「お前は恥ずかしくないのか?」


「………少しだけ…」


「じゃあ言うなよ…」


「先輩はドキッとしませんでしたか?」


「してるぞ全然。キュン死しそうだ。」


「なんか冷静になれました。」


「なんかごめん。」


 少し冗談を言ったつもりが辺りを寒くしてしまったみたいだった。僕ギャグセン無いんだよなぁ。とそんなことを考えつつ雑談をしていると学校に着く。


「じゃあまた今度。」


 有栖とは学年が違うので僕たちは階段で別れる。そうして僕が教室に着くと、謎の殺気を含んだ視線を察知する。


 ………汐恩からの視線だ。僕は呆れながら汐恩の方に行く。


「あのだな。お前とは明後日デートするんだから良いじゃねぇか。」


「……早いのずるい。」


「ズルはしてねぇ。」


 子供みたいに拗ねている汐恩を見て僕は思う。余計な一言がなければこいつも十分可愛いんだけどなぁ。本当に勿体無い女である。


「……はぁ。」


「なんでため息つくのよ!」


「いや、なんかお前勿体無いよなって思った。」


「勿体無いって何よ!勿体無いって!」


 隣で汐恩がギャーギャー騒ぐ。まぁ、こんなところがこいつの良いところではあるんだけどね。


「うるせーぞ〜。」


 遠くから真夏の声がした。


「むぅ。」


 汐恩は拗ねた。それを見てなぜか親みたいな気持ちになった。母性?父性?わからん。まぁ、そんなことを感じていたとしても一つ言えることは


「こいつには惚れんな。」


「私の目の前でそれ言う!?」


 教室の中に汐恩のでけえ叫び声がこだまするのであった。


 

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