大好きな幼馴染から告白されたくて頑張ってみた
「真琴、大好きです」
最初に倉敷疾風に告白されたのは小学4年の時だった。遠足の途中に立ち寄った公園で。幼馴染の倉敷疾風、一ノ瀬慎太郎、そして私、楠瀬真琴の三人でお弁当を食べ、その後ですっかりとくつろいで油断している最中だった。
鼻の穴の隅っこについたカスを中からは小指、外からは親指で挟み込むようにして取っている最中だった。
「ふぇ?」
「良かったら僕の彼女になって下さい」
TPOをわきまえないのは流石小学生というか、疾風らしい無頓着というか呆れる他なかった。
当然返事は『ノー!』
「まだ恋愛感情とかよくわからない」
とお断りした。
鼻くそをほじってる最中に告白されたとか黒歴史でしかない。私は忘れる事にした。
***
「真琴、大好きです」
二度目に疾風に告白されたのは中学2年の時だった。
放課後、クラスメートが部活へ行ったり、帰宅したりで居なくなった教室で疾風、慎太郎の三人で駄弁っていた時だった。
まさに不意を突かれた。
残暑の残る夕暮れ時、下敷きで胸元を仰ぎ、反対の手でスカートのゴム跡の付いたお腹をポリポリと掻いている時だった。
一体、どこをどう解釈したらこの瞬間が告白のタイミングだと思う奴がいるのだろう?実際に目の前に疾風がいるわけだけど。
固まっている私の横で、失礼にも慎太郎が声を殺して笑い転げている。もはや殺意しか湧かない。
私は気持ちを落ち着かせて疾風に向き直る。
「悪いけど、幼馴染に恋愛感情抱いた事ないの」
そもそも恋愛感情が有ったら目前でお腹を掻いたりしないよね?何かおかしくない?
当然、お腹を掻いてる最中の告白は黒歴史として封印し、私は忘れる事にした。
***
高校に進学してからしばらくして、ふと気がつくと疾風の事を目で追ってる事に気が付いた。
まさかと思ったがやっぱり気がつくと疾風の事を目で追っている。
悔しい事に疾風に惚れてしまったらしい。
本当に悔しい事に、疾風の欠点だと思ってた大雑把で何事にも腹を立てない所が懐深く見えてしまう。
あばたもえくぼと言ってしまえば終わりだが、何をしても大概の事が許される。それは異性としては嬉しい事だった。
そして一番悔しいのは疾風の癖に何もアプローチして来ない事だった。
過去の黒歴史を反省して、いつ如何なる時に告白されてもいいように隙を見せないないように頑張った。本当に頑張った。
疾風の家に遊びに行く時も、以前ならジャージとかジーンズだったのをスカートか短パンに変えた。
少しは意識するかと思ったのに、チラリとも見やがらない。悔しくて言葉遣いも汚くなる。
性欲すら無いの?健全な男子校生だよね?
いつものように暇だからと疾風の部屋に押し掛けて、お互いにゴロゴロする。
当然、チラチラとスカートの裾が見えるように意識してポジション取りをするのだが、疾風は全くこちらを見ない。
そんな雑誌いつでも見えるよね?雑誌見るふりして、太ももとかお尻とかパンツ見るものじゃないの?
普段露骨にこちらに好意振り撒いてる癖に私の勘違いだというの?疾風の癖に!!
プッツンした私は本来なら手を出してはいけない最終手段に出た。
悪友の慎太郎に相談したのだ。
疾風と慎太郎はお互いに幼馴染。さらには男同士、色々と気安く情報交換しているようだし、慎太郎が持ち前の悪戯心さえ起こさなければ大丈夫なはず。そう思っていた。
慎太郎はスポーツ万能な上にハンサムで、黙っていればいい男だけど腹黒だ。年上彼女の存在を疾風にすら隠している。
バレたら大騒ぎになるから周囲に隠しているのは仕方ないが疾風にまで話さないとは思わなかった。付き合ってた彼女が大学卒業して、うちの高校に新任教師として赴任してきている事。放課後に逢引している所を目撃して、それをネタに洗いざらい喋らせたから間違いない。
今回はこの情報を拡散しない事と引き換えに慎太郎に立案と協力を要請した。
「疾風が真琴の事を好きなのは間違いない」
「うん、好意はビシバシ感じとってる」
「ただ、まだ告白とか交際を急ぐ気は無いらしい」
「えっ?どうして」
「過去に告白して断られているし、その後たいした変化もなくここまで来てるから、大きな変化を望んでいないみたいだな」
「そんなメンタル弱い男じゃ無いでしょ?」
「そうだな。あんなシーンで告白するもんな、疾風」
過去の黒歴史を思い出しているのか慎太郎がクスクスと笑う。
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
「素直に真琴から告白すればいいだけじゃないのか?」
「嫌よ!」
慎太郎の提案を即答で却下する。
疾風から告白して来るべき。というか、一度くらいは好きな男からまともな告白をされたい。
これは全世界の乙女に訴えたい。異論は認めない。
「真琴ならそう言うと思ってたよ」
「なら何か他の案があるんでしょうね?」
「当然だろ?美千代とも相談して来た」
「篠原先生まで巻き込む気?」
「今回の作戦は美千代の許可もいるからね、内緒でやるととんでもない事になる」
慎太郎が肩をすくめて見せる。
「俺の大事な彼女だから大切にしないとね」
「惚気はいいから早く作戦の中身を聞かせなさいよ」
「真琴に彼氏が出来た事にする。それでぐずぐずしていたら大変な事になると思わせて、疾風に行動を促すんだ」
「彼氏じゃなくても。告白された事にするのじゃダメなの?」
「真琴、今年に入って何回告白された?」
「えっと、八回?いや九回だわ」
「それで疾風の態度に変化あったか?」
「無いわね」
悔しいが慎太郎の言う通りだ。
「だろ?それで最近わざとらしく言ってる『彼氏っていいな』とか『彼氏欲しいな』って発言に対する疾風の反応はどうだ?」
「全く変化ないわよ。何か文句あるの!」
「だから次は彼氏が出来た事にするしかないだろ?」
「そう簡単に彼氏役なんて居ないわよ!それとも紹介してくれるの?」
言い終わる前に慎太郎が自分を指差す。
「俺と付き合った事にすればいい。もう、美千代の許可は取ってある」
***
慎太郎と交際する事になったと伝えてから一週間、その間、疾風の態度に変化は無かった。
相変わらず普通に接してくれ、遊びに行けば部屋にも上げてくれる。
今日も疾風の部屋に押し掛けた。
『最終手段だ。デートに誘い出して、その後に真琴の事をどう思ってるのか聞き出せ。なんなら真琴から告白しろ。俺に言えるのはそれだけだ』
慎太郎の言葉が頭の中で繰り返される。
デートに誘うにしても口実がいる。再来週が疾風の誕生日だから一緒に買いに行く事にしよう。
部屋の中でゴロゴロしている風を装い、スカートの裾からパンツがチラッと見えるポジションをキープし、さり気なく話題を振る。
「ねえ?来月の慎太郎への誕生日プレゼント、何がいいと思う?」
漫画から目を離さずに疾風が答えた。
「何でもいいんじゃないかな?」
「そんな事言わずに真剣に考えてよ」
私は可愛く口を尖らせて拗ねたふりをする。
「慎太郎と付き合い出して初めての誕生日だから、しっかりとした物を贈りたいのよ」
ここでやきもち焼かないならどこで焼くの?男でしょ?
「はあ、そもそも真琴が慎太郎と付き合うとは思っていなかったからね。今も実感はないんだ」
疾風の口から溜息が出た。やった!勝った!
「あら?慎太郎取られて焼いてるの?それとも私かな?」
「はいはい、ご馳走様。彼氏なんだから直接欲しい物聞けばいいだろ?」
他人行儀な返事が返ってくる。このチャンス、逃がさないからね。
「ええ、恥ずかしいよ」
「恥ずかしい?」
「何よ?乙女が恥じらったら悪いの?」
「自分で乙女と言うのも図々しいよな」
「そんな女相手に告白して来る物好きもいるのよ?」
乙女になる前の私に告白した疾風の告白はノーカンだからね。黒歴史として封印してる。
「きっと慎太郎からの告白が無かったら誰とも付き合わないままだったと思うの」
珍しく疾風からの反応がない。効いてる?
「案が出せないなら身体で償って貰うわよ。明日暇でしょう?ショッピングに行くから付き合いなさい!勿論、嫌とは言わせないけど」
「わかったよ」
仕方なさそうに疾風が答える。やった!これでデート確定だね。
***
翌日、二人は家から三駅隣の繁華街にいた。
「身体で、ってモデルしろって事か!」
本人で確認しなくてどうしろって言うのだろう?
「当たり前でしょう?荷物持ちは言わなくてもさせるつもりだったし」
「はいはい、仰せの通りに。で、どの店から見て回るの?どうせこれだ!ってのは決めてないんだろ?」
流石はよく理解しているわね。なのに告白待ちしている事に気付かないのはなぜなの?
「服かそれに合う小物関係が良いかな、って考えてるんだけど。どれが良いかは現物見て決めたかったから」
「直接本人と一緒に回れば良かったのに。恋人とのデートってそういう物じゃないのか?」
だから疾風と来てるんじゃないの?鈍いわね。
「じゃあ、今日の疾風は慎太郎の代わりね。しっかり代役務めなさいよ」
代役の代役って、裏の裏で表みたいになってるわね。
最初に入ったのは帽子の店。その次はサングラス。その次の次はアクセサリー、Tシャツ、靴下、靴、、、
結局、最初の店のハンティング帽にした。
「結局それにしたのか?」
「うん。似合うと思って」
「そうだな。似合うといいな」
「えへへ」
実際に帽子を被っている姿は格好良かった。いつもの二割り増しで格好良い。プレゼントした時の疾風の様子を想像したら頬っぺたがニヤついて止まらなかった。
「さあ、お腹も空いたし飯でも食べるか?」
「私、行ってみたい店があるんだ。行こうよ!」
「どこにあるんだ?」
問う疾風の手を握って私は歩き出した。
へへ、暖かい。
***
疾風を案内した店はカップルに人気のお店だった。もちろん私たちもカップルだから堂々と順番待ちの列に並ぶ。
「場違いじゃないか?」
「黙っていれば勝手にカップル認定してくれるわよ。それとも私じゃ不服なの?」
「滅相もない!光栄です」
「ここのパンケーキが評判なんだって」
パンケーキと共に疾風の好きなガレットも評判が高い。今週までの苺のガレットは売り切れ御免の人気商品だ。
二十分ほど並んで席に案内される。
「じゃあ、私は季節のフルーツパンケーキにする。疾風はまた変なの頼むのでしょ?」
「苺のガレット!今週で終わりだって。ラッキーだった」
「やっぱりそれを選ぶのね」
下調べした甲斐があって良かった。ホッとする。
「当然だよ」
幸せそうな顔で疾風がガレットを食べる。普通カップルって食べさせ合いっこするものじゃないの?
まだ付き合ってないからそれは我慢する。疾風とガレットを半分こするのだ。
「ずいぶんと美味しそうに食べるわね。少し分けなさい」
疾風のガレットに手を出す。
「あら美味しい!苺との酸味が絶妙だわ」
「だろう?」
「じゃあ、交換しましょう」
そのまま交換する。恋人同士なら当然よね。
「本当に美味しい!」
私の疾風から奪い取ったガレットを美味しく味わった。
***
「どうしたの?電話?」
トイレから戻ると疾風がスマホをしまう所だった。
「ああ、慎太郎から」
「慎太郎?」
しまった。思わず血の気が引く。
慎太郎には今日は疾風とデートだと見栄を張っていた。強引に誘い出したけど実質はデートだからおかしくないわよね?
「別にたいした用事じゃなかったよ。暇なら遊びに行こう、って誘いだった」
「そう?それならいいけど」
慎太郎、疾風に変な事吹き込んでないといいけれど。
「ああ」
***
食後の散歩も兼ねて二人でぶらぶらと歩き、予定通り最初に疾風から告白された公園に到着した。
「小学校以来かな?」
「うん?何が」
「ここで疾風に告白されたんだよ」
「ぶふっ!?」
黒歴史を思い出したのか、疾風が壮絶に咽せる。
「疾風は忘れちゃったの?」
「覚えているよ」
「そして次に告白されたのは中二の時だったわ」
「ぶほぉっ!?」
再び疾風が壮絶に咽せる。
「ははは、そんな事もあったね」
「今はどうなの?」
自分でも恥ずかしくて顔が赤くなってるのが分かる。
「今も真琴は大好きな幼馴染で、慎太郎の彼女だ」
「そっか、、、じゃあ、私も疾風の事が好きだって言ったらどうする?」
「嬉しいよ。単純に嬉しい。でも真琴は慎太郎の彼女だ」
「そう?」
やったー!両思いは確定。あとは告白してくれれば。
あれ?ほっぺたのニヤけが止まらない。まだ終わったわけじゃないから気が早い。あと少し踏ん張れ!
「もし、もしもの話だけど」
上目遣いでアピールする。大好きよ。
「慎太郎からの告白も交際も全部嘘だったとしたらどうする?」
「嘘?全部嘘?」
「うん、全部嘘だったら」
「嘘だったら、、、」
「もう一度告白してくれるの?」
「もう一度告白して振られて、そしたら僕はどうしたらいいんだろう?」
「そんな事考えてたの?」
「ああ」
「慎太郎と付き合う事になっても普段と変わらずに部屋に上げてくれてたのに?」
「ああ」
「てっきり私に興味無くなったのかと思ってたよ」
「そんなはずないだろ」
もう、焦ったい。この流れで言ってくれないのなら待つだけ無駄のようだ。仕方ない。
「じゃあ、今度は私から言うね」
「へっ?」
「私は疾風の事が好きです。付き合ってください」
「えっ?僕、二回も断られてるけど」
うん。黒歴史として無かったことになってるもん。
「あの時はまだ意識していなかったけど。好きだって気付いたから、三回目に告白されたらOKしようと待っていたけどなかなか言ってくれないし、こっちから仕掛けちゃった」
もう、全部バラす。当たって砕けろ。
「仕掛け?」
「うん、慎太郎にも協力してもらったよ」
「わかった。僕の返事はノーだ」
「そんな!」
当たって砕け散った私の恋心、、、無念。
「三度目も僕から言わさせてもらう。僕は真琴の事が好きです。ずっとずっと好きでした。勇気がなくて三度目の告白は出来なかったけど、改めて言います。僕と付き合ってください」
「ええっ?どうしようかな?」
ええい、死ぬほど驚かされた。本当に心臓が止まるかと思った!疾風の癖に!!
どうしてくれようか?素直に『はい!』って言いなくない。でも、、、せっかく待ちに待った疾風からの告白だし、、、
***
「ねぇ、母さん」
唐揚げを作ってる最中に娘、琴美が声を掛けて来た。
「耳にタコが出来るくらい聞いてるけど、三度目の告白でお情けで付き合ってあげて、足に縋りついてプロポーズされたから結婚してあげたって言ってるけど本当なの?」
「嘘じゃないわよ」
間違いなく本当の事だ。嘘は言ってない。
「娘の私から見ても母さんが父さんにベタ惚れなのがよく分かるんだけど」
「そんな事はないわよ」
これでも娘の前だからセーブしてるもの。人前で露骨に父さんへの好意が溢れ出てるわけがない。
「今だって作ってるの唐揚げでしょ?」
「そうよ」
「父さんの大好物の」
「たまたまよ。そんなに気になるなら直接父さんに聞きなさい」
そう、今日はたまたま唐揚げになっただけ。毎日、父さんの好物しか作ってないもの。
琴美がバタバタと足音を立ててリビングに去って行った。騒がしい子ね。誰に似たんだか。
「ねえ、父さん。どうして母さんに三度も告白して、足に縋りついてプロポーズしたの?もっと他に良さそうな人いたんじゃないの?」
失礼ね。母さんが父さんを他の女に渡すわけないでしょ?絶対にそんな事は起こらない。これからも。
「父さんが母さんの事を好きだからだよ」
リビングから愛しい人の声が聞こえて来た。
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