大好きだった幼馴染と幼馴染が付き合い出した
青空のら
大好きだった幼馴染と幼馴染が付き合い出した
ある日の事、いつものように暇だからと遊びに来た幼馴染を部屋に招き入れて、お互いにゴロゴロとしていた。
ふと女性雑誌を読んでいた幼馴染の楠瀬真琴が顔を上げて問いかけてくる。
「ねえ?来月の慎太郎への誕生日プレゼント、何がいいと思う?」
僕も漫画を読みながら答える。
「何でもいいんじゃないかな?」
「そんな事言わずに真剣に考えてよ」
真琴が拗ねて口を尖らせる。
真琴の彼氏の一ノ瀬慎太郎、僕、倉敷疾風の三人は小学校時代からの幼馴染だった。今更、幼馴染の趣味を知らないとか言われても困る。どれだけ幼馴染に興味なかったんだろ?
そもそもその前に僕の誕生日があるんだけどスルーされるの?
「慎太郎と付き合い出して初めての誕生日だから、しっかりとした物を贈りたいのよ」
昔から三人で集まって誕生会していたのに改めてしっかりした物と言われても困る。今まで適当な物を送っていたって告白されても困る。さらに僕が貰っていたプレゼントも適当に選んだ物だったのだろうか?僕は大事に保管してるのに。
「はあ、そもそも真琴が慎太郎と付き合うとは思っていなかったからね。今も実感はないんだ」
つい溜息が出てしまうのも仕方ない。
僕は小学校と中学校と真琴に告白してフラれている。『幼馴染に恋愛感情抱いた事ないの』と。それが高校生になった途端。先週、慎太郎から告白されると承諾しやがった。
顔か?やっぱり顔なのか?確かに慎太郎はイケメンでスポーツ万能だ。言ってて悲しくなって来た。
「あら?慎太郎取られて焼いてるの?それとも私かな?」
「はいはい、ご馳走様。彼氏なんだから直接欲しい物聞けばいいだろ?」
「ええ、恥ずかしいよ」
「恥ずかしい?」
この間まで、中学までは僕と慎太郎の前で平気でスカートに手を突っ込んでボリボリと腹を掻いていた癖に。恥ずかしいという感情があったんだ?
「何よ?乙女が恥じらったら悪いの?」
「自分で乙女と言うのも図々しいよな」
「そんな女相手に告白して来る物好きもいるのよ?」
ギク!暗に僕の事を言ってるのか?一瞬心臓が止まる。
「きっと慎太郎からの告白が無かったら誰とも付き合わないままだったと思うの」
真琴の中では僕の告白が無かった事になっているようだ。少し複雑な気持ちになる。
「案が出せないなら身体で償って貰うわよ。明日暇でしょう?ショッピングに行くから付き合いなさい!勿論、嫌とは言わせないけど」
腰に手を当てて僕を睨みつける真琴。その鼻の穴がピクピクしている。何か良からぬ事を企んでる時に出る癖だ。
僕は雑誌に視線を戻すと素気なく言った。
「わかったよ」
***
翌日、二人は家から三駅隣の繁華街にいた。
「身体で、ってモデルしろって事か!」
「当たり前でしょう?荷物持ちは言わなくてもさせるつもりだったし」
僕と慎太郎は背格好がそこそこ似ている。筋肉量まで似ているかと言われると否定するしかないが。
「はいはい、仰せの通りに。で、どの店から見て回るの?どうせこれだ!ってのは決めてないんだろ?」
行き当たりばったり、勘、インスピレーション第一で行動する野生の女、それが真琴という女だ。
「服かそれに合う小物関係が良いかな、って考えてるんだけど。どれが良いかは現物見て決めたかったから」
「直接本人と一緒に回れば良かったのに。恋人とのデートってそういう物じゃないのか?」
僕には恋人がいないからよく分からないけどね。
「じゃあ、今日の疾風は慎太郎の代わりね。しっかり代役務めなさいよ」
最初に入ったのは帽子の店だった。その次はサングラス。その次の次はアクセサリー、Tシャツ、靴下、靴、、、
いい加減回って疲れ果てた。真琴が満足するならそれで良いけど。
「結局それにしたのか?」
「うん。似合うと思って」
結局、真琴が買ったのは最初の帽子店にあったハンティング帽だった。確かに僕には似合っていたが、慎太郎に似合うかと言われれば微妙だった。
「そうだな。似合うといいな」
「えへへ」
帽子を被っている姿を想像したのか真琴が幸せそうにニヤけている。そんな顔もするんだな。
「さあ、お腹も空いたし飯でも食べるか?」
「私、行ってみたい店があるんだ。行こうよ!」
それは慎太郎と一緒に行けばいい。
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「どこにあるんだ?」
真琴に手をひかれて歩き出した。早くも料理を想像しているのか真琴はほっぺたを緩めてニコニコとしている。
幸せそうなら何よりだ。役得という事で、僕は真琴の手を握り返した。
うーん、ちょっと汗っぽいぞ。
***
真琴に案内された店は一人で入るのは勇気のいるお洒落な店だった。そもそも半分がカップル客だ。
「場違いじゃないか?」
「黙っていれば勝手にカップル認定してくれるわよ。それとも私じゃ不服なの?」
「滅相もない!光栄です」
下手な返事したら後で慎太郎に叱られかねない。
「ここのパンケーキが評判なんだって」
女子ってなんでパンケーキが好きなんだろう?僕はガレットの方が好きだ。
二十分ほど並んで席に案内された。
「じゃあ、私は季節のフルーツパンケーキにする。疾風はまた変なの頼むのでしょ?」
「苺のガレット!今週で終わりだって。ラッキーだった」
「やっぱりそれを選ぶのね」
「当然だよ」
あれ?真琴って僕の嗜好知ってたっけ?興味が無かったはずだけど?
運ばれて来た料理は美味しかった。他何店かでも似たようなガレットは食べているけれども過去で一番と言って良いくらいに美味しかった。
「ずいぶんと美味しそうに食べるわね。少し分けなさい」
僕の許可を待たずに当然の事の様に真琴が僕のガレットに手を出す。
「あら美味しい!苺との酸味が絶妙だわ」
「だろう?」
自分で作ったわけでも無いのに誇らしい気持ちになる。
「じゃあ、交換しましょう」
返事も待たずに真琴は自分のパンケーキと僕のガレットを取り替えた。
「本当に美味しい!」はむはむ
笑顔でガレットを頬張る真琴に僕は何も言えなかった。
***
「おう!デートは順調か?」
真琴がトイレへと席を外している時に慎太郎から電話が掛かって来た。
「何の話だよ?」
慎太郎へのプレゼントを買いに来ている事は内緒のはず。それとも真琴が直接慎太郎に話したのか?それはそれで意味がわからないぞ。
「あれ?今日は疾風とデートしてるって聞いてたんだけど違ったのか?」
「確認するけど、真琴の話か?」
「当たり前だろ?他に誰がいるんだ」
小学校、中学校と僕が真琴に告白して振られているのは慎太郎も知っている事だ。その上で真琴に告白して彼氏になった奴が何を言っている。
「真琴の彼氏は慎太郎だろ?真琴が他の奴とデートしてていいのかよ?」
「えっ?まだ、きちんと話ししてなかったのかよ。ヤバいな」
「何の話だよ」
「悪い!この話聞かなかった事にしてくれ、もちろん後できちんと説明するからさ。じゃあな!」
それだけ言うと慎太郎は一方的に電話を切った。
「どうしたの?電話?」
ちょうどトイレから帰って来た真琴が声を掛けてくる。
「ああ、慎太郎から」
「慎太郎?」
慎太郎の名前を聞いた真琴の顔色が変わる。内緒でプレゼント買いに来てるのにバレたらサプライズの意味なくなっちゃうもんな。
「別にたいした用事じゃなかったよ。暇なら遊びに行こう、って誘いだった」
「そう?それならいいけど」
「ああ」
***
食後の散歩も兼ねて二人でぶらぶらと歩いているうちに港の見える公園まで来ていた。
「小学校以来かな?」
「うん?何が」
「ここで疾風に告白されたんだよ」
「ぶふっ!?」
どおりで何か見覚えのある景色だと思った。小学校の遠足でこの近くに来た時に上がった遠足のテンションのまま、ここで真琴告白したんだった。真琴もよく覚えていたな?
「疾風は忘れちゃったの?」
「覚えているよ」
「そして次に告白されたのは中二の時だったわ」
「ぶほぉっ!?」
一体今から何が始まるんだ?慎太郎と仲良く付き合う為に僕との暗黒史を無かった事にするのか?
「ははは、そんな事もあったね」
「今はどうなの?」
真琴の頬が少し赤い気がするけれども自惚れる程、自意識過剰じゃないぞ。
「今も真琴は大好きな幼馴染で、慎太郎の彼女だ」
だから、諦めた。諦めたはず、、、
「そっか、、、じゃあ、私も疾風の事が好きだって言ったらどうする?」
「嬉しいよ。単純に嬉しい。でも真琴は慎太郎の彼女だ」
そう言って見つめた真琴の顔は、顔は、鼻の穴がピクピクとしている?なんだ?
「そう?」
気のせいか真琴の顔がニヤけている。
「もし、もしもの話だけど」
一息ついた真琴が決心した様に言う。
「慎太郎からの告白も交際も全部嘘だったとしたらどうする?」
「嘘?全部嘘?」
「うん、全部嘘だったら」
「嘘だったら、、、」
どうするんだ?もう一度真琴に告白するのか?そして断られたらキッパリとこの恋心を諦め切れるのか?どうなんだ?
「もう一度告白してくれるの?」
「もう一度告白して振られて、そしたら僕はどうしたらいいんだろう?」
「そんな事考えてたの?」
「ああ」
「慎太郎と付き合う事になっても普段と変わらずに部屋に上げてくれてたのに?」
「ああ」
「私が他の男の子と付き合うのも、疾風が私に告白して振られるのも同じじゃない?告白してくれないから、私に興味無くなったのかと思ってたわよ」
「そんなはずないだろ」
突然の思い掛けない展開に思考停止している僕は真琴の質問に深く考えずに反射的に答えていく。
「じゃあ、今度は私から言うね」
「へっ?」
見上げた真琴の顔は真っ赤だった。
「私は疾風の事が好きです。付き合ってください」
「えっ?僕、二回も告白を断られてるけど」
「あの時はまだ意識していなかったけど。その後で疾風の事が好きだって気付いたの。ずっと疾風からの好意は感じてたから、三回目に告白されたらOKしようと待っていたけどなかなか言ってくれないし、こっちから仕掛けちゃった」
「仕掛け?」
「うん、慎太郎にも協力してもらったよ。」
なるほど、それであの電話が掛かって来たんだな。
「わかった。僕の返事はノーだ」
「そんな!」
予想外の僕の返事に真琴の口から悲鳴が漏れる。
「三度目も僕から言わせてもらう。僕は真琴の事が好きです。ずっとずっと好きでした。勇気がなくて三度目の告白は出来なかったけど、改めて言います。僕と付き合ってください」
「ええっ?どうしようかな?」
顔を真っ赤にして僕を見つめる真琴の鼻はピクピクしていた。
***
「ねぇ、母さん」
リビングでくつろいでいると台所から娘、琴美の声が聞こえて来た。
「耳にタコが出来るくらい聞いてるけど、三度目の告白でお情けで付き合ってあげて、足に縋りついてプロポーズされたから結婚してあげたって言ってるけど本当なの?」
「嘘じゃないわよ」
ずいぶんと懐かしい話をしてるな。
「娘の私から見ても母さんが父さんにベタ惚れなのがよく分かるんだけど」
「そんな事はないわよ」
「今だって作ってるの唐揚げでしょ?」
「そうよ」
「父さんの大好物の」
「たまたまよ。そんなに気になるなら直接父さんに聞きなさい」
琴美がバタバタと足音を立ててリビングにやって来る。
「ねえ、父さん。どうして母さんに三度も告白して、足に縋りついてプロポーズしたの?もっと他に良さそうな人いたんじゃないの?」
足に縋りついて、って部分は逆だけどわざわざ訂正する必要もない。
「父さんが母さんの事を好きだからだよ」
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