第11話 陰陽の力
次の日の昼、午後1時ごろ。
朝には起きていたディンと先ほど目を覚ました浩輔が、ディンの部屋で何やら真剣な表情で話をしていた。
「あのさ父ちゃん、昨日の事なんだけど……。」
「竜太の暴走の事か?」
「うん…。」
話を切り出したはいいのの、中々質問が出来ないでいる様子の浩輔。
何とも言えない表情でもじもじしている。
「あれはな、まあ文字通り力の暴走。強すぎる潜在能力が、理性を飛ばしちまったんだ。」
「飛ばす……?」
「意識を失う事で、勝手に体が動いてたってことだ。」
「じゃあ、あれは竜がやりたくてやったんじゃないの?」
「そうだよ。それと、竜太は自分の力を怖がってる部分があるから。」
「だから……?」
「それが意識を失う事で形を変えて出てきちゃったわけだ、簡単に言うと二重人格だな。」
ディンが昨晩の状況を話していくと、わからない部分をゆっくりと聞き返す浩輔。
「だから、竜太は全く悪くないんだ。」
「そうなんだ……。」
「怖かったか?」
「え、うん……。」
率直に聞かれ、ためらいながらも正直に話す浩輔。
実際、あの時の竜太は恐ろしかった。
戦う事を知らない浩輔でさえ、異質な力を感じ取ったほどなのだから。
「そうだよな、俺も怖かった。」
「父ちゃんも?」
「ああ。」
ディンの言葉に思わず驚く。
あまりに普通に飛び出してきた言葉に、浩輔の目は見開かれる。
そのせいで、昨日感じた恐怖を忘れてしまうほどに。
「だって、潜在能力を全部使いこなした時の竜太は俺より強いだろうからね。」
「そうなんだ……。」
「ああ、暴走で理性がなかったから何とかなったけどな。」
昨晩の戦いを思い出しながらディンは語る。
もしも暴走による行動ルーチンに冷徹さが多大に含まれていたら、きっとあの時封印は出来なかっただろう。
ディンはそう考えている。
「まあでも竜太は悪くない、これだけはほんとだ。だから……。」
「だから……?」
「竜太を怖がらないでほしいんだ、竜太はみんなを傷つけようとなんてしないから。」
「でも、父ちゃんは……。」
ディンの言葉に疑問を浮かべる。
みんなを傷つけようとしない、というのはきっと守りたい人には手を出さない、という意味合いだろうと予測する。
しかし、事実ディンは昨晩目の前で腕を斬られている。
「あれは俺が悪い、力を怖がってる竜太に戦いを教えてたんだから。心のどっかで恨まれてても仕方がないよ。」
「そんな……。」
「いいんだよ。竜太の苦しみに比べたら、あんな痛みはまだまだだよ。」
当然のように語るディンに、浩輔は驚く。
覚えているだけでも腕を斬られ、話を聞くとその後も何度も斬られているのに。
竜太は悪くないと、言い切れる。
「僕は……、父ちゃんも悪くないと思う……。」
「どうしてだ?」
「だって、どうしても守りたいものがあって、ほんとはそれを竜に背負わせたくないってずっと苦しい思いしてきたんでしょ?」
「まあ、そうだな。」
「だったら悪くないよ、だってごめんなさいって竜にもちゃんと伝えてるんだし。」
少々短絡的な言葉。
だが、浩輔の想いを知るには十分な言葉。
真剣な眼差しで俺を伝える浩輔に、思わず笑みが零れるディン。
「ありがとな、浩輔。」
「ううん、僕の方こそありがとう、父ちゃん。」
「いえいえ、それで……。」
「確かにあの竜を見た時はすこし怖かったけど、僕なら大丈夫。今度何かあったら、僕にも手伝えること教えてね?」
出来る事などないのかもしれない、しかししようとしないよりはいい。
浩輔はそういう子だ。
「うぅん。」
「あ、起きた。」
「おはよう、竜太。」
「おはよう……、ってあれ?ここどこ?」
「俺の部屋だよ。」
「父ちゃんの……、えっと、あの後……。」
2人の会話がひと段落した所で竜太が目を覚ます。
眠そうな目をこすりながら、昨日の記憶をたどろうとする。
「えっと、父ちゃんに吹き飛ばされて、頭打って、それで……。」
「もしかして竜、覚えてないの?」
「うん……。なんか、父ちゃんにお腹叩かれたのは覚えてるんだけど…。」
「そこだけ覚えてるのか……。」
「なんだかとっても怖かったのも覚えてるんだけど、何があったの……?」
「あの後……。」
竜太の目がしっかりと覚めるのを待ち、事の顛末を語るディン。
めった刺しにされたことだけは言わず、力の暴走を止める為に一度すべての力を封印したことだけを伝えた。
「じゃあ、今の僕は力が使えないの?」
「そうなるな、それでこれからどうするかを今決めてほしい。」
「これから?」
「そうだ、怖かったっていう気持ちに素直になって、これからも戦うかそれとも力を封印し続けるか。」
「僕が戦わなかったら、父ちゃんはどうするの?」
考える前に率直な疑問を呈する竜太。
1か月前ともに戦うと決めたのに、今になってもう一度戦うかどうか決めるというのは、中々判断しきれないのだろう。
「俺は1人でも戦うよ、暴走の引き金をひいちまった以上、俺に決定権はないからな。」
「そっか……、浩はどう思う?」
「え、僕?」
いきなり話を振られ驚く浩輔、躊躇いがちに言葉を続ける。
「僕は……、正直に言うと戦ってほしくない、だってまた暴走しちゃったら危ないし、そもそも魔物と戦うのは危ないし……。」
その言葉にはもちろん、ディンも含まれている。
誰にも戦ってほしくない、それが浩輔の本音だ。
「そっか……。」
その言葉を聞いて、口元に手を持って行って考える竜太。
しばし、場に沈黙が流れる。
「もしもまた僕が暴走したら、どうなっちゃうの?」
「暴走はもうしない、もうさせないよ。」
「え?」
「これにはみんなの力も必要なんだけどさ、段階的に解けてく封印をかけて竜太の器に合った力しか出ないようにするつもりだから。」
「そんなこと出来るの!?」
質問に対するディンの答えに驚く2人。
そんなことが出来るなら、なぜ今までしなかったのか。
そんな考えが頭をよぎる。
「正直暴走は予定外だったし、俺1人の力で出来ることじゃないから。だから、今まで黙ってたんだ。」
「そうなんだ……。じゃあ僕達が手伝えば、竜は平気なの?」
「なら戦う!僕だってみんなを守りたいもん!」
「そうか、そうなると他のみんなにも聞かないとな。」
バツが悪そうに白状すると、驚きながらも答えを出す2人。
浩輔としては、もし戦うとしても傍にディンがいるから。
竜太としては、暴走の可能性を無くして戦う事が出来るから。
「でもほんとにいいのか?戦いとか、ほんとは怖いんだろ?」
「うん……、話聞いてちょっと怖くなった。でも今更父ちゃん1人に戦わせるなんて僕には出来ないよ。」
迷いのない答え。
暴走状態を覚えていたらこうはいかなかったかもしれない。
覚えていなかったことが幸い、といえるだろうか。
「わかった、じゃあみんなを集めて話をしよう。」
「そういえば、なんでみんな?」
「みんなのご先祖が関係してるんだ、それとみんなの力がね。」
「?」
竜太の不意な質問にさらりと答えると、浩輔が頭に?を浮かべる。
ディンはそれだけ言うと椅子から立ち上がり、部屋を出ていった。
残された竜太と浩輔の間に、少し気まずい空気が流れる。
「……、あのさ浩……。」
「僕なら大丈夫、確かにあの時の竜は怖かったけど、父ちゃんと竜を信じてるから。」
「そっか……、ありがと。」
浩輔の言葉を聞きホッとする竜太。
2人で一緒に部屋を出ると、子供達を呼んで回った。
「さて、みんな揃ったかな?」
「話ってなんだ?それになんでこの人たちまで?」
リビングにて集まった、子供達と大人2人。
「先に少しだけでも教えてくれないか?」
「そうだそうだ!俺も村瀬さんもいきなり電話掛かってきてと思ったら飛ばされて、びっくりしたんだぞ!」
「岩原さん、まあ落ち着いて……。」
大人2人、村瀬と岩原。
岩原もまた記憶の転写を行われており、前回の記憶があるから呼び出し自体は驚かないが、如何せん突然だった為戸惑っているようだった。
「ごめんごめん、まずは岩さんをみんなに紹介しないとな。」
「どうも岩原です、ディンにはいっぱい借りがあってな、なんかあったら手伝うって話をしてたんだ。」
「職業は弁護士、しかし人を信じすぎる性格がゆえに……。」
「ゴホン!そんなことはいいからディン、早く説明してくれよ!」
紹介しようとしたら先に自己紹介をし始める岩原を茶化すディン。
それに対し咳払いでごまかしをいれ、急かす岩原。
「じゃあ順を追って説明するからいったん全部聞いてくれ。」
そう前置きをしてディンは語りだした。
「まずみんなのご先祖……、正確には浩輔、祐治、大志、大樹、陽介のご先祖は陰陽師と呼ばれる人たちだったんだ。その人達は俺の先祖である竜神王ととある契約をしてたんだ。」
先代竜神王ディンと、その友であった陰陽師の関係。
世界分割前に知り合った2人は思想や信念が似通っており、すぐに仲が深まった。
そして世界分割の際。
陰陽師は軸の世界に残り、もしもまた魔物が現れた時には自らの末裔が竜神王の末裔の力となる様、自らの子供たちに呪術をかけた。
「まあみんなと俺たちは、ご先祖の契約で結ばれてるんだ、それで……。」
その呪術とは、転生と巡り合い。
陰陽師の子供は5人いて、竜神王の血を引くものが軸の世界に現れた際に必ずめぐり逢い、その王を手助けする力を与えるというもの。
「その力を封じた呪術を解く鍵を、俺たち竜神が預かったんだ。」
その時に、選択肢を与えられるように。
それは、竜神王からの願いだった。
使命による強制ではなく、絆による選択を願っての。
「だから俺たちは巡り逢った、それで今、その鍵を外すかどうかの話をしたいわけだ。」
「んー、それなら僕らがいるのはわかるけど、何で源太達まで?」
「まあ待ってくれ浩輔。実は1000年前デインの時にな、みんなのご先祖はとある王朝で陰陽師として居たんだけど、その時にその陰陽師を守護する人たちがいてな。」
浩輔の疑問をいなしつつ、話を続けるディン。
大人2人を含め、他の皆は話に聞き入っているようだった。
「その守護する人たちってのがえらく真面目な人達でよ、陰陽師が転生するとき、自分達も転生してまた守護を出来る様にってしてもらったらしいんだ。」
「もしかして、その守護する人達っていうのが……。」
「想像通りだよ源太。ここにいる4人は、その守護師の末裔達だ。」
「えー!?」
皆が皆、一様に驚きの声を上げる。
特に源太と雄也、村瀬と岩原の驚きは大きい。
子供達が特別な力を持っているのは理解していたが、まさか自分たちまで、という顔だ。
「封印解除のもう一つの鍵が、守護師の封印も同時に解くっていうものなんだ。」
「じゃあ、源太達も一緒にやらなきゃ、僕達はその封印っていうのを解くことが出来ないの?」
「そういうことだ。だから、集まってもらったんだ。」
浩輔の解説が当たっている事を伝え、皆を見回すディン。
それを聞いた8人は、皆各々考えにふけっている。
「みんなで決めて欲しいんだ。封印を解けば、みんなはそれぞれ本来の力を得る。だけどそれは……。」
「多少のリスクも存在する、という事か。」
「そう。でもまあ、そこは対策を考えてはある。」
「どういうリスクがあり、どう対策するんだ?」
村瀬はディンを見ながら問う。
魔物に対するリスクであれば当然全員が危険に晒される。
そして、村瀬が危惧していることはもう一つあった。
それをディンが思いついているかどうか。
「リスクは2つ、1つは魔物に関して。そこは、俺がみんなに守護魔法を掛けて魔物に気づかれない様に出来る。」
「もう一つは……?」
「村さんなら気づいてるだろうけど、人間に対するリスク。」
「人に対するリスク?」
「ああ。村さんと岩さんは知ってるだろうけど、前回は俺の正体がバレてから色々ひどかったから。力を持つってことは、人から変な目で見られるかもしれないんだ。」
真剣な顔で話すディン。
前回、力のせいで悠輔を失った。
それは重々承知している。
「それで、2つ目の対策とは?」
「力を使ってる時、みんなが誰にも見えないようにする。それなら噂は立っても、バレはしないはずだ。」
「しかし、それだけでは……。」
「勿論不安は残る。だからもう1つ、みんなに魔法を掛ける。」
村瀬から投げかけられた疑問を、あらかじめ予期していた様にスラスラと答えるディン。
無論わかっている。
誰かが口を滑らせれば、ばれる。
「所謂忘却術ってやつ。この話を聞いてない誰かが居るときに限って、力に関する記憶を封じるんだ。」
「なるほど。それなら誰かが口滑らせちまうこともないし、安心だな!」
話を聞いていた岩原が口を挟み、ぐるっと皆を見回す。
特に小さい3人は、それなら安心という顔をしている。
裕治と村瀬は難しい顔を。
源太と雄也はもはやついていけていない顔だ。
「しかし、その魔法は安全なのか?万が一……。」
「他の記憶が欠落したりっていうことはない。これは、もしもの時を考えて何度も試してるから。」
「試している?」
「ああ。不思議じゃないか?口滑りやすい岩さんや、子供達が今のこの状況を誰にも話してないことが。前の時もそうしてたしね。」
「そうだったのか……。」
「それって、僕等が信用ならないからってこと?」
ディンと村瀬の会話に、少し棘のある声色で横槍を入れる裕治。
確かに、学校にいたときなどは、ディンの事や自分達の秘密について考えたこともなかったからだ。
「そういうわけじゃないよ。」
「じゃあなんで?」
「お前達を守る為だ。」
「守るため?」
「ああ。前回、力の事がバレたせいで、俺は悠輔を失った。でも、それまでは一切誰かに危害が及ぶことはなかったんだ。」
裕治の質問に忌憚なく、しかし優しく答えるディン。
それを聞いて、裕治の言葉から少し棘がなくなる。
「みんなに内緒、かあ。なんか、騙してるみたいでやだなぁ。」
「こればっかりは仕方ないんだ。誰も彼もが、受け入れられるわけじゃない。」
「確かに、ディンさんの事悪くいうやつはよく見かけるからな。」
陽介が不満を口にすると、ごめんと手を合わせながら諭すディン。
それを聞いて、源太が学校での会話を思い返す。
「そういう時、なにも言わずにいられたのもその魔法のおかげ?」
「そうだな。不必要な辛さをみんなに持って欲しくなかったから。」
大志が口を挟み、ディンが答える。
その言葉を聞き、皆納得したようだ。
「……。で、なんで今になってその力ってやつの話になったんだ?」
「実は昨日な、竜太の力が暴走しちまったんだ。まだ特訓中で、扱いきれてなかった力が。それを竜太の成長と一緒に段階的に封印解除していくっていう術があるんだけどさ、俺1人じゃ使えないんだ。」
「それで昨日オヤジはボロボロだったのか。」
「実際俺より強いからな、竜太は。」
「へー。」
今更な気もする雄也の疑問。
ディンは、そこで始めて竜太の力の暴走を語った。
「待て、暴走したのに竜太は力を手放そうとは思わないのか?」
「はい。僕は、みんなを守りたいんです。」
「そうか……。ディンはどう思っている…かはこの話をしている時点で明白か。」
「そうだね。俺は竜太に決定権があると思ってるから、竜太がそうしたいならそうする。」
村瀬は竜太に疑問を呈し、竜太はそれに即答する。
目覚めてすぐディンにことの顛末を聞き、今この瞬間まで20分程。
その20分の中で、竜太の決意は強固なものになっていた。
「おいおい、それなら危ないだろ、なんで止めないんだ?」
「だって、俺の子だよ?頑固なのは十分わかってるよ。」
「それだってなぁ。」
「岩原さん、ディンの頑固さは折り紙つき。私たちがするべきは、否定ではなく協力だと思いますよ?」
「村瀬さんまで!全く、どうかしてるよ。」
おいおいと声を上げるが、村瀬とディンに一蹴され頭を掻く岩原。
しかし、内心ではわかっていた。
ディンは決めたら絶対折れない。
そのディンがいうのならきっと、竜太も言ったら折れないと。
「岩原……、さんの気持ちは最もだと思います。俺も、出来ることなら戦って欲しくないし。」
「だろう?」
「でも、竜太は今どうしようと戦うと思います。今までだって、そうだったし。」
「そりゃそうかもしれないがなあ。」
「俺は止めないし、協力出来る事があればなんだってやる。それが、みんなを守ってくれてる2人に出来る、せめてもの恩返しだから。」
「こりゃ困った、みんなそんな感じかい?」
源太の言葉に驚きながら、皆を見回し聞く。
皆、岩原と目が合うと、首を縦に振った。
「はあ、こりゃどうしようもないか。」
「ありがとね、岩さん。」
「仕方ねえよ。俺もそう思ってたところだし。」
「結局?」
「あたり前だ。ディンの頑固さはよーく知ってるからな。」
やれやれという感じの岩原に、ディンは笑顔を向ける。
「みんな、ありがとな。じゃあ、始めようか。」
「ありがとうみんな。村瀬さん、岩原さん、ありがとうございます。」
「いいんだよ2人とも。私達は皆、2人の役にたちたいんだ。」
「そうだよ!」
「そうだ!」
「今更だって!」
「僕等も役に立てるんでしょ!」
少し申し訳なさそうにする2人に対し、村瀬は優しく言葉を掛ける。
そして、その言葉に皆同調し、自らの意思を伝える。
「わかった!さあはじめよう!」
「おう!」
「って、どうすんだ?」
ディンの掛け声で盛り上がるが、雄也の?で笑いが飛ぶ。
まだ誰も、どうするか分かっていなかった。
にも関わらず、やる気まんまんだったからだ。
「とりあえず、庭に出てくれ。そこからはまた指示するから。」
ディンが手を一度打ち、指示を出す。
11人でゾロゾロと、広い庭に出た。
「えっと、それぞれ言った場所に立ってくれ!」
少しガヤガヤしている中、ディンは指示を始めた。
それぞれ立ち位置を決めて立ってもらい、自身はその少し外側に立つ。
「これでよし!」
指示が終わった時、10人は2人ひと組になっていた。
浩輔と竜太。
裕治と村瀬。
大志と岩原。
大樹と源太。
そして、陽介と雄也。
「今から色々起こるけど、絶対にそこを動かないでくれよ!」
「「はーい!」」
ディンは1つ注意をすると、左手を目の前にかざし、詠唱を始めた。
「我、竜神ノ王也。
今此処ニ六人ノ陰陽師ト四人ノ守護師有リ。
彼ノ者達、皆決意セシ者也。
今、彼ノ者達ニ与エラレシ力開放セヨ。
彼ノ者達ニ、在ルベキ力ヲ!」
「わあ!」
「すげえ!」
ディンが唱え終わると、10人それぞれを光の柱が包む。
そして、浩輔の柱から裕治の柱へ。
裕治から大志、それから大樹へ。
大樹から陽介へ地面を擦る様に一本の光が繋がっていき、最後に浩輔へと戻る。
「これって、星印?」
「お星様だぁ!」
描かれたのは五芒星。
「お、今度は僕達だ!」
続いて竜太を起点に、描かれた五芒星を覆う様に五角形が描かれる。
皆それぞれ反応こそしたが、動くなというディンの言葉に従っていた。
「これで完成だ!」
ディンが宣言すると、描かれた五芒星が一際強く輝き、消えていった。
それと同時に光の柱も消え、皆言葉を止めた。
「これで開放の儀式は終わり。ついでに、さっき言った魔法もかけたから、みんな利き手の手のひらを見てみてくれ。」
「あ、なんか書いてある!」
「五芒星と……、竜の頭?」
「それは力と魔法が正しく備わった証。消えたりしないから、こするなよ?」
皆の利き手の掌には、掌大より少し小さく五芒星が描かれており、その中には竜の頭をかたどった印が刻まれていた。
「それ、他の人には見えないから安心してな。さ、続いていこう!」
「続いて?」
「竜太の方をやっちゃおうって事。竜太は真ん中に立って、外側の四人は一旦離れてくれ。」
急かす様に指示が飛ぶ。
竜太は5人の中心に、守護師の4人は少し離れたところに固まる。
「じゃあ始めるぞ。みんな、頭の中でしっかり五芒星を浮かべてくれ。」
「はーい。」
五人が目を瞑り、五芒星を描くまで、少し待ってからディンはまた詠唱を始めた。
再び現れた五芒星。
その中心で、竜太は感じていた。
ヘソを中心として描かれた封印の印が、形を変えていくのを。
五芒星を囲う五角形が消え、竜太は自分の中で力が戻ってくるのを感じた。
少しして五芒星は消え、ディンは息を切らしながらしゃがみこんだ。
「父ちゃん!?」
「だいじょぶ、連続してやったから少し疲れた、だけだから。」
「……。お疲れ様、ディン。」
「はは、まだまだ戻ってきてねえな、こりゃ。」
先日の完全開放の後の封印解除。
多大な魔力と体力を消費する事を、続けざまに行ったのだ。
だいぶ回復したとはいえ、まだ完全に回復したわけではないディンにとっては、これが限界。
「少し休もうか。」
「そうだな、オヤジ、肩貸すぜ。」
「サンキュ、みんなありがと。」
雄也がディンに肩を貸し、源太と裕治が続く。
11人はリビングに戻り、先ほどの興奮を語り合った。
これでやっと……。
興奮している10人をみながら、ディンは思う。
これでやっと、デインを……。
全ての準備は整ったと。
皆の力を解放しなければ出来ない、もう1つの事が。
やっと、叶うのだと。
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