第12話 決戦の前

 同日午後4時。

 斜陽の差し込む坂崎邸。

儀式の後疲れきって寝てしまったディンが起き、皆を集め話をしようとしていた。

「みんな集まったか?」

「うん。村瀬さんと岩原さんも戻ってきてるし、全員いるよ。」

「そうか。じゃあ、みんな聞いて欲しいことがあるんだ。」

 魔力の消費をゼロにする為に作られた特殊な包帯で目隠しをしているディンが、話を始める。

今は少しでも魔力の回復に努めたい、という意志からぐるぐると巻かれた包帯は、まるで盲目の人間の様に見えなくもない。

 なぜ目なのか。

それは、五感の1つを封じる代わりに魔力の放出を抑えるという、デメリットがあるからだ。

「実は、みんなの力を解放したのには2つの意味があったんだ。」

「2つ?僕の力の封印と、もう1つあるってこと?」

「そうだ。前回の時には知らなかったんだけどな。」

「それって、何?」

 種明かしの様に話始めるディンと、それに突っかかる竜太。

子供達も、頭上に?マークを浮かべる。

「それには、陰陽師、守護師、守護竜と竜神王が揃っているっていう、面倒くさい条件があるんだけど、」

「父ちゃん、答えになってないよ…。」

「まあ慌てるな。」

「なあディン、それはもしかして。」

 親子の会話に村瀬が口を挟む。

その表情はとても険しく、その口調はとても強い。

「もしかして、デインの事か?それなら私は、協力しかねるよ。」

「あれ、気づくの早いね。」

「やはり当たりか。危険すぎる。」

「まあ待ってよ村さん。」

 目こそ見えていないが、村瀬の表情は想像がつく。

ディンは、一度諌める様に言葉を繋ぎ、続ける。

「そう。みんなの力が必要なのはデインの事。デインの封印を、解く事。」

「ダメだ!君は前回彼の手で!」

「だから落ち着いてよ村さん、らしくもない。」

「らしさの話ではない!君はこの子達を危険に晒し、自らの命を危険に晒す気か!」

「……。前者はのNoで後者はYesかな。」

 立ち上がり声を荒げる村瀬に、冷静に返すディン。

前回を一番よく知っている村瀬にとって、ディンのやろうとしてることはどうしても止めなければならない。

それが、声を荒げる原因だ。

「ディン!君は何の為にここにいるんだ!君がやってきたこと全てを、無駄にするつもりか!」

「違うよ、村さん。同じ結果にしない為に俺は今やろうとしてるんだ。」

「だったらなぜデインの封印を解く!封印を強化するならまだしも!」

「うるせえ!一旦黙ってオヤジの話聞いてろよ!」

「……!」

 荒れている村瀬に、怒鳴り声を上げる者。

皆がそちらを向くと、村瀬と同じく立ち上がり、拳を握りながら村瀬を睨む雄也がいた。

「君こそ黙っているんだ!これは、知っている者の話だ!」

「だからなんだってんだ!オヤジが違うってんだから、話ぐれえ聞きやがれ!」

「いい加減に……、」

「黙れ!」

「……!」

 怒鳴りあう2人の声をかき消し、一瞬で沈黙させたのは、ディン。

「頼むから、少し落ち着いて話を聞いてくれ。全部聞いてから、どうするかを選んでも遅くないだろ。」

「しかし……。」

「村さんの気持ちは痛いほどわかる。でも、頼むから俺以外に怒鳴るな。」

「……。」

「ここにいる子供達はそういうのに慣れてないんだ。雄也なんて、親から散々怒鳴られてた。それは知ってるだろ?」

 眉間に皺を寄せ、見えない目で村瀬を見つめるディン。

 村瀬にはわかった。

ディンの怒りが。

その怒りが、自身の怒りを萎めていく。

「……。すまない、ついカッとなってしまった。」

「ごめんな村さん。雄也も、ごめんな。」

「俺はだいじょぶだよ……。」

「雄也君、すまなかった。私は、ディンを止めなければならないと…。」

「いや、俺こそすんません、怒鳴って…。」

 雄也の怒りも萎んでいく。

2人はソファに座り直し、赤面しながら頭を垂れる。

「みんな、大丈夫か?」

「うん。」

「大丈夫。」

「いやぁ、村瀬さんが怒鳴るとこなんて、始めて見たよ。」

「俺も初めてだよ、それで……。」

 皆が怖がっていないかを声で確認し、全員の声が聞こえてから仕切り直す。

「前回俺はデインに負けた。未熟で、決意が鈍ったせいで。」

「……。」

 皆一度は聞いた話だ。

右腕を失くし、全てを失くした理由。

「それは、俺がデインと戦うしかないと勘違いしてたからなんだと思うんだ。」

「それ以外に方法があるって感じだね。」

「その通り。デインという驚異をなくす方法が、もう1つあったんだ。」

「それって、どんな方法?」

 浩輔が口を挟む。

含みのある言い方をするディンに対し、聞かざるを得ない、といった風だ。

「それは……。」

「それは……?」

「それは、デインの中の闇だけを切り、助け出す。」

「そんなことが出来るのか!?」

「出来る。今の俺になら。」

 驚きと疑問の声を上げる皆に対し、断言するディン。

 そう、出来るのだ。

今のディン・アストレフになら。

「それにはどうすればいいんだ?」

「順を追って話をしようか。まず、みんなの力を借りてデインの封印を解く。」

「……。」

「その後、俺がデインと戦って、心の剣で切る。」

「やはり、戦うのか……。」

「まあ、ね。」

 村瀬の問いに嘘偽り無く答える。

そして、その答えを聞いた村瀬と岩原が、やはりかと項垂れる。

「そっか、僕達の剣って、闇だけを切るんだっけ。でも、それじゃデインさんを傷つけちゃうんじゃ?」

「何も俺だけの剣で切るわけじゃないよ。そこは、現地に行ってから見せようと思ってる。」

「父ちゃんの剣だけじゃない?」

「そうだ。」

 うーんという感じの竜太。

黙って聞いている子供達。

項垂れたままの大人2人。

「頼むみんな。今の説明だけじゃ足りないかもしれない。でも、俺のことを信じて欲しい。」

「……。」

「もしもダメだと思ったら、今からでもほかの方法を考える。それが間に合うかは、わかんないけど。」

 皆に訴えかける。

信じてくれと。

「……。お父さん、負けちゃったら?」

「負けない。俺は、今度こそ決着をつける。」

「もしもうまくいかなかったら?」

「絶対に成功させる。俺はデインを助け出してみせる。」

「……、わかった。」

 大志が率直な意見をぶつけ、ディンは断言する。

「僕はお父さんを信じる。」

「大志……。」

「僕も!」

「僕もとうちゃを信じるよぉ!」

「俺も信じるよ、ディンさん。」

「父ちゃんがそう言ってるなら、仕方ないね。」

「オヤジのことだ、どうせ止めたってきかねえだろ?」

「みんな、父ちゃんのこと信じてるんだ。勿論僕も、信じるよ。」

「みんな……!」

 子供達が口々に賛成する。

それを聞いたディンの瞼から涙が溢れ、包帯を濡らしていく。

「子供達が信じてるんだ。俺達もディンを信じよう、村瀬さん。」

「……。仕方ない、か。」

「岩さん!村さん!」

 ため息混じりに賛同する2人。

子供達が危険を知って後押ししているのに、自分達が反対するわけにはいかない。

そんな心境が伺える。


「父ちゃん、みんな父ちゃんを信じてる。だから、絶対失敗しちゃダメだよ?」

「……、わかってるよ、竜太。絶対やりきってみせるさ。」

「じゃあ、決まりだね。」

 最後に竜太が賛同の意を伝え、皆の選択が終わった。

「そうと決まったら行こう!」

「あれ、父ちゃん魔力は大丈夫?」

「ああ、おかげさまですっかりだよ。」

 立ち上がり、包帯を外すディン。

皆を見るその瞳は、喜びと決意を称えていた。

「今から全員を同時転移で飛ばすから、靴履いて庭で待っててくれ。」

「「はーい。」」

 ディンが元気に指示を飛ばすと、各々立ち上がり、ゾロゾロとリビングを出て行く。

「……。みんな、見えてるか?今度こそ、俺はやり遂げるからな……。」

 首にぶら下げているネックレスを手に取り、1人呟く。

ディンの剣の宝玉と同じ色をした珠が、キラリと光ったような気がした。

「さあ、みんな準備はいいか!」

「おう!」

「行くぞ!同時転移!」

 5分ほどたって皆の準備が完了。

ディンの掛け声に皆拳を上げ、ディンは同時転移を発動した。

全員を囲う大きな魔法陣が形成され、輝く。

「わあ、すごい!」

「かっこいい!」

 小さい3人がはしゃぐ。

大きい子供達、大人2人は真剣な顔をしている。

 そんな11人の姿は、光と共に消え去った。

そして、広い庭には静寂が訪れた。


 三宅島、雄山。

活火山として活動している、警戒レベルAの火山。

 現在、噴火警報が発令され、島民のほとんどは島の外に逃げている。

そんな危険な山の頂上。

 ブクブクとマグマが煮えたぎる火口のすぐ近くに、11人は浮かんでいた。

ディンが到着と同時に清風を発動し、暑い地面から皆を離したのだ。

「僕達浮いてるー!」

「そんなことより、下!下!」

「あれ、ここって噴火しそう?」

「もしかして人間バーベキュー!?」

 はしゃぐ陽介と大樹、慌てる大志。

不安げな裕治と、冗談をかます浩輔。

「こんなところにデインは封印されているのか!?」

「これ、やばいんじゃないか!?」

「俺、焼けて溶けて死ぬのいやだぜ!?」

「あっついぞ、ディン!」

 疑問を投げかける村瀬、大志と同じく慌てる源太。

怯える雄也に、どこかずれている岩原。

「父ちゃん、危なくない!?」

「大丈夫、来い!」

 竜太の心配に軽く応え、ディンは左手を天高く掲げた。

「8柱の守護竜!」

 ディンが召喚の魔力を空に拡散させると、8つの召喚陣が空に浮かび上がった。

そして、そこから咆哮と共に8体の竜が現れた。

「あ、氷の竜だ!」

「ヴォルガロさん!」

「テンペシアとフラディアもいる!」

 それぞれ試練の時に接触した竜を見つけ、声を上げる子供達。

「ああ、とうとうこの時が来たのですね。」

「小童共!元気してたかぁ!」

「みんな、危ないところにいるね……。」

「全く、こんなとこに呼び出さないでよね!」

 名を呼ばれた4体の竜は、それぞれ挨拶代わりの声を出す。

「ここが現界……。」

「がはは、美味そうな岩石が多いのう!」

「皆さん、初めましてー。」

「……。」

 名を呼ばれなかった4体も、呼ばれた感想や挨拶の声を出す。

「始める前に、ちょっとだけ自己紹介させるか。みんなこっち来てくれ!」

 ディンは笑いながら、竜達を呼ぶ。

竜はその呼び声に応え、11人の近くにまでおり、その場で滞空する。

 その影響で、強く風が吹いていたが、ディンの魔力で11人に影響はない。

「まず、灼竜ヴォルガロ!」

「今日は随分小童が多いなあ、王様よぉ!」

「次に、雹竜ブリジール!」

「私、暑いところは苦手なのだけれど…。仕方がありませんわ。」

「3番目、莫竜テンペシア!」

「こんにちはみんな、今日はよろしくね!」

「4番目、濁竜フラディア!」

「ウチも暑いとこ苦手なんだけど!」

 今までに召喚したことのある4体をまず、召喚し、少し間を置く。

「ヴォルガロさん、元気だったぁ?」

「おうよ!小童も元気だったか!」

「こわっぱじゃなくて陽介だよぉ!」

「竜さん、こんにちは!」

「大志さん、お久しゅうございますね。」

「さんなんていいのに…。」

「テンペシアー!」

「大樹、会いたかったよ!」

「えへへ、」

「よ!ツンデレ!」

「源太!あんたまたそう言ってると、ウチの水で溺れさせるよ!」

「それより、ここの暑さ何とかしてくれよ!」

 それぞれ、見知った竜と挨拶を交わす。

 その頃、大人2人は。

「なんだか恐ろしいような、頼もしいような…。」

「竜ってあんなんなんですな!」

 と、始めて竜を見た感想を述べていた。

「続いて、閃竜ボルテジニ!」

「初めまして皆さん、私は雷を司る竜、ボルテジニと申します。」

 紹介をうけ挨拶をする竜。

丁寧な物言いは女性の様にも見えるが、声は低い。

英国紳士のような落ち着きを持った竜だ。

 この黄色い竜の周りの大気は帯電しており、むやみに触ろうとすると感電死してしまう程なのだが。

「次は岩竜、マグナ・マイン!」

「がはは、わしゃ岩を司る竜じゃけえ、美味そうな岩石見つけたらわしによこしてくれや!」

 しゃがれた声、ほかの竜より深いシワ。

そして、こげ茶色というのも合わさって、歳を感じさせる。

しかし食欲はほかに負けない、食いしん坊だったり。

「次!輝竜クェイサー!」

「みんな、よろしくね!」

 体から輝きを放つ竜、クェイサー。

口調と声の高さから、年頃の女の子といった印象を受ける。

「最後、暗竜カテストロ!」

「……。」

 紹介されても無言を突き通す。

闇より深い、深淵の竜。

 この竜、自己主張が全くなく、ディンすら声を聞いたことがない。

ただ、呼ばれたら応じる。

「これで全部だな!」

「なあなあ王様よう!全員呼び出したってこたァ、あれやんのかい!?」

「そうだ!」

「とうとう、デイン様をお助けする日が……。」

「ブリジール、泣いちゃダメだよー!」

「これが涙せずにいられますか!大体クェイサー、あなたはいつも!」

「お説教なら後にしようよジール。僕達は今、何をしに来たの?」

 感極まって涙するブリジールに茶々を入れるクェイサーと、説教を止めるテンペシア。

普段から交流を持っているかどうか、なんとなく察することが出来る場面だろう。

「続けてもいいかな?」

「どうぞー。」

「ゴホン。みんなに説明したけど、デインはここに眠ってるんだ。」

 そう言って下を指差すディン。

10人がそちらを見ると、火口という場所に似つかわしくない、石碑のようなものが1つ。

「あれはデインを封印した石碑だ。今からあれの封印を解く!」

「あの中で1000年も!?」

「ああ。でも、それも今日で終わりだ!」

 高らかに宣言するディン。

その声に、迷いはない。

「みんな、能力を開放したときと同じ様に散らばってくれ!」

「でも、どうやって!」

「おっとそうか、ごめん!俺が移動させる!」

 浩輔の投げた問いにうっかりという声を上げる。

そして、魔力を操り、能力を開放したときの様に10人を配置する。


「竜達よ!所定の位置についてくれ!」

 ディンが次の指示を飛ばす。

すると、滞空していた竜達がゆっくりと動き、10人を囲うようにして止まった。


「……。みんな、これから俺がいうことを絶対に守ってくれ。」

 全員の中心、石碑の目の前に降り立ち、先ほどまでとはガラリと口調をかえ、真剣な面持ちでディンは語る。

「これから、封印を解く。デインは、みんなが想像してるよりずっと恐ろしい姿だと思う。」

ひと呼吸おく。

「でも、信じて欲しい。デインは優しい子なんだ。だから…。」

 ディンは思う。

正直恐ろしい、一度破れた相手と再び対峙することが。

 しかし決意したのだ、助けると。

「デインが何をして、俺がどうなっても。デインを責めないでくれ!」

「……。」

「例え俺がボロボロになっても、絶対にデインを責めるな!」

 恐怖を吹き飛ばすように。

決意を新たにするように。

ディンは叫ぶ。

「俺を信じろ!信じて見守ってくれ!」

 叫ぶ。

自分の思いを。

そして、ディンは左腕を前につきだし、唱える。

「限定封印、第四段階開放」

 ディンが纏う気が、大きくなる。

力強く、しかしどこか優しさを感じる闘気。

 竜神が本来持つ、守護の力。

そして、封印を解く詠唱を始める。


 最後の詠唱を叫ぶ様に終えると、10人の周りを光の柱が覆う。

そして、力の開放の時と同じ様に、五芒星が現れた。

 続いて8体の竜を光の柱が包む。

そして、それぞれを光の線結び、最後にぐるりと円状に結ぶ。

 現れたのは八芒星。

11人の頭上、五芒星を包む様に発現した。

 その広さ、30m。

内側の五芒星も、直径25m程ある。

「なに、この感じ……。」

「なんか、怖い……!」

「全身が圧迫されるみたい……だ……!」

 石碑が光りだす。

それと同時に、大地が震え、空気がざわめく。

オレンジが映える雲1つなかったはずの空が、暗雲に覆われる。

「これほどまでに、恐怖を感じるのか!」

「あの時と、同じだ……!」

 10人を襲う恐怖。

 それは、本能。

今まさに石碑から現れようとしている者の、その闇が。

力を開放したとはいえ、人間である10人を蝕んでいく。

「これが、デイン様の!」

「なんてデタラメな闇の力だ!」

「……。」

 力を持つ竜達は、さらに強くその闇を感じる。

竜神の中でも強く守護の力を持ち、尚且つそれぞれ8つの属性の1つを司る竜でさえ。

その圧力には抗えない。

「竜陰術、多重絶界!」

 声が響き渡る。

ディンを中心に、3つの五芒星が展開される。

 それは、竜の外側、守護師5人の外側、陰陽師5人の内側で止まる。

「……、さっきまでの怖いの、感じない!」

 竜陰絶界。

それは、放たれる狂気や闘気からも対象者を守る。

「父ちゃん!」

「……。」

 竜太は気づいた。

もしも負けてしまった場合。

自分達をデインから守る為に、ディンは多重に結界を張ったのだと。

「父ちゃん!」

「竜太!なんかあったらお前と竜達でみんなをここから遠ざけろ!」

「嫌だ!僕も戦う!」

「竜太!お前の信念と役目を忘れるな!」

「……!」

 竜太は叫ぶ。

しかし、ディンの切り返しに言葉を失う。


 遡ること10分前。

「なあ竜太、少しいいか?」

「え?うん。」

 皆が庭で待っている時、ディンは竜太を呼び出した。

「竜太、お前は何の為に戦ってる?」

「いきなりどうしたの?」

「いや、聞いておきたかったんだ。」

「うーん。みんなを守るため?」

 ディンの質問の真意がつかめず、首をかしげる。

冗談で聞いているようには見えない。

 しかし、何の為に?

「それはお前の意思か、それとも使命だからか?」

「……。勿論、力を持ってる以上はっていうのはある。でも、僕はホントにみんなを守りたい。」

「そっか……。よし、行こうか!」

「……?」

 ディンは竜太の言葉を聞くと、どこか満足そうに皆の元に歩いて行った。

「……、……?」

 竜太は少し考えたが、結局真意をつかめず、そのまま皆の元に向かった…。


「いいか竜太!俺が死ねば2つ目と3つ目の絶界は解ける!」

「……!」

「それと、今いる場所から誰かが居なくなれば、この陣は消える!」

「それじゃあ、父ちゃんは!」

「だから、俺がもしも死んだらみんなを守れ!お前の守りたいものを守れ!」

 竜神の親子は叫ぶ。

負ける気はない。

 しかし、万が一。

自らが敗北したら、誰かが皆を守らなければならない。

「そんな、オヤジ!」

「お父さん!」

「お父ちゃん!」

「ディン!」

「ディンさん!」

 皆口々に叫ぶ。

そして、村瀬はディンの言葉を元に、陣を解こうとする。

 しかし……。

「ディン、お前の結界を解け!」

 動けない。

絶界を3つ張った意味。

 それは、誰かが途中で離れてしまわないように。

誰かが止めようとできないように。

「ディン!」

「……。」

「結界を解け!死に急ぐな!」

「ダメだ!俺の手で終わらせなきゃ、俺は絶対に後悔する!」

「だからって!」

「俺はもう後悔したくない!刺し違えてでも終わらせる!」

「ディン!」

 村瀬の悲痛な叫びは、しかしディンには届かない。

「オヤジ!こんなことやめろ!なんで……、なんでディンが死ななきゃならねえんだ!」

「……。勝手に殺すな馬鹿!」

「でも!」

「……。みんなを騙して、ほんとに悪いと思ってる。でも……。」

 雄也も叫ぶ、

叫びながら、絶界の内側の壁を殴る。

 そんな中、刻々と封印は解かれ、石碑の前に人影がうっすらと現れる。

「父ちゃん!」

「ディンさん!」

「やめろ!」

 浩輔と源太が叫んだ時、竜太は怒鳴る。

「竜!」

「父ちゃんは負けない!僕達は信じたんだ!」

「……!」

 拳を震わせながら。

しかし、竜太は怒鳴る。

「僕等が信じないで、誰が父ちゃんを信じるんだ!」

 信じる。

竜太は信じている。

父であり、王であるディンを。

 信じたい。

必ず、デインを助けるといった、ディンを。

「……。」

 一同は黙る。

そして祈る、ディンが無事に終わらせることを。

 人影はどんどんと濃くなり、最後には1人の人間の形に収まった。

全身黒の、中世ヨーロッパ風の服。

その上に、ボロボロになった黒いローブを羽織った少年。

 デインは再び世界に姿を現した。

ディンとの距離、およそ10m。


「……。」

「……。」

「……。」

 誰も言葉を発さない。

誰も言葉を発せない。

 いくら絶界の力で闇に晒されることがなくなっても。

ディンの目の前にいる少年が、ディンによく似た少年が、恐ろしい。

「……。1000年。」

「……!」

「長かった。我が封印を受け、長き時が過ぎた。」

「……、デイン。」

「長き時の中、我は熟考した。人の恐ろしさを、虚しさを、愚かさを。」

「デイン!」

「そして我は決断した。人を滅ぼし、世界を救おうと。」

 ディンの呼びかけに応える事はなく、1人言葉を重ねる。

その言葉は見た目の幼さに反比例するように荘厳で、恐ろしい。

「そして今、我は蘇った。のう、我が甥子よ。」

「なぜ、それを!」

「我は全知にして全能。守護者の存在など、とっくに気づいておったわ。」

「じゃあ、封印を解こうとしてたことも。」

「知っておったぞ、我が甥子よ。我を救おうとは、誠愚かしい。」

 ふとディンを呼び、見つめる。

その瞳は紅く、邪悪なものだった。

「愚かでも構わない。俺はお前を助ける!」

「はっはっは!出来るものならやってみるが良い!貴様を殺し、忌まわしき陰陽師を消し去ってくれようぞ!」

「そんなことさせるか!こい!竜の誇りよ!」

 ディンは剣を出現させる。

それを掴み、左半身を後ろにずらし、剣を真横に構える。

 ディンが最も戦いやすいと考える構えだ。

「それが貴様の心の剣か!よかろう、相手をしてくれようぞ!」

 デインは嘲笑う様に言い放つと、右腕を目の前にかざす。

「深淵の剣、竜の闇よ、現れよ!」

 そう言ったデインの目の前に、闇が集まる。

そして、ディンや竜太の剣と正反対の、黒く染まったバスターソードが現れた。

「竜の、闇……。」

「そうだ!貴様らの使う光などという脆弱なものとは違うのだよ!」

「……。」

 ディンは鍔に填っている宝玉を見た。

それは、黒く、どこまでも黒かった。

 いかなる光も吸い込み、消し去るような闇。

剣から、そしてデインから、闇が放たれているのをディンは感じていた……。

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