なにかが欠けている話

@bunnkatusurucoffee

淑やかに探す割れたガラス

 昔から、私は人より少し耳がよかった。

 初めて聞いたのは、3歳のころだ。少し年の離れた仲のいいいとこと遊んでいたときだった。


 その日は、そのいとこの誕生日パーティで私はそんないとこに些細なプレゼントをしたのだ。何でもない、近くの花屋で選んだきれいな花だった。

 渡した瞬間、何かが聞こえた。ポロン、まるでピアノを一鍵奏でたような。

 そう、ちょうどドレミの音階のソぐらいの高さの音が聞こえた。


 それからは、日中も夜も、ご飯を食べるときや寝てる時でさえも聞こえてくるようになった。

 どうやら、それは周りの人間がうれしさを感じたときや怒りを感じたとき、怖がってる時など感情が強く動いているときに聞こえてくるようだった。

 私は、それを心の音と名付けた。


 はじめのうちは、このまま一生誰かのの心の音が聞こえてくるんじゃないかと思い悩んだものだが、今ではなれたものだ。

 

 気にするだけ無駄、考えるだけ無駄。と、いつのまにか環境音の一部となってしまった。


 そんなある日のことである。

 私は、我が家の番犬シュナイダーを連れて日課の散歩に出ていた。いつも通りの大通りを曲がろうとした時ふと思ったのだ。

 少しだけ、遠回りして帰ろう。


 別に理由なんてない。人間なんて、特に理由もなくうごくものだ。

 私は、いつもは入らないちょっとした小道に入ったのだ。

 その道は、住宅街のようで、人一人が通る分には申し分ないが、普通乗用車は通れないような道幅をしていた。

 住宅街とはいっても、塀が高く。それによってできた陰には気持ちのいい風が吹いていた。

 

 パリン

 最初は、何か踏んだのかな?と思った。しかし、足元を見ても何も見当たらない。

 もちろんシュナイダーもだ。

 あたりを見渡していると、また音が聞こえた。


 パリン


 それは、ガラスの割れるような音で、ちょうど机の上からガラスのコップを落としてしまった時のような音だった。

 

 パリン


 また聞こえた。何の音なのだろうか。少し怖くなってきた。


 そこで、あることを思い出した。

 そうだ、私は心の音が聞けるじゃないかと。これは誰かの心の音なんじゃないかと。


 パリン


 もう一度聞こえた。

 あたりをぐるっと見渡す。やはり、そのようだ。これはおそらく、この近辺に住んでいるだれかの心の音なのだ

 それにしても、聞いたことのない音だ。ガラスの割れる音、これは一体どんな感情なのだろう。

 私は今まで、そんな心の音を聞いたことがなかった。


 

 その日は、そんなことをおもいながら私は帰った。

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