第15話 幼なじみと新しい友達

「はぁ……言わんこっちゃない……」


 頭を抱えたい気持ちになった。

 初凪は良い事を考えたといった翌日の昼休み。つまりは、昼食の時間。


「ね、蒼ちゃん。良い事考えたでしょっ!」


 どや顔の初凪からは、やっぱり私の発想って天才だった! みたいな考え方がにじみ出ていた。


「ねー、ぶっちゃけさぁ。西島君と瀬戸口さんってどんな関係なのよ?」

「……私も気になる」

「だよね~、あの無表情な西島があそこまで楽しそうにしてんだよ! 絶対に普通の関係じゃないっしょ!」

 

 現在、俺の席の周りにはクラスの女子が三人、集まっていたのだ。いわゆる女子同士で集まって派閥を作っているグループで、人数の多さが強さとでも言えばいいのだろうか? 


 姦しい、賑やか、女子っぽいという言葉が似合う。佐藤君グループのような陽キャ男子とだけ仲が良い女子とは違う。陰キャだろうが、陽キャだろうが分け隔てなく接する強キャラが集まった女子グループだ。


 一言でいえば、俺が最も苦手とする女子グループだ。


「あのさぁ、初凪?」

「ね、いい考えだったでしょ?」


 そんなわけあるかい!

 俺の想像してた何十倍もやばかったよ……普通に考えて、陰キャボッチにはきついだろ……ここが地獄か……。


「これだったら、私もクラスのみんなんと仲良くできるし、蒼ちゃんも友達ができる。それに、蒼ちゃんの良い所もたくさん知ってもらえるし、一石二鳥でしょ」


 ニシシと、快活そうに笑う初凪を見ていると何も言えなくなってしまった。まぁ、俺のためにやってくれたことなんだよな……流石に、人の好意に対して怒れるような性格はしてなかった。 


 そんなことよりもだ。


 俺や初凪は百歩譲ってもいいとして、三人はどうなんだろうか?

 チラッと、伺うとニヤニヤとした表情でこちらを見ていた。


「……………ん?」

「そーれーでー?」


それで? ああ、俺と初凪の関係ね……。


「普通の幼なじみだよ」


「「「ダウト」」」


即答……。 

しかも、めっちゃ表情が怖い……目が笑ってない。


「いや、本当にただの幼なじみなんだって、なぁ、初凪──」


暴君の幼なじみに同意を求めようと、横を振り返ったが、不服そうに頬を膨らませているだけだった。非常にご立腹であることだけは伝わった。


「ふーん、蒼ちゃんにとっては普通の幼なじみなんだ」


やけに『普通』を強調する初凪。

そりゃこっちだって、色々、言いたいけど、そしたらいろんな言葉バレちゃうだろ。

まぁ、グレーな範囲で言えば……。


「普通の幼なじみって言ったけど、俺にとって大切な幼なじみだよ。いつもありがとうな」


それこそ、誰にも渡したくないくらいにな。

その途端、分かりやすいくらいに初凪の表情がほころんだ。花が咲くような笑顔で、だらしなく口元が緩んでいた。


「もーう、蒼ちゃんったら……デヘヘ……仕方ないんだからな」

「……聞いた私達が言うのも何だけど、そういうのは別の場所でやってくれる?」

「……ん、激しく同意。独り身の私達にとってはきついものがある」

「二人ともめっちゃ仲良いじゃん!」


 三人の反応はそれぞれだった。


まぁ、この反応を見てる限り、嫌々、初凪に付き合わされているような感じでもなさそうなので、セーフか?


「あー、初凪が我儘言ったみたいで、悪かったな。けど、ありがとうな。こんな初凪だけど、これからも仲良くしてくれるか」

「うん、私も瀬戸口さんとは仲良くなりたいって思ってたしね。それに、いい加減、西島君のことだって歯がゆかったしね」


 三人の中で、普通の口調の榎本さんが、優しいことを言ってくる。


「……私もそう思ってた。流石に、佐藤君達は陰湿すぎる」


 静かにポツポツと話す吉河さんが、コクコクと頷いていた。


「だよね、二人が止めてなかったら、アタシが絶対に文句言ってたし!」


 一番、元気溢れる口調の内藤さんが手をグーにしながら力説してくれる。

 そうなのか……。

 俺が勝手に、バリアを張っていただけで、全員が全員、俺を悪く思ってるわけじゃなかったのか。俺も俺で、穿った目を見てしてたとうか、反省だな。

 それに、本格的に凪に頭が上がらなくなりそうだ……サンキューな初凪。


「蒼ちゃんは、不愛想かもだし、ちょっと生意気に見えるかも知んないけど、仲良くしてやってね。私がついてないとダメな奴なんだけどちょーいい奴だなから」

「おい」


 何やらイケメンなことを言う初凪だけど、色々と不服だったぞ。


「えー、逆でしょ。初凪ちゃんって呼ぶね? 初凪ちゃんが、西島君のこと大好きなだけでしょ」


 内藤さんがしたり顔で、初凪を伺う。


「……ふぇ?」


 予想外の返答だったようで、初凪の顔が真っ赤になっていた。


「そ、そんにゃわけあるかー!」


 頼むから初凪、そんなリアクションすんな! 

 何かこっちまで恥ずかしくなってくるから!

 お互いに顔が真っ赤になって、初凪の表情を見ることができなかった。


「……私も彼氏が欲しい」


 吉河さんの発言に、内藤さんもしみじみと頷いていた。別に、俺と初凪は付き合っちゃいねぇ……。


「そんなことよりもさ、どうして初凪ちゃんと西島君は弁当の中身が一緒なの?」

「……え?」


 やっべ、大事なことを忘れてた。

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